0004
<異世界2日目>
ピャーーーッ! フョロロロ…… ピャーーーッ! フョロロロ……。
妙な音で目を覚まし、外を見ると朝焼けが綺麗に映えている。美しい景色にも関わらず、妙な音というか声で起こされた。
まぁ……起きてしまった以上はしょうがない。部屋と自分を【浄化】の権能で浄化して部屋を出る。
【浄化】の権能以上に清潔にする事はできないと浄神から聞いている。顔を洗い歯を磨く以上に清潔になり直ぐに終わった。
「おはよう、随分早いね」
「おはよう、妙な声に起こされてね」
「あぁ、丸鳥かい」
「丸鳥?」
「村で飼っている鳥でね、飛べず走れず丸々と太る鳥なんだよ。宿の食事でも出してるし串焼きも丸鳥さ」
「ああ。あの肉」
「世話も簡単で楽だしエサも適当で良くて、放っておけば勝手に育ち卵も産む。いい鳥さ」
「ふ~ん……。これから屋台に朝食を買いに行って、その足でギルドに行くよ」
「なら鍵は置いていっておくれ」
「分かった。ここに置いとくよ」
異世界には丸鳥とかいう優秀過ぎる家畜がいる件。そんな如何でもいい事を考えつつ屋台に向かう。その道すがら、昨日寝る前に考えていた村全体の浄化を始める。
【浄化】の権能は、見ていても何をやっているかは比較しないと分からない。使用しても音も何も無い為、殆ど誰にも気づかれずに行使できる。
元々下界の浄化を頼まれている以上、小さな事からコツコツとやっていくべきだ。
村の中を浄化しつつ屋台で昨日と同じ人から、串焼きとパンのセット2つを大銅貨2枚で買う。昼食用はリュックに詰めて半分を食べながらギルドへと向かう。
カラン! カラン!
扉を開けると朝早いからか、受付以外は殆ど誰もいなかった。
昨日ミュウさんに聞いた話によるとギルドには仕事以外に、魔物の生息域や情報も張り出してあるとの事でそれを見に来た。
大体の傭兵は朝に確認して、村の入り口にある荷車屋で荷車を借りて狩りに出かける。血抜きした獲物を荷車に載せて帰ってくるのが傭兵の一日なんだそうだ。
俺も傭兵になったのでそういう暮らしをしようと思う。まぁ、暮らしというか、お金を貯めないと旅ができないので稼ぐしかない。
最終目標は下界の一定以上の浄化だが、そんなものは何百年、何千年かかるか分からないので気長にやっていこう。
掲示板を見ると仮称ゴブリンの情報があったが、名前はフォレストゴブリンだった。
俺がいた森にはコボルトやオークそれにフォレストウルフやフォレストベア、他にもビッグスパイダーやフォレストスネークなど豊富にいる事が書かれている。
村自体は林業で食べているらしいが、傭兵が狩る獲物が多くて豊かなのだろう。この肉体は記憶力も高いのか直ぐに覚えたので、村の入り口の横にある荷車屋へ行く。
「すみませーん。荷車を借りたいんですが」
「はいはい、一日大銅貨2枚ですよ。ただし壊した場合は銀貨1枚ですけどね」
「じゃあ、大銅貨2枚」
「どうも。返す時には洗って返して下さいよ」
「了解です」
荷車は小さなリヤカーと変わらない大きさだった。荷車を引きながら村の入り口へ行くと、他の傭兵達も出発する最中だったので少し待つ。
仕方なく待っていると、近くに居た傭兵から話しかけられた。
「お前さん、昨日訓練場で姉御と戦ってた新人か?」
「姉御? ……昨日ギルマスと戦ったのは間違いないが」
「やっぱりお前か! お前のおかげで儲かったから礼を言いたくてな。昨日はありがとう!」
「まぁ、儲かったなら良かった」
「おぅ! ……っと、そろそろ俺の番だ。じゃあな新人」
「そっちも気をつけて」
昨日俺の合格に賭けてた人か……。確か持ち逃げされかけていたが、どうやらちゃんと払われたらしい。
そんな事を考えていると俺の番がきたので、登録証を見せて入り口を出る。登録証があればお金を払う必要は無い。
村を出て昨日の道を逆に辿る。森の中の方が高く売れる獲物がいる為だ。
普通は見通しが悪く危険な森には実力が無いと近づかないのだが、俺は【念術】の【探知】が使えるので不意打ちなんかは一切受けない。
ある意味反則と言えなくもないが、使えるものは何でも使うのが俺のポリシーだ。
とはいえ【浄化】の権能はチートと言えるが、それ以外は努力で身につけたのだから文句を言われる筋合いは無い。一体誰に向かって言い訳してるんだろうか?。
いつの間にか森との境目に来ていた。本来は川の近くというのは血抜きに便利な筈なんだが、此処には俺しかいない。
他の傭兵達はどこに狩りに行ってるのか……。とにかく砂利や石があるものの、このまま川の傍を遡ろう。
真っ直ぐ遡っていると直ぐに魔物の反応があった。森の中に小さい反応が3つ、昨日と同じくゴブリンだ。森の中なので荷車の横に槍を置いて、左手に短剣を持ち右手に鉈を持つ。
俺は【闘気術】の【無音動作】と身体強化を使い一気に近づく。短剣で喉元を突き刺し、鉈で頭をかち割る。
ドス! ズガンッ! ドシュッ!
