0194
領都グリュウを脱出したんだが、後ろから大きな声と慌しく動く音が聞こえる。耳を澄ましてみると、宿から人が居なくなったと言っている様だ。どうやら監視者が踏み込んだらしい。
「どうやら、ギリギリだったみたいだな。監視していた奴等が踏み込んだようで、俺達が居なくなってる事に気付いたんだろう」
「それで騒いでいるのかい。既に遅いっていうのに……って言いたいところだけど、アルドが来てくれなかったらアタシ達もヤバかったかもしれないねぇ」
「流石に宿のような狭い場所だと、多勢に無勢となっていたかもしれませんね。まぁ、それでも本気でやればどうとでもなるでしょうが」
「そんな事をすれば、どれだけの人に迷惑を掛けていたか分からないわ。私達だって本気で魔法を使って抵抗していたでしょうし」
「私達5人とダリアとカエデで暴れていたら、ちょっと洒落では済まない惨事になっていたのは確実だろうね。主様以外の男に触れさせる気なんて無いよ、私は」
「容赦せずに殺す事だけを考えれば、それなりの人数を殺害出来るだろう。だが、全員が本気で戦った場合の破壊規模が、まるで予想できないのが怖いな」
「まぁ、このまま領都を離れて王太子と合流しよう。もしかしたらバカな奴等が侯爵抜きで事を起こすかもしれないが、ついていく奴は多くはない筈だ」
「侯爵が居なければ、ただの暴動だからね。大義も正義も何も無いとなれば、鎮圧の際に殺戮されかねない。一揆や暴動は鎮圧の為なら根切りが基本だからねぇ……」
「怒った民衆は怖ろしいとはいえ、そこまでいけば盗賊の群れですからね。壊し、奪い、犯すのが暴動や一揆ですから、根切りにしてでも止めるしかありません」
どこの世界でも、いつの時代でも、変わらない事は変わらない。中世の日本だって、農民は虐げられてはいたが、一揆となれば略奪と暴虐の嵐だ。やって良い事と悪い事はあるんだよ。
まぁ、それと兵士が暴れるのは全く違う事なんだけど、この世界も専業兵士は多くはない。町や都市を守る僅かな兵が専業兵士で、大半の兵は一時的に集められる一般人だ。
地球でも一部の国は別だが、大半の国は時代が進むにつれ農民を一時的に兵にしていた。日本でも源平辺りだと武士の一族郎党で戦をしていたが、戦国時代だと農民兵が主流となる。
こういう時代では当たり前とも言えるが、兵の統率なんて執れない。特にマトモな軍として機能しなくなった時に、一気に暴徒と化してしまう。退却時などは特に酷い事になる。
逃げるついでに村を荒らしたりするし、逃げている兵を殺して身包み剥いだりもする。どっちも滅茶苦茶だが、こんな事は普通の事であり、地球の歴史でも証明されている事だ。
今回は国境線での戦争なので悲惨な事にはならないが、侯爵領の兵がどういう動きをするかで変わってくるだろう。とはいえ、まずは王太子と合流するのが先だ。
皆も全力で身体強化を使っているのだが、どうしても1人の時よりは遅い。仕方がない事ではあるのだが、計算に入れておかないと妙な失敗をしそうで困る。
時間は掛かったが、それでも昼前にはクレの町に到着した。休憩と昼食を兼ねて、この町で少しゆっくりする。町の食堂に入り、昼食を注文して大銅貨8枚を支払う。味は普通だな。
昼食後、少しゆっくりしてから出発する。王太子達はどの辺りに居るんだろうか、場合によっては国境線まで間に合わない気がするんだが……。遅滞戦術にも限度があるしなぁ……。
「アルド、どうかしたのかい? なんだか浮かない顔をしてるけど……」
「辺境伯領に間に合うのか疑問があってな。このままだと、国境線よりこちら側に侵入されてしまうと思うんだが……。遅滞戦術にも限界はあるし、相手も対応してくるだろう?」
「近衛の魔法士隊がどこまで頑張れるかによって変わってきますが、私達が心配しても解決しませんよ?」
「それに、辺境伯領に侵入されても問題はあまりないと思うわ。結構な距離が深い森だから、警戒しながら進むのは大変でしょう」
「ああ、あそこはそうだね。アルドは知らないみたいだけど、辺境伯領の領都から国境線までは深い森のままなんだよ。これは王国側も帝国側も変わらないよ」
「軍は森の中の道を歩いて進軍するが、常に横を警戒し続ける事になるのか。進軍速度は上がらず、疲労が凄そうだな。……となると遅滞戦術は上手くいってると見て良さそうだな」
