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この作品のBL・GLについては、あくまでも保険です。恋愛描写はありませんので、あしからず御了承下さい。
この作品は元々なろう作家さんの「自分が望む作品は、自分にしか書けない」というような言葉をキッカケに作者が書き始めた作品となります。
2024/4/29 初めて感想を頂きましたが、感想返しは一律いたしません。申し訳ありませんが、御容赦下さい。なお、感想はありがたく読ませていただきました。
「………ん?」
どうやら寝ていたらしい。左に寝返りをうち、起き上がろうとして床に右手をつくと床が真っ黒だった。
上を見上げると真っ白で、現実に存在する様な景色ではなかった。
「一体何処だよココ…」
「此処はいわゆる、神の世界と呼ばれる所ですよ」
「!?」
後ろから突然声を掛けられ、ビックリしすぎて声も無く驚いてしまう。
後ろを振り返ると、白い優しそうな女性の姿をした光がそこに居た。
その少し後ろに、紫の神経質そうな男の姿の光。赤いマッシブな爺さんの姿の光。銀のクールそうな女性の姿の光が人の形で佇んでいる。
思わず自分を見ると人の姿の光だった。記憶の中の自分に似ている事に少し安堵する。
その後、光が収まり人間の姿になった。何故か目の前の4つの光も。
「コレが【世界】に頼んだ【複製】。……役に立つのか?」
「直ぐに役に立つというものではないじゃろう」
「まずは教える事から初めましょうか」
後ろの3人が何か言ってるが、どういう事だ? 【複製】とは何なんだ?。
「皆さん落ち着いて、彼が困っています。まずは挨拶を、私は浄化を司る神。つまり浄神です」
「我は魔を司る神だ、いわゆる魔神である」
「ワシは闘いを司る神、つまり闘神じゃ」
「私は想念を司る神、念神と呼ばれています」
「これはどうも、自分は田中一郎。一郎と呼んで下さい」
神様との挨拶ってこれで良いんだろうか? などと考えていると話が進んでいた。
「では一郎と呼びます。あなたには色々と学んでもらう事になるのですが、まずは説明をします」
◆◆◆
浄神の説明によると、俺は<異世界転移>ならぬ<異世界複製>をされたらしい。浄神が言うには、異世界転移というものは神様でも【世界】でも不可能な事なんだとさ。
だから異世界転移じゃなく、異世界複製という形になるんだそうな。……よく分からん。長い話は聞く気にならないし、右から左に流れていった。
で、複製されたのが俺という事になるんだが、複製体に求めた条件は三つあったらしい。一つ目は性格が偏っていない事。二つ目は清濁合わせ飲める事。三つ目は孤独に耐えられる事。
一つ目と二つ目はともかく、三つ目は俺に与えられる肉体に関わる事の様だ。俺には、神様が下界に赴く際に使用する肉体が与えられる。
この肉体は不老長寿であるため寿命が存在しない。そのため孤独に耐えられる精神が必要らしい。
寿命が無い事を想像できないのでなんとも言えない。ちなみに複製は神様ではなく【世界】が創るそうだ。
神様には別の世界を覗く権限も、別の世界の生物を複製する権限も無いので、【世界】に頼み俺が複製された。
神様が条件以外に要望する事は出来ないらしく、俺が役に立つのか立たないのか解らず困っているそうだ。俺は神様以上に何も解らず困っているんだが……。
それ以外には、浄神の権能が少し貸し与えられ、使い熟す為の修行をするという事。それと、他の三神が死なない為の修行をつけてくれる事を聞いた。
「なんで複製を求めたんだ?」と聞いたら、「下界を掃除して欲しい」との事だった。よく分からないので詳しく聞く。
下界には魔物という生き物がいるそうで、魔物とは動物が魔力を多量に持つ事で変化したものになる。ゲームで出てくるモンスターと大体は同じらしい。
しかし、邪生と呼ばれる非常に厄介な生き物がいる。そいつらは邪気を多量に溜め込み、見境なく暴れ回り、浄化されるまで殺戮を繰り返すんだそうだ。
恐ろしいのが居ると思ったら、人間も邪生になってしまうらしい。
邪気とは精神や魂から出る物で、負の感情から生まれる。邪気が拡散されると魔力と結びつき、魔力と共に生物に取り込まれてしまう。
浄化魔法などで浄化できるのだが、溜め込む、又は一度に大量に取り込むと邪生になる。
生き物には元々邪気を浄化する能力がある為、日常生活レベルなら問題ないとの事だ。
下界の邪気を浄化する、これが”下界の掃除”らしい。説明されないと理解できない事を、一言で済ませようとしないでほしい。
ここまでの話で解ったが、俺が行く世界は魔法のあるファンタジーな世界らしい。神様が出て来た時点でなんとなく察していたが、リアルだと考えるとテンションは上がらない。
リアルな人生が、超簡単でチート持って俺Tueeeなんて有り得る訳がない。そもそも俺は複製なんだ、死んでもオリジナルは元の世界で生きている。
……しかし、異世界には責任だけ押し付けるクソ上司も、肝心な時に役に立たない同僚も、一々セクハラと煩いババアも居ない。
……オリジナルよ、俺は異世界で自由に生きる。だから地球で頑張ってくれ!!。
