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夕食後。後片付けを終えたら、さっさとカマクラへと入る。地面にすのこを敷き、その上に布団を敷いたら思い思いに過ごす。子供達はリバーシをしており、俺とフィーはそれを見ながら適当に雑談を始めた。
「これからこの国を進んで行くんだが、東に行くべきか、それとも北に行くべきか……どっちが良いんだろうな?」
「私達を召喚した国が大陸の南西の端だった筈ですから、そこからですし……まずは東に行ききってみますか? その後に北へと上がり一周してみるとかどうでしょう? アンデッドがどこに居るかも分かりませんし」
「そうなんだよなー。弱い<不死王>とやらは倒したが、あれも本物かどうかは分からないし、もしかしたら本物が複数居るのかもしれない。ああいう奴は自分が倒された時の保険も用意してる可能性がある」
「本物が複数……ですか?」
「ああ。スケルトンが本体じゃなく、ヤツが纏っていた瘴気の方が本体なら無い事もないなと思ってさ。瘴気を複数のスケルトンに分けていた場合、まだ生きている可能性がある。それが唯の妄想か、本当にそういう奴なのかは分からないけどな。だが<不死王>という名前からも少々引っ掛かるんだよ」
「アンデッドなのにわざわざ<不死>と名乗っているからですか……。考えすぎのような気もしますし、そうでない気もしますし……。実験惑星とやらです、何でもありな可能性が否定できません」
「本当になぁ。おかしな魔法もあったし、何だかこの星だけの魔法っぽいんだよ、人間種が使ってた魔法も。マジックウォールとか言ってたけど、魔力を壁にするって何だよと言いたくなる」
「普通は似たような魔法をぶつけて相殺するか、爆発するならば、何かをぶつけてこちらに来る前に潰すのが定石です。魔力の壁なるもので防ぐと言われても、私には意味が分かりません」
「俺だって分からないさ、実験惑星の奴等はそれが当たり前なんだろうがな。おまけに<不死王>が使ってた黒い炎もよく分からん。瘴気を混ぜた魔法なのか、それとも何か特殊な魔法なのか……どのみち逸らすのは簡単だったけどさ」
「こちらが理解も出来ない方法で攻めてこられると、万が一の可能性が否定出来ないのが怖いですね」
「まあな。最初から危惧しているのはそれなんだよ。訳の分からないスキルとやらで殺されかねないのがなぁ……納得出来ないというか、何でこんな星にしてあるのやら」
子供達がウトウトしてきたので布団に寝かせてやり、【昏睡】を使って寝かせる。その後、いつも通りに襲ってきたフィーを撃沈させて寝かせ、こちらも【昏睡】を使って深く眠らせる。
白い枷を1つ着けて精神の回復を促しておき、カマクラ内と体を綺麗にしたら俺も寝転がった。今日も一日お疲れ様でした。
<実験惑星24日目>
おはようございます。今日からは東へと進んで行きます。神様達があっちに向かえとか、こっちに向かえとか言わない所為で、どっちに行けば良いかがサッパリ分からない。せめて行く方向ぐらいは指示してもらいたいもんだ。
朝の日課を終わらせたらカマクラの入り口を壊して外に出て、焼き場で紅茶を淹れる。それが終わったらテーブルに運び、ティーポットに移しかえて残った分は俺のコップへ。
ゆっくりと飲みながら海を見ていると、何やらトビウオみたいな魚が元気に飛んでいた。右手前から左奥へと飛んでいったが、あんな魚も居るんだなー。そう思っていると、群れで大量に現れた。
俺は無言で立ち上がり大きな樽を用意したら、【念動】を使ってその中へトビウオを入れていく。どんどんと入れていき、いっぱいになったら次の樽へ。入らなくなるまで入れたが、それでも群れの1割に届くかどうかという数だ。
