1946
王女に色々な事を教えつつ、当面は魔法の使い方のお勉強だ。イデアに手を握らせて魔力そのものを感じる訓練をしてもらっているが、改めてイデアをマジマジと見ている。まあ、超がつく美形だからなー、イデアは。
「イデアの顔じゃなくて魔力に集中してやってくれ。流石に魔法を教えている時に、それはないだろう」
「す、すまない!」
慌てて謝ったが、イデアの顔なんて見ていただろうに。あまり集中してハッキリとは見ていなかったのかもしれない。後、俺達に対して何処か警戒していたんだろう。それも仕方がないと思う。
魔力を感じる事が出来たら実際に自分で動かさせ、それが出来たら循環と放出の訓練だ。放出時に魔力を消費するので、この訓練よりは循環の訓練の方を重点的に行う。
歩きながらするのは素人には大変だろうが、それでも何度もチャレンジさせ、少しずつ循環出来るようになった。ちょうど街道を発見したので南へと下って行く。
更に循環の訓練をさせつつ移動をしていると、2度目の休憩前に村が見えてきた。それでも急がずに歩いていき、村の入り口まで辿り着いたので、門番に登録証を出しながら話しかける。
「これが俺の登録証だ。ところでこの村の名前が聞きたいのと、登録証を持ってないのが1人居るんだが、入村税は幾らだ?」
「ここはグルダ村だが、あんたら王都に向かってるんじゃないのか? 北から来たみたいだが……。それと入村税は中銅貨1枚だ」
「……中銅貨1枚な。一応の確認だよ、自分達がちゃんと予定通りに進んできたっていうな」
「えーっと登録証が4人に、無いのが一人で中銅貨1枚ね。よし、ようこそグルダ村へ」
若干不審な目を向けられたが、村の名前を聞いておく必要があったので仕方ない。王女も苦笑しているし、皆も仕方ないという顔をしている。まあ、無理に聞かなくとも良かったと言えば良かったか
少々先走った所為で不審になりつつも、村人に聞いて宿の部屋をとる。一泊大銅貨5枚だったので支払い、部屋に行って少し休む。こんな時間に村に来たのも不審の対象だったのかもな。
「それはあるだろうな。この様な時間に移動して村に着く事など普通はあるまい。私達には馬車も無ければ馬なども無いのだ。確かに不審な集団ではある」
「そうだけど、身体強化をしてたらそこまで遅い訳じゃないし、余裕を持っても町から町に移動できるよ。この星の人は使えないのかな?」
「使える人は居るだろうけど、普通の人は使えないんじゃない? やっぱり普通の基準からはズレると思うよ」
「まあ、そうですね。そもそも王女ですら魔法を全く使えないくらいですし、前の王国では浄化魔法を使えるというだけで特別扱いでした。相当程度、秘匿されているのかもしれません。平民が力を持つと危険だとでも思われているのでしょう」
「まあ、そういう部分はあるな。私としては【清潔】? という習っている魔法くらいならば良いのではと思うが……。国としての答えは変わるので何とも言えないな」
「違うよ、こう。【清潔】の魔法陣は簡単だけど、それでもしっかり覚えて。こう」
「……こう、か? ……ん? 今のは使えたような」
「おめでとう。初めて魔法が使えたようだな。あまり乱発すると魔力が無くなるのでそこまでにして、循環の訓練に戻ろうか。そっちなら消費せずとも練習できる。循環も大事な訓練だしな」
再び王女は訓練を続ける。魔法が使えたからか、地道な訓練が今のところ苦になっていないようだ。そこは助かるんだよ。使えないと言ってすぐに努力を止める可能性もあったから。
とはいえ、まるで地球の人間みたいに魔法に憧れる部分はあったので、上手くやる気に繋げられるとも思っていた。昼になったので村の食堂へ行き、大銅貨2枚と中銅貨1枚を支払って麦粥で頼む。
出てきた昼食を食べて宿の部屋に戻ると。王女が早速口を開いた。
「確かに民が食べる麦粥と、貴方がたが作る麦粥は全くの別物らしい。先ほどの麦粥は麦を煮込んだだけでしかなかった。塩の味すらしなかったので、普段の民はあんな物を食べているのだな」
「あれは俺達が麦粥を選んだからだ。パンならばカチカチになったパンが出てくる。そっちは夕食で出てくるだろうから食べてみると良い。王城で出るような焼きたての薫り高いパンじゃない事を知るだろう」
「そこまで言うという事は、私が美味しくないと思うという事だな。おそらくは事実なのだろうが、単に貴方がたの料理が美味しいだけなのではないか?」
「まあ、それはあります。私もアルド達とは別の星の者ですが、それでも料理の味は全然違うと分かっていますしね。それでも自分達で毎回料理をしないのは面倒だからだと聞きました」
「面倒だもん、でも美味しくない料理ばかり食べたくない。1日か2日に1回は自分達の料理を食べたいけど、町の中とかじゃ難しいよね。お料理出来ないし、してたら変な注目されちゃうし」
「あんな魔法だらけの料理なら、当然注目されるだろう。流石にあれが注目を浴びないという事はあり得まい。場合によっては領主が一方的に連れて行く場合もある、注意した方が良い」
午後からも循環の訓練をさせながら、トイレには蓮を行かせたが、問題なく自分で【清潔】が使えたらしい。使う際のコツも教えたようで、ちゃんと集中して使っていたようだ。
手に持っている物や手、局部であったり全身など、【清潔】は使う物や部位を指定できる。それが上手くなれば必要な最低限の魔力で行使が可能だ。そこまで突き詰めなくても、全身に使えば汚れが取れるので便利な魔法ではある。
布で体を拭くよりも綺麗になるのだから、平民こそ使えるようになれば病気が減るのにな。この国は流行り病などを軽く見ている気もする。
夕方まで訓練させ、酒場に移動したら大銅貨5枚を支払い、食事を注文して席に座り雑談しながら待つ。周りの話を聞いてみるも、特に内容的に聞く必要もない事ばかりだった。
食事を終えて宿の部屋に戻ると、王女が早速口を開いた。
「値段が高く、美味しいはずの夕食でさえアレか……。確かに私は王族として贅沢をしていたのだろうな。今日は本当にそれがよく分かった」
「贅沢というか、料理人の腕前の差だろうな。食堂や酒場なんて半分素人が開いていると思えばいい。それならああいう物になるのも分かるだろう。王城の料理人を料理人とした場合の話だぞ?」
「成る程。そこが料理人ならば、町や村の料理人は料理人には達していないという事か。それならば料理が美味しくないのも分からなくはない」
「それに何処の国の町や村でもそうだけど、味付けは基本塩しかないし、それなら美味しくならないのも当たり前だよ。蓮達だって魚醤とか出汁とかないと、美味しい物は作れないし」
一緒になって魔法の練習をしていた子供達も、段々と眠たくなってきたのか布団を敷いたベッドに寝転がった。王女のベッドには俺の布団を敷いてやり、そこに寝転がって王女も寝始める。
俺は子供達と王女に【昏睡】を使い、抱きついてきたライアを幸せに沈めて寝かせる。綺麗にした後で服を着せてベッドに寝かせたら、部屋と体を【浄化】してから毛布を取り出す。
前の星からの荷物に入っていたので2枚敷き、俺はその上に寝転がった。少々硬いが布1枚よりはマシだろう。【探知】に妙な反応も無いし、俺もそろそろ寝よう。
今日も1日お疲れ様でした。