とにかく神様達との修行で、どこまで強くなれるかが重要だ。漫画やラノベにある、あっさり死ぬパターンにならない様に注意しよう。
◆◆◆
<浄神との修行>
「あなたに貸し与える権能は5つに限定しますが、それは神の権能が非常に強力だからです。あなたに貸す五つとは、【肉体浄化】【精神浄化】【魂魄浄化】【物質浄化】【空間浄化】となります」
「浄化が強力?」
「人間の肉体も、完全に浄化してしまえば病気等での死亡確率は跳ね上がりますよ?」
「た……確かに」
「まずは浄化の加減を学びなさい」
神界での修行は時間の感覚が全く無い。なぜならお腹も空かず、眠くもならず、トイレに行くことも無い。なぜかずっと集中し続けられる。
修行内容は難しいが、集中が続いてだんだん楽しくなってきた。必要な力を必要なだけ、言葉だけなら簡単だが力加減というものは想像以上に大変だった。
<魔神との修行>
「まずは知識からだ。魔法には魔法陣が必要なのだが、魔法陣には【物理魔法陣】と【魔力魔法陣】の二種類がある。【物理魔法陣】は紙に描いたり布に刺繍などを施した物。【魔力魔法陣】は魔力で直接空間に描いた物になる」
「物理と魔力……」
「どちらも一長一短あり、どちらが上と云う事は無い。まぁお前には【魔法】だけではなく【魔術】を覚えてもらうがな。それと【錬金術】と【練成術】もだ」
「え……魔術? ……錬金? 練成?」
「とにかく魔力の直接操作だ、やって覚えろ。感覚で使えるようになれ」
魔神は思っている以上に教えるのが下手だった。……あれか? 研究者タイプか? 一方通行が何度もあり、そのたびにイライラした。
<闘神との修行>
「よいか、一にも二にも肉体じゃ。体を動かす技術こそが最も重要なもの。基本こそが全てと心得よ!」
「基本こそ全て……」
「派手な見栄えだけの技なぞ本当の技ではない。それでは一つずつ基礎から教えてゆく。まずは体の動かし方と気の感じ方から!」
闘神はビックリするほど丁寧に一つずつ教えてくれた。闘気を扱う術は【闘気術】と呼ぶらしい。
魔神と闘神は普通は逆じゃないか? 闘神の教え方が非常に上手いんだが……。いや……良い事なんだが………なんかモヤモヤする。
ただ、途中ちょくちょく脳筋になるのが猛烈に腹立たしい。
<念神との修行>
「念というものは意思の力ですが、意思を伝える念力という物質か粒子が有ると考えて下さい」
「物質か粒子ですか?」
「えぇ、どこにでも存在するものです。あなたの元の世界にもあったはずです」
「知らないのですが……、発見されてない?」
「恐らく発見されていないのでしょう。本当に何処にでもあるものですからね。それはさておき、最初に覚えてもらうのは【念動】と【念話】になります」
「サイコキネシスとテレパシーですか?」
「似た様なものですが、【念術】は自由度が高いので固定観念は持たない方がいいでしょう」
念神との修行はひたすらに静かだった。神界はただでさえ音が少ないのに、修行中はほとんど無音だった。それが修行内容よりも辛かった。
▼▼▼▼▼
「さて、全ての修行は終えた様ですが。どうですか?」
「我の方は問題なく教え込んだ」
「ワシの方もあれ以上教える事は無いの」
「私も同じです」
「では、そろそろ下界に下ろしましょうか。あなた方が面白がったせいで、下界でいう所の300年ぐらい修行をさせてしまいましたからね」
「あの者が気づいておらぬのだから問題なかろう?」
「そうじゃな、それなりに楽しかったしのう」
「ですが、さすがにそろそろ下ろすべきです」
「一郎は、名を変えさせてから下界に下ろします」
「名は如何する?」
「新たな名は【アルドゥラム】です」
「成る程のう、ワシら神の言語で”清浄”という名か」
「良いのでは?」
「元より我は異論なぞ無い」
「では、下界に下ろします」
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うーん? 神様達が目の前に並んでる。これはアレか? そろそろ下界に下ろされるのか?。
「一郎、これから貴方を下界に下ろしますが、まずは貴方に新たな名を与えます。新たな名は【アルドゥラム】。私達神々の言語で清浄を意味する名です」
「急になんですか? 新しい名と言われても……」
「下界には貴方の元の国の様な、漢字の名を持つ者は居ないのです。それ故に名を変えねばなりません。それに神が名を与える事は、神の祝福でもあるのですよ?」
「普通ならば泣いて喜ぶ所なのだがな……」
「そう言われても……。まぁ、新しい名を名乗るのは問題ありません。俺は複製ですから、名を変えた方が良いでしょうし」
「そうじゃの。それに複製とはいえ、お主はお主じゃ。新しい名と共に新しい存在となればよい」
「ですね」
「では一郎、改めアルド。貴方を下界に下ろします」
「はい」
下界に下ろされる事よりも、新しい名を付けられて直ぐに愛称呼びなんだな……と下らない事を考えていた。
足元が魔法陣の様な物に埋め尽くされていく。長かった様な短かった様な神界での暮らしをぼんやりと思い出しながら、眩い光に目を閉じた。