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1939/1948

1938




 昼食を食べ終わった俺達は、南東に向かって走って行く。何処かで街道にぶつかる筈だから、そこから東に行けば国境だろう。そう考えて走っているものの、街道のようなものが見つからない。いったいどういう事だろうか。


 もしかしたら国境に対しては街道と呼べる道も無いのか? そんな疑問が出てきたのだが、それは杞憂に終わった。南東へと走っていると、それっぽい道があったからだ。国境なのだから良い悪いは別にして、互いの国での輸出入くらいある筈だからな。


 自国だけで完結している国も無い訳ではないだろうが、普通は他国と関わるものである。なら人の往来はあり、そこが街道となる筈なんだ。まあ、それがようやく見つかったんだけどさ。



 「ここから東へ行けば国境に辿り着きそうだな。面倒臭そうなら一旦離れて、別の場所から強引に突破だ。流石に国境ともなれば砦の一つくらいは置いているだろうからな」


 「それぐらいはあるでしょう。無ければ侵攻して下さいと言っているようなものです。国同士の関係ではなく、最低限の常識として監視拠点は置くのが当然。無ければ唯の怠慢ですからね」


 「他国が攻めて来るかどうか監視している。たとえポーズだったとしても、それを置くのは当たり前だからな。それすらしていないんじゃ、常識が無いと思われても仕方ない。監視しているというポーズだけでもとらなきゃいけないし、それだけでも抑止になる」


 「見張ってないと、すぐに攻め込んでくるからね。見張りを置かないって、戦争しようとしているみたいなものだよ」


 「敵に手を出させる為に、ワザと監視を置かないって事になるし……何というか、そういう罠って感じだよね。攻め込んできたら、罠を仕掛けて返り討ちって感じかな?」



 そこまで上手くいくなら良いんだが……頭がお花畑なヤツは、無駄金だとかいって切り捨てるだけな気がする。お互いに監視し合っているのが”正常な状態”だと理解してないんだよ。一周回って唯の売国奴だろうな、監視を無くす奴って。


 そんな事をつらつらと考えつつ進んで行くと、遠くの方に砦っぽいのが見えてきた。流石に監視していない訳じゃないらしいな。その事にちょっと安堵しながらも走って行き、砦で調べられたものの、冒険者の登録証で事なきを得た。


 砦を越えて東へと走り、ロウティス王国側の砦も通過して行くと、夕方前に町を発見。その町へと近付く。


 ……少し警戒したものの特に問題はないようなので、門番に話しかけ登録証を見せる。あっさりと通されたので中に入り、町の人から宿の場所を聞く。


 表通りの宿が一番マシらしいのでそこへ行き、小銀貨1枚を払って大銅貨5枚をお釣りで貰う。宿の従業員に酒場の場所を聞き、宿の4件隣の酒場へと移動。中へと入る。


 ここの酒場ではステージがあり、唄っている歌手が居た。俺達は席へと座り、注文をとりに来た店員に小銀貨1枚を渡し、大銅貨6枚をお釣りに貰う。食事に来ただけなんで、それ以外を頼んだりはしない。俺は酒も飲まないし。


 絡んでくる鬱陶しい奴はいないようだが、たまに酒場に来ているのに酒も飲まない云々と絡んでくる奴が居るんだよ。面倒なんだが、この星だと酒場での食事の方がマシだから仕方ない。


 食堂の食事がマシなら酒場に来たりしないんだが……。



 「今日も碌に入荷しなかったが、何かあったのか? ここんところ海産物が入ってこねえから恋しくて仕方ねえやな。舟が壊れたとか、海の魔物が暴れてる……とかじゃなきゃいいんだが」


 「あんまり言うなよ。変な事を噂してたら本当だったって事もあるんだし、良い事だけ口に出そうぜ」


 「とはいえ、なあ……。海産物が入ってこないっつー話だから、もともと景気の良い話じゃねえんだ。良い話に持ってくのも無理ってもんだろうよ」


 「そりゃそうだがよー」



 海産物が入ってこないねえ……別に気にするような噂でもないか。俺達が気にしたところで意味無いし、そもそも海産物が入らないって、唯の不漁が続いてるだけって事もあるしな。


