1947
<実験惑星29日目>
おはようございます。今日は南の王都へ歩いて行く日です。さて、とりあえず朝の日課を終わらせて紅茶を淹れよう。鍋で紅茶を淹れたらティーポットに移し替えて、残りはコップへ。
静かな朝を堪能しつつゆっくり飲んでいると、【探知】に何かの反応があった。【空間把握】で調べてみると、宿の4軒隣の路地からジッとこっちを窺っている奴が居る。コイツは……。
痩せた男だが、コイツは間違いなく吸血鬼だ。今ごろと言えるが、姿を現したらしい。しかし……ああ、成る程。コイツ1人じゃとても戦力にならないと思ったが、他の奴等は町の外か。
という事は何処かで襲撃を掛けてくるつもりなんだろう。それはそれで一網打尽というか、纏めて全て叩き潰せば済むんだが、コイツらが何処で襲撃してくるかで微妙に変わってくるな。
王都から伸びている道である以上、当然ながら人通りは多い。元々そんな人通りの多い中で襲撃してきてるからな、再度同じように人が多い中で襲撃してくるかもしれん。俺達はともかく周りに被害が出ると面倒だ。
咬んで増やすタイプなのか、それとも血の儀式とやらで増えるタイプなのか、はたまた俺も知らないような方法で増えるのか。そこは分からないんだが、周囲の人間種を素早く吸血鬼に出来るなら、数を増やされてしまう。
吸血鬼そのものは相手にもならない程度の実力しかないが、ポコポコ増えるタイプだと鬱陶しい。おそらくは早々簡単に増えるようなタイプではないんだと思う。もちろん本当のところは分からないが。
おっと、考え事をしてたら皆が起きてきたようだ。朝の挨拶をして見送り、戻ってくる前に鍋で紅茶を沸かしておく。実際に足りるかどうかが分からないからだ。
戻ってきた皆は各々のコップに紅茶を入れていくが、やはり足りずに鍋の紅茶を入れていく。コップであってカップじゃないからな、結構な量を皆も飲む。水飴が減ってきてるので、また作っておくか。
「今日は王都へ移動するんだけど、辿り着けそうかな? 途中カマクラで寝て、到着は明日?」
「さあ、どうだろうな? 最悪は背負って走って良いんだが、あまり早いと俺達が吸血鬼だと疑われそうだ。俺達は身体強化をすれば吸血鬼にすら追いつけるし」
「この星の人達が身体強化を使うところを見た事が無いので、おそらくは使えないんでしょう。もしくは使える人が限られるとか……。確かにその状況なら怪しまれますね」
「ええ、その状況ならどう考えても怪しまれます。私達まで吸血鬼だと言われる……面倒でしかありません。届けたらさっさと逃げましょう、権力者なんて碌な者ではないですから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。吸血鬼を簡単に浄化して灰にした事も然る事ながら、私の命の恩人でもある。これで何も報いなければ、我が国の恥となりかねん。せめて褒美を受け取ってくれ」
「そういうのって面倒臭いよね。でも王女様が助かったのに何も無くて終わりだと、ケチな国って思われる?」
「それだけじゃないぞ、蓮。国にとっては王女の価値なんてそんなものという意味にもなる。つまり助けたのに褒美も出さない程度とな。国としては流石にそんな事は言えまい。周りに見せる褒美を出す必要があるんだよ」
「ふーん」
「相変わらず興味無しだな、元清華家の御嬢様なのに。庶子ではあっても、清華家である事実は変わらないんだが……」
「せいかけ? よく分からないが庶子という言い方をするという事は、この子は貴族の家の生まれなのか?」
「清華家というのは、こっちの言い方になると侯爵家に相当するのかな? 摂関家って、おそらく公爵家だろうし。外様の貴族としては最高峰なのかね? その割には藤原なんちゃら流だけど」
「よく分からないが、侯爵家に相当する家の子が何故一緒に?」
「話してもいいが、とりあえず朝食に行こうか?」
そういって後片付けを行い、綺麗にした後で部屋を出る。酒場に行って大銅貨5枚を支払い朝食を食べ、終わったら町を出て南へ。街道を歩きながら会話をしていると、後ろから7人ほどが尾行してくるのが分かった。
