0003
宿を出て傭兵ギルドを探す。理由は、神様に聞いたら世界を巡るなら加入しておいた方が良いと言われたからだ。
なんでも傭兵ギルドは多くの国にあるらしく、登録証は身分を保証してくれるらしい。根無し草の身分を保証してくれるのだから、ありがたい限りだね。
いわゆるゲームやラノベに出てくる冒険者ギルドの様なものだ。大した違いは無いのだが、狩ってきた獲物を買い取ってはくれない。買い取るのは解体所であってギルドじゃないそうだ。
ギルドでは仕事を請けられるのだが、やはり低ランクだとたいした稼ぎにはならないらしい。犯罪を犯すと強制的に除名され賞金首になると聞いたが、倒すと賞金が貰える……どうしようかな?。
村にあるギルドの割には思っていた以上に大きな建物だ。2階があって広いし大きい。一般人の命を守っているのは傭兵だと、そう言われるだけはある。
そんな事を考えながら傭兵ギルドの入り口を開ける。スイングドアじゃなく普通のドアだったので少しがっかりした。
カラン! カラーン!
目の前には役所のカウンターの様な所に座っている受付嬢が何人か見える。テンプレな冒険者ギルドの光景にそっくりだ、そっくり過ぎてテンションが上がる。
アホな先輩に目をつけられるテンプレに期待しつつ、一番端の頭の左右から羊の角が出ている受付嬢に話しかけた。
「すみません、傭兵登録をお願いします」
「はい、登録ですね。登録には銀貨1枚掛かります」
「銀貨1枚ここに置きます」
「では少々お待ち下さい」
受付嬢は奥へと行き何やらゴソゴソしている。恐らく登録用紙を探しているのだろう。見つかったのか直ぐに戻ってきた。
「この用紙に名前と年齢、そして特技などを記入して下さい。代筆は必要ですか?」
「いえ、必要ありません。字は書けるので」
神様との修行の合間に様々なことを教えて貰ったが、その中にはこの世界の常識も少しはあった。識字率が低いこの世界で、俺は学者並みの学があったりするが常識はあまり無い。
「はい、アルドゥラムさんですね。年齢は18歳で特技は魔法など? ……すみませんが、もう少し詳しくお願いします」
詳しくと言われたので【属性魔法】【浄化魔法】【錬金魔法】【練成魔法】【闘気術】を書いておく。
【念術】に関しては使える者が非常に少なく、使える者も念力を正しく理解していないので書かない方がいい。
ちなみに【属性魔法】や【浄化魔法】の【魔法陣】は、二重丸の中に六亡星。【錬金魔法】と【練成魔法】の【魔法陣】は、二重丸の中に五亡星だ。
【魔術】や【錬金術】や【練成術】などの、術といわれるものは魔法陣を必要としない。それは魔力の直接操作で現象を直接起こすからだ。
「さすがにこれは……。裏にある訓練場で見せて頂かないと登録はできません」
「分かりました、裏に行けばいいんですね」
「はい。こちらへどうぞ」
受付嬢の後ろをついていくと大きなグラウンドに出た。結構な人数が訓練中らしく大きな声が聞こえる中、受付嬢が一人の女性に紙を渡す。
「ギルドマスター。こちらは新しく登録に来たアルドゥラムさんなのですが……」
「ふーん、これは……んっ!? ………なるほどねぇ」
ギルドマスターと呼ばれた女性は20歳くらいの見た目で、身長は俺よりほんの少し低いぐらい。
銀色の髪で青い目をしている。額にも縦に裂けた様な形の目があり、その目は金色だ。
ポニーテールで褐色肌のその女性は、登録用紙を見た後こちらを見て驚いた。その後ニヤニヤしながらこちらを見てくる。
どうせ、俺が大ボラ吹きだと思っているんだろう。
「じゃあ、アタシと手合わせしようか? ついでに魔法も見せてもらうよ?」
「了解」
とにかく実力を見せるのが一番手っ取り早いので、戦うことに否は無い。ギルマスと向き合い正面から対峙する。
ギルマスが持っているのは訓練用の木刀というか、小太刀の様な物を両手に持っている。
「おい! あの新人の試験、ギルマスとの戦いらしいぞ」
「俺は新人の不合格に大銅貨3枚だ!」
「俺は大銅貨5枚だ!」
「おまえらダメだな! 俺は銀貨2枚だ!」
「「「「「おぉ~~~!」」」」」
どうやら賭けは俺の不合格が殆どらしい。まぁ、新人がギルドマスターに認められて合格貰うなんて、普通は有り得ないし当然だとは思う。
「では、………始め!」
ボボボボボッ!
受付嬢の声と同時に、即座に魔法陣を展開し魔法を放つ。使うのは【火魔法】初級の【火弾】だが、5個の同時展開は中々見られないだろう。
ちなみに【魔法】と【魔術】の違いは、魔法陣の通りに現象が起こるか、自分で現象を起こすかだ。つまり【魔術】の方が圧倒的に自由度が高い。
しかし【魔術】を隠す為に【魔法】を使わざるを得ない。【魔術】が使える意味ってなんだろう?。
【火弾】を放ちながら一気に接近し、相手に当たらない手前の地面に槍を振り下ろす。当然だが魔力と闘気の身体強化込みでだ。
ドゴォン!!
