0031
とりあえず報告から始める。話しがぶっ飛んだまま帰ってこなかったからな。洞窟の最奥に魔銅の鉱床があった事と、鼻が曲がるほどクサかった事を報告する。
「臭いの報告は必要ですか?」
「俺だけがクサい目に遭うのは納得がいかない」
「はぁ……。まぁ、放っておけばマシになるだろうさ。それよりも魔銅が採れる事だよ。どれくらいあるのか調査しないといけない」
「この村で使う、都市に売る。どちらにしても大金が動きますね。……主様、何か?」
「その主様と言うのは止めて下さい。それより、真面目に出来るんですね?」
「私はずっと真面目ですよっ!?」
「あ~……、アルド。シュラは吸血鬼族なのさ。それも真祖と言われる最高位の吸血鬼なんだよ」
「最高位……」
「はい。真祖は”血の匂い”で相手の事が分かるのです。主様のように”ピュア”な方は初めてで、少々興奮してしまいました」
「少々……?」
「まぁ……アレでも少々だと思うよ。シュラも不老長寿なんだ。同じ不老長寿の”良い男”が目の前に居れば、そうなるものさ」
「あぁ……どうりで。それで、さっきまでと態度が全然違うんだな」
「アルド。ギルドからギルマス変更の許可が出る。その話を朝にしただろう?」
「ああ」
「その許可書を持って来たのがシュラなのさ」
「それで、何であんな騒ぎに?」
「アタシが”良い男”をつかまえたのが、気に入らないってこと」
「何で? 別にいいじゃないか」
「そうなんだけどね。さっき言った通り、お互い不老長寿なんだ。死に別れで、アタシが傷つくって思ったんだろうさ。こう見えてシュラは優しいからね」
「べ、別に。そんな事は……」
「凄い照れてるな。結局ギルマスを辞める話はどうなったんだ?」
「それが、まだなんだよ」
「ゴホンッ! ここに許可書があります」
「早く出してれば、恥ずかしい思いもしなくて済んだのにねぇ……」
「うるさいですよっ! ……傭兵ギルド、ランク11シュライア。ルーデル村ギルドマスターであるディアーナの、ギルドマスター辞任を正式に認めます」
「正式の受理、感謝致します」
「続けて、ルーデル村サブマスターであるヴェリウシャルトの、ギルドマスター就任を正式に認めます」
「正式の認可、感謝致します」
「……これで終わり。やれやれ、やっと手を離せるよ。ヴェル、後は任せたよ!」
「分かっています。ただ、何かあったら手伝って下さいよ?」
「しょうがないねぇ……。正式に依頼するなら考えるよ」
ギルマスを正式に辞任したダナは、嬉しいような、寂しいような、そんな顔をしている。色々な出来事が思い出されるんだろう、今はそっとしておこう。
そんな雰囲気を派手にぶっ壊す人物がいた。
「主様、私と”主従の契約”をお願いします」
「は? 契約? 何ですかそれ?」
「シュラ! アンタ正気かい!?」
「もちろん正気です。そして本気です」
「冗談………じゃ、無いんだね?」
「えぇ、貴女の方が分かるでしょう? ダナ。主様の本質を」
「はぁ……。これから2人の生活が始まるって日に……」
「申し訳ありませんね。ですが、退く事はありませんよ?」
「分かってる。いや、アタシも同じ立場なら退かないね」
「でしょう?」
2人はいったい何の話しをしてるんだ? さっぱり分からん。とりあえず水でも飲むか。そう思い、水筒を出して水を飲んでいると、また騒ぎが起きた。
「何ですか!? この神聖な気配は!?」
「!!! アルドは狩りに行きな! シュラ、アンタはこっちに来るんだよ!」
ダナはシュライアさんを引っ張って2階に上がって行った。まぁ、狩りに行けと言われたので狩りに行くか。登録証を返して貰いギルドを出る。
微妙な時間だが、リヤカーを牽いて森の拠点まで行く。森との境目にリヤカーを置いて探索を開始する。今回は真北に行こう。
鬱蒼と生い茂る木々の間を抜けながら進んで行くと、円形の小さな広場にコボルトの群れを発見した。8匹も居る以上は、ここで殲滅すべきだと考え一気に近づく。
右端のコボルトに回転突きを喰らわせ首を飛ばす。こちらを見て驚いているコボルトの群れに【閃光】を浴びせて目を眩ませたら、後は流れ作業だ。