俺は吸血鬼どもを監視しながらも、後ろを振り返る事無く歩く。おそらく蓮もイデアも気が付いたんだろう、頻りに後ろの気配や魔力を探っている。どうやら吸血鬼連中には気付かれていないようだ。
アンデッドでも気配はするので、気配察知系の技で十分見つけられる。そのうえ生きている人間種とは反応が違うので分かりやすい。俺も雑談しつつ、後ろの奴等がいつ動くか慎重に計っている。
動いた段階で一撃食らわせてやろうと思っているのだが、尾行だけでなかなか動こうとしないんだよ。困った事に。
俺と子供達が後ろを気にしながら歩いていると、前から馬に乗った騎士達が駆けてきた。俺達は一応道の端に移動したが、騎士達は俺達の横ですぐに止まった。
「フェルディブルム王女殿下! 御無事でございましたか!! 我らは第一近衛騎士団でございます!!」
「第一近衛か。私は無事だが、大きな声で語るな。不必要に喧伝していかがする」
「ハッ、申し訳ございません。して、この者どもは?」
「私の命の恩人だ。この者達に助けてもらったのだから、下に置くような扱いは許さぬぞ」
「も、申し訳ございません。それよりも馬にお乗り下さい。後ろの軽装のも、なに!?」
針か何かが飛んできたので、俺はアイテムバッグから矛を出して弾いた。その「キン!」という音に驚いた騎士は俺の方を急に睨んできたが、俺達は後ろの方へと向いている。やっと動き出したか。
吸血鬼どもが武器を持って襲ってきたので、慌てて腰の剣を抜く近衛騎士。そもそも馬の上でショートソードってどうなんだよ? とは思うが、子供達はとっくに動いている。
「「【風砲】!」」
迫っていた吸血鬼の前4人を吹き飛ばし、後ろ3人も巻き込んで飛ばす。その甲斐あって、騎士達も馬を降りて戦闘態勢へと移行する事が出来たようだ。魔法を使った子供達に驚いているようだが、そんな暇は無いぞ。
王女は後ろで守られているが、吸血鬼どもは立ち上がり子供達を睨みつけてきた。そんな睨まれている子供達は、吸血鬼どもの憎しみの視線を完全に流している。フィーも子供達の前に出ているので、既に戦闘態勢だ。
近衛騎士達とも睨み合っている吸血鬼、果たしてこれで全てなのかと【探知】で調べると、迂回して王女を強襲しようとしているのが6人いる事が分かった。こいつら囮かよ。
俺はどうするか悩んだが、近衛騎士達に教えてやる事にした。
「こいつらは陽動、囮かもしれん。騎士達はしっかり王女の周りを固めろ。何をしてくるか分からないぞ?」
騎士達は不敬だとでも思ったのか、気に入らないという顔をしているが、文句の声までは上げなかった。今はそんな事をしている場合じゃないと分かっているのだろう。俺はちょっとだけ評価を上げる。
前に居る7人の吸血鬼の1人が舌打ちをし、「ピー!」と口笛を吹くと、迂回していた吸血鬼6人が出てきた。
「陽動がバレていたが構わん! 一気に潰し、王女を浚うぞ。そして貴き方に捧げるのだ!」
貴き方っていうのは多分<吸血公主>の事なんだろうけど、捧げるって事は近くに居るのか? それとも遠くに連れて行くのかね?。
吸血鬼なら疲れる事は無さそうだから1日中走れそうだし、そうなると何処まで連れて行く気なのかはちょっと分からないな。<吸血公主>が居るなら、それを前提に動くんだが、【探知】の範囲には居ない。
ま、今は<吸血公主>じゃなくて、こいつらが先だ。
誠に申し訳ありませんが、このままダラダラと書き続けてもスキルアップは果たせないと思い、一旦休止する事と致します。
少ないながらも読んでくださる方には、本当に申し訳ありませんが、自分の腕が上がったら再び書くかもしれません。
処女作ですのでエタらせる気は無く、それ故の一旦休止となります。
代わりと言っては何ですが、新作として、前回とは違いエロを極力排した形で、ミクを復活させる事と致しました。
タイトルは「ミク ~喰らうもの~」となります。宜しければご一読下さい。