「毎回、そうやって疲労困憊のところを、辺境伯にボッコボコにされてるんだよ。本当に飽きない連中だよ、全く」
「今回は何かあるんじゃないかと見せ掛けて、何も無いのがいつもの帝国ですね」
「毎回同じ形でボコられてるんなら、少しは対策しろよ。頭が悪過ぎないか?」
「両方の辺境伯が、お互いに内通してるっていう噂は昔からあるよ。互いに攻められる時を教え合って、防衛してるって噂はね」
「何でそんな事を……って、辺境伯にとっては国土防衛が最重要だからか。お互いに教え合う事で完全に防ぎ、中央に対して手柄をアピール出来る訳だ」
「そういう事さ。どっちの国も、国土が防衛されている以上は褒めるしかないからね。それに、少なくとも王国は帝国の領土を求めてないから、今のままで良いんだよ」
「つまり、どっちの国も手柄の欲しいバカが攻めて、手を結んでる辺境伯に返り討ちにされる。……しかし、両方の辺境伯は他の貴族から突き上げられないのか?」
「それに関しては大丈夫さ。陛下も手を出させないように、辺境伯を擁護しているからね」
途中から王太子が見えたんで、歩きに変えていたんだが話に加わってくるとは。軍の最後尾まで歩いていき、その後一緒に歩き始めたとはいえ、早速とばかりに話に参加してきたなー。
多分だけど暇だったんだろう。王太子はマナリアの鎧を着て、俺が作った魔鉄の刀を腰に差している。誰も王太子の着ているマナリアの鎧が、元は呪物だとは思わないだろうなぁ。
この進軍速度なら、今日はクレの町に一泊というところかな。町の宿は近衛とか王軍の偉い奴等が泊まるんだろうし、俺達は土のカマクラでゆっくり休むか。それと食える魔物を狩ってこよう。
……ん? 第三王女もこっちに来たのか、よっぽど暇だったんだな。ライブルもついでに来たみたいだし、俺がちょっと外れても問題は無いだろう。依頼内容は護衛じゃないしな。
「済まないが、少し外す。近くの森で魔物でも狩ってくるよ」
「……え? 何故魔物を狩りに行くんですか?」
「このままの進軍速度なら、今日はクレの町だろ? で、そうなると俺達は町の中で休めない。つまり、食べる物を確保しておく必要がある訳だ」
「はー……、成る程。それで今の内に魔物を狩るんですね」
「ああ。それじゃあ、ちょっと行ってくる。……んだが、一緒に行くのか?」
「ニャ!」 「グル!」
返事をしたので2匹と一緒に近くの森へと入って行く。そんなに密度の濃い森ではなく、しかしそこまで薄い訳でもない。どう見ても普通の森だ。そんな森で魔物を探しながら歩く。
この辺りの魔物は特に間引きもされていないのか、結構な数の魔物が居る。近くを軍が通っている為に、今は通り過ぎるのを待っている様だ。とはいえ、居場所は分かるので強襲する。
「ふんっ!!」
地面の草を食べていた小角鹿の首を斬り落とし、血抜きを含めた処理をして解体する。浄化をした後に、要らない内蔵を2匹にあげて残りを収納した。2匹が食べ終わったら出発だ。
再びウロウロしながら、【探知】と【空間把握】で美味しそうな肉を探す。猪系の魔物が見当たらないのだが、この森には居ないんだろうか。……そう思っていたら、スマッシュボーアを見つけた。
「シャッ!!」
スマッシュボーアの首を小太刀で斬り落とし、処理をしてから解体を始める。2匹は横で期待した目をしているが、さっきと同じ様に内臓が欲しいらしい。解体後に浄化をして内臓を2匹にあげる。
2匹が貪っているのを横目に見ながら、全て収納して帰る事にした。落ち着いてゆっくり食べてて良いよ、急いでないから。
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0194終了時点
大白金貨1枚
白金貨2枚
大金貨14枚
金貨71枚
大銀貨92枚
銀貨66枚
大銅貨236枚
銅貨2枚
ヒヒイロカネの矛
ヒヒイロカネの小太刀
剣熊の爪のサバイバルナイフ
アダマンタイトの十手
二角の角の戦斧
王角竜の帽子
王角竜の革鎧
剣熊の骨の半篭手
真っ黒な指貫グローブ
王角竜の剣帯
王角竜の脛当
強打猪の革のジャケット
強打猪の革のズボン
真っ黒なブーツ
大型のアイテムバッグ