何故こんなに大量の群れがここに来ているのかは知らないが、俺はトビウオを3枚におろしていき、鍋で神水を沸かしていく。起きてきていたフィーにおろした身を茹でてもらい、ある程度茹でたらあげてもらう。
後は【乾燥】と【熟成】をさせればトビウオ節の完成だ。新たな調味料の完成だが、子供達も楽しみなのか手伝ってくれている。トビウオを獲り過ぎたのか少々時間が掛かったが、それでもトビウオ節作りを終えたので朝食作りを始める。
その前に樽を綺麗に【浄化】して仕舞い、木材と鉄を取り出して超魔鉄の鉋を作っておく。蓮には麦飯を頼み、イデアにはトビウオ節で出汁をとったスープを、フィーには野菜の用意をしてもらい、俺はシルバーボーアの角煮を作る。
魚醤に水飴などを混ぜたタレが、脂と混ざって良い匂いをさせているが、俺は出汁をとった後のカスと切った野菜を混ぜて【熟成】させていく。ちょうど良い塩梅で止めれば浅漬けっぽくなった。こんなものでいいだろう。
麦飯も炊けたようだし、そろそろ食べようか。それじゃあ、いただきます。
「んー! お肉がホロホロで、でも脂は蕩けるの! やっぱり角煮は美味しいね!」
「うん、シルバーボーアのお肉っていうのもあるんだろうけど、やっぱり角煮は美味しい。それよりも出汁があるとスープの味が変わるね。今日のスープは美味しいし、ボクも良く出来たと思えるよ」
「それは仕方ないのでは? 今までは材料が無かったのですし、そこまで味を出せるものも無かったのですから仕方ありません。それよりも、この出汁をとった後のも使えるというのが良いですね」
「勿体ないからな。それに出汁をとる時は30秒ぐらいしか入れてないし、まだまだ出汁というか味は残ってるんだから使うさ。浅漬けも箸休めというか、ちょっと口の中を切り替えるには良いだろうしな」
子供達も喜んでくれてるし、時間は掛かったがトビウオ節を作っておいて正解だったな。鰹節とは違うけど、それは違って当たり前だし、使って美味しければ何でもいい。
美味しくなった朝食を終え、後片付けを終えたら準備を整える。トイレなどを済ませて完全に準備を終えたら、全てを壊して出発する。東へと走って行くと、割とすぐに村を発見。この星の村は何処も規模が大きいな。
その大きな村の門番に話しかけ、この国の地理を多少聞いていく。質問をしながら聞いて行くと、大凡で地理が判明した。
ここから北に行くとファラエス町があり、そこから東に進んで行くとモイル村、アッディ町、サヴィル村、カンデオ町、王都ロティスとあるそうだ。何で村の門番が地理に詳しいんだと思ったら、2年前まで王都で暮らしてたんだそうな。
兵士を続けられる年齢じゃなくなったんで故郷に戻ってきたんだと、少し寂しそうに言っている。そんな門番に礼を言ってデミス村を離れ、北へと走って行く。せめて宿をとるなら町でとりたい。割と急いで走ったからか、かなり早くに町についてしまった。
この星でも村や町の間の感覚は、馬車の速度が基準なのかね? それか思っているよりも近かったか。ここまで早いなら急ぐ必要も無かった気はするな。登録証を門番に見せて中に入ると、町の人に宿の場所を聞く。
町の人に教えてもらった宿に行き、部屋を2日とると大銅貨8枚だったので、小銀貨1枚を支払って大銅貨2枚のお釣りを受け取った。宿の部屋に行き、少し休憩と共にゆっくりと休む。
「何で部屋を2日とったの?」
「明日1日かけて町で買い物と、情報収集をする為だ。この国の事を殆ど何も知らないからな。アンデッドの居場所とかがあるかもしれん、<穢れの森>みたいに」
「確かに。ボク達のやるべき事はアンデッドの討伐ですから、調べておく必要はありますね。アンデッドの集まる場所や汚染された場所があるのに無視したら、神様から怒られるでしょうし」
まあ、もし本当にそんな事になったら、流石の神様連中も声を掛けてくるとは思うけどな。