あっさりとゴブリン3体は全滅した。武器を浄化して、やるべき事をさっさとやろう。
まずはゴブリンの死体を持って川に移動しつつ【浄化】。さらに【水魔法】の【冷却】で死体を冷やす。その後【錬金術】の【抽出】を使い血抜きを一気にやる。
生き物に対して【錬金術】や【練成術】は使えない。ただし死亡後は使える。この差は精神と魂にあるらしい。詳しい話は忘れたが、神様がそんな事を言っていた気がする。
十分に血が抜けたら最後にもう一度【浄化】して荷車に載せる。魔物は心臓の近くに魔石という物があり、これが魔道具の燃料になる。
全て持って帰るつもりなのでわざわざ抜き取ったりはしない。解体所では魔石があれば、それも含む値で買い取ってくれるそうだ。
大半の傭兵もわざわざ解体して魔石を抜き取ったりしないらしい。所要時間およそ5分、この短時間で終わらせたのは凄いのではなかろうか?。
そんな風に自画自賛していると、血の臭いを嗅ぎ取って来たのか大きな反応が近づいてきた。
「グラァァァァァ!!!!」
でっかい熊、つまりフォレストベアだ。立ち上がって威嚇してくる姿は、およそ体長3メートル50センチ程か。
とはいえ怖くもなんともない。正直どっかの赤髪のジジイの方がよっぽど怖い。
前足を地面に下ろし、熊の通常ポーズに移行すると同時に、熊の目に対し槍を回転させながら抉り込む。
この肉体の素の能力かそれとも身体強化のおかげか、穂先はあっさりと目を越え脳を抉り熊は絶命した。
倒すより後の処理のほうが大変だなぁと愚痴りつつ、熊の処理を終えると荷車に無理矢理に載せ帰路に着く。
まだ昼にもなってないはずなのに村に帰るのか? と思いながら、身体強化を少し使い荷車を引く。熊が重いから仕方がない。
「傭兵なのに随分と早いな」
「熊が重くて一旦帰ってきたんだ」
「フォレストベアか! 早く解体所へ持って行け」
「熊だと何かあるのか?」
「フォレストベアは正しい処置を早めにしないとマズくなるんだよ。だから早く持っていきな。早い方が高く売れる」
「そうなのか。分かった、直ぐに持っていく」
昨日ギルドで解体所の場所は聞いている、というより村の入り口にある荷車屋の真正面だ。
解体所はシンプルで壁が無く屋根しかない。ただフックは大量に天井近くから垂れ下がっていた。裏に倉庫があり、倉庫には壁がある……まぁ、当たり前だが。
受付と事務所が解体所の右前にあり、そこに行く。
「すみません、買い取りをお願いします」
「登録証はお持ちですか?」
「はい。これです」
「お預かりします。査定お願いしまーす!」
横の解体所から職人の一人がやってきて査定を始める。どうやら熊の獣人の様だ。ゴブリンを見ても熊を見ても驚いているが、なんかあるのか?。
「どうやったか知らないが、随分綺麗に血抜きしてるね。フォレストベアは傷が恐ろしく少ないし、両方内臓が綺麗に残ってる。おまけにキッチリと浄化してある」
「内臓って、もしかして薬?」
「そう。フォレストベアの内臓は薬に、フォレストゴブリンの肉と内臓はいい肥料になるんだよ。それに骨も粉にして肥料に使われる」
「持って帰ってきて正解か」
「それに、これだけ綺麗なら査定に色を付けてもお釣りがくるよ。浄化してあるしね」
「浄化したら色を付けてくれるという事?」
「そりゃ当然さ。傭兵は浄化魔法が使える人が多くないからね。ウチだって魔法使いを雇ってるくらいだ」
「なるほど」
「フォレストゴブリンが一匹大銅貨3枚で、フォレストベアは大銀貨1枚だね」
「フォレストベアが随分高いがいいのか?」
「それでもウチは儲かるから問題ないさ」
「ならその額で頼む」
「あいよ! 後は受付で売却金と、買い取り証明の木札を貰うのを忘れないようにな」
「ああ」
登録証を返してもらう。売却金と買い取り証明の木札を待つ間に、荷車からゴブリンと熊を持っていった様だ。
解体所では既に解体が始まっている。荷車を浄化した後、その足でギルドに向かった。
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0004終了時点
金貨3枚
大銀貨6枚
銀貨7枚
大銅貨13枚
銅貨0枚
青銅の短剣
石の鉈
石の槍