0035
今までよりも更に慎重に山を登って行く。ある程度ウロウロしながら調査をするも、餌不足などは見られない。レッドパンサーやソードグリズリーは、なぜ山を下りてきたんだろう?。
その辺りの原因が解明できないと村の安全が担保されない。その為の調査なのだが、ヒントすら手に入らない為に難航している。
「おかしいねぇ……。毎年と変わらない、としか言いようが無い」
「変わらないのに異変がある。おかしな事が起きてますね」
「案外、山で邪生が暴れてたりして」
「<邪生の喰らい合い>ですか? ありえないとは言えませんね」
「<邪生の喰らい合い>だとしたら、非常に面倒臭い事になる。出来ればお断りしたいねぇ」
<邪生の喰らい合い>とは、邪生が殺されて喰われ、喰った奴が新たな邪生となる。その繰り返しを<邪生の喰らい合い>と言う。
これの何がヤバいかと言えば、繰り返す毎にドンドン邪気を溜め込む事だ。限度はあるものの、邪気を溜め込み濃密になり続けていく。早めに討伐しないと、離れていても邪気に汚染されかねない。
それほどの邪気を溜め込む場合もあるからこそ、早めに対処しなくちゃいけない。集中して【探知】すると、範囲ギリギリの地点にソイツは居た。
「かなりの邪生が居る! この反応は初めてだ! 俺が釣ってくる!」
「アルド! ちょっと!」
「ダナ! 準備して待ちましょう!」
「しょうがないねぇ、まったく!」
俺は【探知】の範囲ギリギリに居る奴に、身体強化を使って一気に近づく。濃密な灰色のオーラが見えてきたら、ソイツは鹿だった。ただの鹿ではなく、角の先が全てナイフのように鋭い。
こいつはウィンドディアーだ! こいつが邪生になっているとは……。足が速く面倒な相手だとダナから聞いたし、上手く釣り出せるかは分からない。とはいえ、やるしかない。
俺は【土弾】を幾つか撃つが、全て回避されてしまった。やむなく【土弾】と【火弾】をばらまき挑発する。上手く数発当たると、こちらへ突撃してきた。
「ピィーーッ!!!」
どうやら怒ったらしい。上手く退却しながらウィンドディアーを引っ張っていく。邪生である以上は理性など無いが、本能は若干残っているらしく、今まで遭った邪生の中では慎重だ。
何とか二人の所まで引っ張って来れたが、ウィンドディアーは直ぐにシュラに狙いを定めた。しかし無駄だ!。
「【肉体浄化】【精神浄化】【魂魄浄化】」
ウィンドディアーの動きが止まる。どんどん【浄化】の権能の力を強めていき、神界の雰囲気に少し近くなった辺りでウィンドディアーは完全に浄化された。やっぱり安らかな顔をしてる。
「何て事………これほど神聖な……」
「知ってはいたけど………こんなに凄まじいなんて……」
「ふーっ……終わった。とにかく処理しないと」
ウィンドディアーの胸を切り開いて心臓を取り出す。ジジイが言っていた邪生の心臓の話を2人に伝えて、生の心臓を3等分に切って渡した。
2人は顔を引き攣らせていたが、俺が目の前で食べ始めると渋々食べ始める。一口でも食べると諦めもついたのか、2人は結構早く完食した。
「初めてがウィンドディアーの心臓で良かったと思うよ? 俺なんて初めてはオークだったんだ」
「オークの心臓ですか……」
「まぁ、何でもいいよ。強くなるなら耐えてみせるさ……」
「結構美味しいですよ?」
「アンタは血に慣れてるからだろ!」
ウィンドディアーの死体をリヤカーに載せ、一旦キャンプ地に帰る事になった。キャンプ地まで戻って来たので、各々自由に休憩する。
俺はウィンドディアーの解体をする事にした。【分離】を使って各部位に分けていく。角、皮、内臓、腱、肉、骨。内臓の一部は食べられないので穴を掘って捨てる
解体が終わったら浄化して、角と内臓以外をダナのアイテムバッグに入れてもらった。内臓を一口大に切り、塩を振ってフライパンで焼く。寄生虫などは【浄化】しているので問題ない。
焼き終わったら俺の椀に入れて3人で食べる。新鮮だからか邪生だったからか、ビックリするほど美味い。2人も気に入ったらしく直ぐに無くなってしまった。
うどんの麺を作り、ウィンドディアーの骨で出汁をとり寝かせる。これで昼の準備が終わったので、作りたかった刃物が作れる。まずは角を【分離】して【圧縮】し【変形】させて解体用のナイフを作る。