 こんな時代じゃ毎回一定の漁獲高を確保するなんて無理だろう。魚群探知機なんて物は無いんだからさ。となれば漁獲量は非情に不安定な筈だ。毎回多く獲れる訳でもないんだから、国境近くの町に持ってくる分が無いだけじゃないのか?。



 「多分ですけど、それで正解では? 幾らこの国の南は海岸線ばかりとはいえ、内陸に位置している町まで常に届くなんて事は無いでしょう。正直に言って、随分と贅沢な事を言っていると思いますよ?」


 「海が近いって事はタコが獲れる?」


 「さて、それはどうだろうな? この近くの海にタコが生息してるかも分からないし、それが毒を持つタコである可能性もある。まあ、毒持ちでも【浄化】すれば済むんだが、それが美味しいかは別だからなぁ……」


 「タコはともかくとして、海に行って塩と魚醤は作ってほしいです。流石に味気なさすぎて微妙ですから、早めに何とかして下さい」


 「気持ちは分からなくもないし、海岸線があるなら手に入れるのも楽だろう。海沿いに町か村ならあるだろうし、少しの間、近くで野営しながら海産物を集めるか」


 「賛成!」



 食事の終わった俺達は宿に戻り、部屋の中で呆れたように話す。



 「また尾行してた人達が外に居ますね。余所者だと分かったら、すぐに襲おうとする人達って何なんでしょう? ボクには全く理解できません」


 「気にするな、理解する必要も無い連中だ。頭が悪すぎてどうにもならんし、今日の夜に聖人に生まれ変わる奴等だしな。無視して放っておけばいい」


 「聖人がちょこちょこ生まれてるけど、おかしな事になったりしないよね? 神様を崇める変な集団とか作って、勝手に増えたりとか……」


 「蓮。怖い事を言うのは止めてくれ。唯でさえ、あの異常者どもの事なんて考えたくもないんだ。蓮も考えずスルーした方がいい。考えたところで頭のおかしい連中に汚染されるだけだ」


 「う、うん……」



 自分から口にしたものの怖くなったんだろう。それ以上は話題にしようともしなかった。聖人の恐ろしさは狂信者と変わらない部分にある。狂信者と違うのは決して他者を害したりしないところだ。


 その部分だけは絶対なので安心できる。奴等は他人を害さない異常者だ。ひたすらに善を尊び、それを押しこんでくる。押せなくても諦めず、何度でも押してくる。怖ろしい連中だが、人間種はそこまでにしないと真っ当に生きないと言われているようなものだ。


 神様達からしたら、この程度の奴等でしかないんだが、人間種なんてそんなものだと俺でも思うしなぁ……。神様達が見切ってるのは当たり前とも思える。


 子供達はウトウトしてきたのか、既に布団を敷いたベッドに倒れこんで寝始めた。【昏睡】を使った後でライアを満足させ、綺麗にしてから寝かせる。今回は元の人格のフィーヴィライアだったが、彼女の事はライアと呼ぶ事になったんだ。


 どっちもフィーだとややこしいのと、自分を呼んでほしいのだそうだ。そんなライアも寝かせたし、俺もさっさと寝よう。部屋と体を綺麗にしたら、おやすみなさい。


 ……予想通りの行動をしてくれたので、部屋の前に来た8人を【衝気】で気絶させ、部屋の中に入れたら枷を2つ着ける。話を聞くと唯のゴロツキだったので、聖人にして窓から放り出した。


 宿の前の道に転がしておいたので、明日の朝までぐっすり寝てるだろう。寒い訳でもないので死ぬ事もない。侵入者も叩き出したし、これでようやくゆっくりと眠れる。


 もう一度綺麗に【浄化】したら、ベッドに入り目を瞑る。今日も一日お疲れ様でした。


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