0200
次の修行と言っても、やる事は大した事じゃない。【空間把握】で眠っている奴を探して【心静】を使うだけだ。眠っているとはいえ心はちゃんと有る。無いのは意識の方だ。
なので寝ている間に【心静】を使う事によって、心はより良い休息をとれる筈だ。……そう、これ修行であり実験なんだよ。だからウチのメンバーには使えないんだ。
悪影響が出て、おかしくなっても困るからさ。まず、あり得ないとは思うけど、万が一が無いとは言えないし。だから実験をしておかなきゃいけない訳だ。唯の人体実験だがスルーしてほしい。
……よし、終わった。後は実験結果が出るのを待つだけだ。しかし、先行しなきゃいけないんだから、実験結果を確認出来るんだろうか? ……まぁ、出来ないなら諦めよう。
下らない事を長時間していたからか、夜が明けてきた。この世界は1日が28時間ほどあるから、夜番が思っているより長いんだよな。そういう世界だけど、夜番には慣れない。
とりあえず、夜が明けたから朝食を作るか。小麦粉と塩と浄水を混ぜて練っていき、練り終わったら生地をアイテムバッグ内で休ませる。生地を休ませている間に今度は肉を切っていく。
肉を切り終わったら、塩と胡椒モドキを振り馴染ませておく。休ませた生地を【加熱】を使いフライパンで焼いていくと、発酵させていないナンの完成だ。怒られそうだが気にしない。
発酵させないとナンじゃないとか言われたら、ナンモドキです、と言えばいいか。ナンモドキと肉をアイテムバッグに入れて、後は起きてくるのを待つだけだ。……早速かい。
「おはよう。ダリア、カエデ」
「ニャ!」 「グルッ」
2匹は俺の横にピッタリ寄り添うように身を寄せて遊んでいる。どうもピッタリくっつく遊びをしているらしい。体の側面で、背中側で、腹側でピッタリくっついて楽しそうだ。
楽しそうだから野暮な事は言わないが、俺には意味が分からない。だが、2匹の楽しそうな姿を見ていると何も言えなくなってくる。……おっと、皆が起きた様だ。
「「「「「チュッ! おはよう、皆」」」」」
「おはよう、皆」 「ニャー」 「ガゥ」
「今日は朝食を食べてから、辺境伯領に先行だね。先行しなきゃいけない程に困ってるのかねぇ……」
「私達だけでも先行させるという事は、帝国側の斥候などが多いという事でしょうか? それとも、それすら把握出来ていないという事でしょうか」
「侯爵家の者が情報が届くのを邪魔していたのかもしれないわね。正確には、侯爵家じゃなくて帝国の間者だけど」
「それは、あるかもしれない。ここで王太子の軍の邪魔をしていたぐらいだから、思っているより帝国の侵略は上手くいっていないのかな?」
「どちらにしても、ここで話していてもしょうがない。私達は私達の仕事をすれば良い」
「そうだな。まずは朝食を食べて元気を付けようか」
俺は焼き場に薪を入れて火を着ける。肉を焼いていき、十分に焼けたら皿に盛る。まだ暖かいナンモドキと浄水の樽を出したら朝食だ。2匹には生肉と焼いた肉の両方を出している。
2匹はどっちも好きみたいで、生肉にも焼いた肉にも食いつくんだよな。ふと周りを見渡すと、いつも通りの視線があった。お前等傭兵なんだから自分で獲物を狩ってこいよ。
食事後に一息吐いていると、王女を連れた王太子がこっちに歩いて来るのが見えた。何か問題でもあったのか、それとも内容の変更かな。鬱陶しい護衛も引き連れて来たぞ。
「おはよう。すまないのだが、昨日妹が伝えてくれた内容を一部変更したい」
「おはよう。それは構わないが、どの部分を変更するんだ?」
「先行して遊撃をしてもらうつもりだったのだが、その前に辺境伯にこの手紙を渡して貰いたいのだ」
「手紙を渡すだけで良いんだな? ……了解だ。この手紙はキッチリ渡しておくよ」
「すまないな。実は伝令の中に間者が居てな。その者は捕縛したのだが、王軍の伝令だっただけに信用出来る者が分からん。もしかしたら、近衛の中にも入り込んでいるかもしれない」
「「「「王太子殿下!?」」」」
「そういった事もあり、アルドさん達に手紙を届けて頂きたいのです」