大きな音と土が飛び散った為か、囃し立てていた周りの観客連中は静まり返った。後ろに飛び、開始位置に戻って相手を伺う。
ギルマスが無傷である事が分かり胸を撫でおろす。当たるものは一つも無かったが、万が一はある。
とはいえ、ギルマスをやっている人だから問題ないと思っていたが。
「まぁ、これ以上はやらなくても合格だ。魔法の5個同時展開に、魔力と闘気の身体強化。身体強化はランク6でも、どっちかしか出来ない奴が多いんだけど……優秀だね」
「マジかよあの新人……」
「とんでもねぇ……」
「くそっ!」
「おい! テメェ! 賭け金持って逃げんじゃねぇ!」
「……あのバカ共は放っておいて、アンタ……えっとアルドゥラムは文句なく合格だ。中で登録証を受け取りな」
「俺の事はアルドと呼んで下さい」
「アタシはディアーナ。ダナと呼んでいいよ。………ミュウ! 新人を連れていって登録証を渡しな!!」
「はっ!? ……はい!」
驚きすぎて固まっていたらしい。受付嬢のミュウさんと共にカウンターへ戻る。
「こちらが登録証です。これから登録証とギルドの規約を説明しますが、良いですか?」
「はい。お願いします」
◆◆◆
登録証は木の板で手の平サイズ、俺の名前とランク1と書かれている。
ゲーム等とは違いギルドポイントの様なものは無い。どれだけ仕事を達成したか、どれだけ魔物や邪生を狩ったかで決まる。
当然だが、拠点を変えるとランクアップに必要な査定はリセットされるので、気を付けないといけない。
登録証は特殊な魔力インクで書かれている。その為、複製や書き換えは非常に難しく、複製や書き換えをすれば犯罪者となり賞金首になってしまう。
傭兵の中には、盗賊狩りと賞金首討伐を専門に行う者もいるらしい。
死亡した傭兵を見つけた場合、登録証を持ち帰る決まりになっている。死亡者の持ち物は、死亡者の家族と折半される為、持って帰れるなら持って帰ってきた方が良いとの事。
解体所に獲物を持って行った場合、傭兵なら持って来た獲物を書いた買い取り証明の木札が貰え、それをギルドに提出する。
その木札の情報はランクアップの査定に繋がるもので、それがないと狩りだけではランクアップできない。なので、必ず持ってくる様に言われた。
過去になんかトラブルがあったのだろうか? 異様に強く言われたので頷いておく。
なぜ傭兵なのか聞くと、かつて村や町に雇われて守っていた名残らしい。ただ、それだけでは生活出来ない者が多かった為、現在は狩りもするようになったとの事。
規約といっても地球の一般人なら普通の事だった。盗みや放火や殺人をするなとか、傭兵は自己責任だとか、そんな話だった。
それよりもランクの話に興味があった。最高ランクはランク15で、傭兵ギルドの創始者しか居ない。いわゆる一種の名誉称号らしい。
だから最高ランクは14となるが、現在ランク12が最高ランクとして存在し、それは聖王国の王女なんだそうだ。
サブマスターはランク7以上、ギルドマスターはランク8以上じゃないとなれない決まりになっている。
まぁ傭兵ギルドは荒くれの巣窟だろうし、実力がないと舐められてしまうから仕方がないんだろう。
◆◆◆
「これで説明を終わりますが、これからの活躍を期待しています」
「説明ありがとう、それとこれからよろしく」
傭兵ギルドを出て宿に帰る道に屋台が出ていたので見てみると、串焼きを売る屋台やパンを売る屋台があった。食事は外でとらなければいけないので、パンや串焼きを買って宿に帰る。
持ち帰りは葉っぱで包んでくれた。串焼き2本とパン一個のセットで大銅貨1枚と随分安いのだが、大きな物ではないからか。
この肉体は食事や水分をあまり必要としない。しかし、キッチリ食べないと怪しまれる為に食事をとる。
串焼きとパンで十分だし、水は魔術で出せばいい。宿に戻る途中で槍を確認してなかったのを思い出して確認すると、歪みが少しあったので【変形】で直しておいた。
「お客さん、おかえり」
「ただいま」
部屋に戻る際、帰った挨拶を誰かにするのは15年振りぐらいか? と考えたが、異世界だから無意味だと考えるのをやめた。
部屋に着き、部屋の中を【浄化】の権能で浄化する。自分の体や服、それに武具や持ち物も綺麗にし、食事をとって後は寝るだけだ。
その時になって気づいた。そういえばギルドで絡まれるテンプレが無かった事を。余りにもどうでもよかったのでさっさと寝よう。
一日が長いこの惑星では寝られる時間も長い。その事に感謝しながら眠りについた。
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0003終了時点
金貨3枚
大銀貨5枚
銀貨7枚
大銅貨8枚
銅貨0枚
青銅の短剣
石の鉈
石の槍