始末し終わったコボルトを全て処理し、近くにあった蔓でコボルトの死体を繋ぐ。後は身体強化で纏めて引っ張るだけだ。
引きずって行く間に2度ほど蔓が切れたが、何とかリヤカーまで持っていき拠点を出る。
村に辿り着いた時には既に夕方だった。解体所に持っていき全て売ると、銀貨2枚と大銅貨8枚になった。売却金と木札を貰いギルドに行くのだが、もう大丈夫なんだろうか?。
悩んでも仕方ないので入り口を開けて中に入り、ミュウさんの所へ行く。
「登録証と木札です」
「はい、少々お待ち下さい」
どうやら何も無い様だ。そう思っていたら、ダナとシュライアさんが来た。
「アルド、今から一緒に宿へ行くよ」
「それはいいけど、手続き終わってから」
「登録証をお返しします」
「丁度、終わりましたね」
確かに丁度終わったな。なので3人で一緒に宿に帰る。特に言い合いをするでもなく、普通に宿に着いた。何か不気味だ……。
宿の裏庭にリヤカーを置かせて貰い食堂へと行く。夕食を3人分注文して大銅貨3枚を支払い、カウンター席に座って一息吐いた。
「今日はシュラさんが居るのかい? 珍しいね」
「トーカ、お久しぶりですね。元気でしたか?」
「えぇ、元気ですよ。ところで如何したんです?」
「隣のアルドさんに、ちょっと用がありましてね」
「ちょっとじゃないだろうに。トーカ、大きなベッドの部屋は空いてるかい?」
「空いてますよ。シュラさんが泊まるんですか?」
「アタシとアルドとシュラで泊まるのさ」
「ダナさん!? いいのかい?」
「良いも悪いもないよ。シュラは退く気が無いのさ。なら、しょうがない」
そう言っていると夕食が来たので食事にする。夕食後に大銅貨21枚を返して貰い、大きな部屋の10日分の宿泊費である銀貨3枚を支払う。
泊まっている部屋に荷物を取りに行き、荷物を2階の大きな部屋に移動させる。部屋ではダナが小樽を置いて待っていたので、【熟成】させると2人で飲み始めた。
シュライアさんが「美味しい!」と、少し前のダナの様に喜んでいる。俺が部屋の中を【浄化】の権能で浄化し始めると、2人は話し始めた。
「まずは説明を。吸血鬼族とは、古き時代に血神様と人間との間に生まれました。始祖は既に亡くなっていますが、私達真祖は2人残っていますし、極稀に真祖が生まれています」
「シュラは第一世代の真祖で、一番古い真祖の一人さ」
「吸血鬼族は強い力も魔力も持ちますが、邪気への耐性が低く、これを解消するのが吸血行為です。他の種族の血を僅かに飲む事で、邪気への耐性を一時的に強化できます」
「そうしないと、他の種族よりも簡単に邪生になっちまうんだよ。耐性が低いから頻繁に浄化しないといけないしねぇ」
「そして主従の契約は、血の提供者を1人に決めてしまう契約なのです。この契約は、1人に決める代わりに相手の血の力を強く取り込める様になる。そういう契約になります」
「その契約でのアルドの利益は、シュラが絶対の味方になる事だね。血の契約をする以上、絶対に裏切れない」
「何でそこまで俺と契約しようとするんだ?」
「主様の血が非常に”ピュア”だからです。その血は僅か一滴で60日は強化されるでしょう、契約すればそれ以上は間違いない。それほどの血なのは分かっています」
「それに、シュラと契約しないと他の吸血鬼から狙われるよ。絶対に」
「俺の血って、そこまでなのか?」
「そこまでです。吸血鬼の心を惑わせるのに十分過ぎる血なんです。主様の血を巡って、真祖同士の殺し合いが起きるでしょう」
「気持ちは分かるんだよ。一緒に生きられる最高の伴侶。それを見つけたら、躍起になるのは当然だからね」
「真祖同士で殺し合いなど面倒でしかありません。血の契約をすれば、契約者以外の吸血鬼に提供出来なくなります。血神様に叛逆するのと同じ事になりますから」
「……分かった。契約するよ」
今日の夜は長くなりそうだ。
▽▽▽▽▽
0031終了時点
金貨9枚
大銀貨13枚
銀貨25枚
大銅貨14枚
銅貨9枚
鋼の脇差
鋼の十手
鋼の槍
石斧
オーク革の鎧
革と鉄の肘防具
革と鉄の膝防具
革と鉄のブーツ