「それは構わないんだが、王国ってとことん内部の連中に足を引っ張られているな。搦め手は帝国の方が1枚も2枚も上か。ここに来て、味方も使えないとは」
「情けない話だが、認めるしかないな。流石にここまでとは思わなかった。金に転んだのか、元々帝国の者だったのかも分かっていないのだ」
「どういうことだい? まさか聞く前に自殺でも……ああ、その表情見ると当たってる様だね。妙に忠誠心の厚い……いや、脅されていたのかもしれないか」
「どちらにしても、真相は闇の中です。考えるだけ時間の無駄でしょう。それよりも、今後どのように対処するかの方が大事ですよ」
「そうなのだけれど、味方から裏切りが出るとなかなか落ち着かないものよ。治まるまで多少の時間は掛かるわ」
「その少ない時間で致命の一撃を受けかねないのが、戦争というものだけどね。戦争の推移を見ると、大抵は小さなところで勝敗が決まっているよ」
「戦争とはそういうものなのか……。しかし、小さなところだと気付かない事もあるのではないか?」
「姉上は一時、暇だからと言って戦争の研究をしていた事があるんですよ。その時に、戦争の勝敗は小さな所で決まった後、全体に波及する。そう言っていましたよ」
「そうだね。今でも変わってないと思うけど、その当時戦争を研究して出した結論はそうなんだよ。だから、小さな事を見逃しちゃいけない」
「戦うにしても、逃げるにしても、小さなサインを見逃すと勝敗が引っ繰り返る事もある。……こんな話はここまでにしておこう。この手紙は必ず辺境伯に届ける」
「頼む」
しっかし、戦争っていうのは確かに小さな事で引っ繰り返るんだよなー。近現代の戦争は違うが、古い戦争は確かにそうだ。日本三大奇襲と言われるのも、そういう形の戦だな。
川越野戦、厳島の戦い、桶狭間の戦い。全て引っ繰り返った戦いだ。どの戦いも負けた側は、負ける兆候、即ちサインを見逃した。その結果、大敗北を喫している。
戦は水物と言われるが、怖い、怖い。調子に乗らず、気を引き締めていこう。俺達は戦争する訳じゃないけど、だからと言って王国に負けてほしい訳でもない。だから頑張れよ。
さてと、そろそろ出発するか。俺は焼き場や焼き網、それにカマクラを壊して更地にした。皆に出発を伝えて身体強化をし、一気に駆けて行く。目指すは辺境伯の領都ファルートだ。
身体強化を使って移動しているので、昨日までの遅さとは一転して快適な移動となっている。皆も表情が明るい。やはり移動の遅さはストレスの原因だな。戦争だから仕方ないんだけど。
アレだ、快適な高速道路と渋滞の一般道みたいなもんだ。高速も渋滞するっていうツッコミは無しで。それぐらいに、遅いっていうのはイライラの元なんだ。
開放的と言うか、非常に楽になったのは間違いない。そうやって楽しく走っていると、前方にファルートが見えてきた。辺境伯の領地には、この領都しか人が住んでいる場所は無い。
辺境伯には王都からの支援もそれなりに入っている。その代わりに、国境とその周辺という狭い領地を持つ。領地の大半が、国境を守る為に手を付けられない深い森のままにしてある。
豊かな領地にしたいのだろうが、国境を守る事を優先しなければならないので振興策を執り辛い。天然の深い森は、それだけで高い防御力を誇る。
近現代でも地形は強敵なんだから、それを利用するのは当然だ。だがその所為で領地が発展しないというジレンマ。辺境伯って大変だ。ファルートを見ながら、そんな事を思った。
入り口の門番は物々しい雰囲気だが、登録証を渡して事情を説明すると領都の中に入れてくれた。
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0200終了時点
大白金貨1枚
白金貨2枚
大金貨14枚
金貨70枚
大銀貨92枚
銀貨66枚
大銅貨236枚
銅貨2枚
ヒヒイロカネの矛
ヒヒイロカネの小太刀
剣熊の爪のサバイバルナイフ
アダマンタイトの十手
二角の角の戦斧
王角竜の帽子
王角竜の革鎧
剣熊の骨の半篭手
真っ黒な指貫グローブ
王角竜の剣帯
王角竜の脛当
強打猪の革のジャケット
強打猪の革のズボン
真っ黒なブーツ
大型のアイテムバッグ