木は昨日のが余っている為、それを使い柄と鞘を作る。次に包丁を作り、こちらも柄と鞘を作って完成させた。まだまだ余っている角を使って作るのは、新しい槍の穂だ。
槍の穂の材質を変えるのは威力と切れ味の為で、ソードグリズリーの時に貫けなかった事が理由にある。生体素材なら多少強化しても問題は無い筈なので、奥の手として使えるようにしておきたい。
槍の穂を角で作り鋼の穂と交換する。形は全く同じだが随分軽いな……。仕方なく【分離】し、穂先を更に長く分厚くしていく。
大身槍一歩手前の刃長58センチで、やっと丁度いい重さになった。厚さも3割は増しているが、鋼の穂と重さは変わらない為、振って感覚を調整する。
「ウィンドディアーの角かい。良い物だね?」
「そうですね。角は余ってますよ?」
「あー、足りるかな?」
「アタシは長巻を」
「私はトンファーを」
オーダーされたので作成する。ただ流石に足りないので、骨を【圧縮】して芯に使い、外側を角にする事にした。問題なく完成し、2人は振って試している。
芯に圧縮した骨を使ったものの、重さは良いらしい。2人は【武器強化】の感触も確かめているが、中々良いらしく喜んでいる。
「【武器強化】が出来るとなると、魔力金属が欲しくなるねぇ」
「そうですね。魔銅の鉱床もありますし」
「魔銅か……。武器には魔鉄が欲しいトコだけど、贅沢は言えないしね」
「また妙な者に絡まれるのも嫌ですよ?」
「アタシも嫌さ。そうなると魔物の素材の方がいいかもしれない」
「竜は難しいですが、デスボーアの牙なら何とか」
「それか、アサルトタイガーの爪と牙だね」
「竜?」
2人に聞いてみたら、この世界には竜が居る事が分かった。竜という名の恐竜が! 別の意味でテンションが急上昇してしまったのは、きっと仕方がない事だろう。
恐竜が生きていると聞いて、テンションが上がらない奴は居ないだろう。この世界の恐竜とはいえ、恐竜が生きて動いているというだけで凄い事だ。
地球の恐竜に似た姿のものが多くいるのが分かり、いつか見に行く事を心に決める。
3人で話し合ったのだが、次は入念に準備してソードグリズリーを狩り、武器の素材にする事を決めて帰路に着く。
村に帰る際にダッシュボーアを狩って処理したが、それ以外には特に襲われる事も無く帰り着いた。
村に入り解体所に行って3人とも登録証を出したら、ダナがランク10だった事が判明。凄いな~と話していると、ベグさんとジャロムさんが来た。
「久しぶりだな、シュライア。村に来ていたのか」
「お久しぶりですね、ジャロム。ダナのギルドマスター辞任の為に来たんですよ」
「なのに、そのまま居るのか?」
「辞任の正式な認可書は、依頼を出して本部に届けさせています。特に問題はありませんよ」
「ふむ。ビッグアントの魔石とオーク3匹にゴブリンとコボルトが2匹ずつ、後はダッシュボーア。それにイエローボアだが、これは丸ごとではないな」
「まぁ、野営中に食べたからねぇ」
「成る程、それとこのウィンドディアーは邪生か? 肉と腱と少々の骨しか無いが?」
「角と骨はアタシ達の武器になったよ」
「狩った獲物の優先権は傭兵にあるからな……。全部で金貨3枚と大銀貨6枚だ」
「それでいいよ」
解体所に獲物が持って行かれるのを見送りながら、売却金を3等分し木札を受け取る。宿へ行ってリヤカーを置き、荷物をシュラのアイテムバッグに収納して貰った。
ギルドに着き、ミュウさんに手続きをして貰う。手続きを終えてギルドを出ると、もう夕日が沈む頃だった。
宿に戻って大銅貨3枚と銅貨3枚を払い食事を取る。
2階の部屋に戻り、やっと一息吐く。野営だったからか、体はともかく心が少し疲れている。ゆっくりしよう。
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0035終了時点
金貨10枚
大銀貨18枚
銀貨22枚
大銅貨12枚
銅貨3枚
風鹿の角槍
鋼の脇差
鋼の十手
石斧
黄蛇の牙の打刀
オーク革の鎧
革と鉄の肘防具
革と鉄の膝防具
革と鉄のブーツ