1936
面倒臭い事になろうがなるまいが、俺達のやるべき事に変わりはない。そもそも神様から言われたのはアンデッドの浄化であり、ここ<穢れの森>で領軍の兵士を襲っているのはアンデッドだ。
俺達が駆除するべき駆除対象である以上は、さっさと浄化して滅ぼしていかないといけない。子供達やフィーに続き、俺も【聖浄】を使いながらアンデッドや薄黒い部分を浄化していく。当たり前だが権能は使わない。
領軍の兵士が危ない時は矛で防いでやりながらアンデッドを浄化していると、小隊長らしき人物が声を掛けてきた。
「浄化魔法が使える方の助力は感謝に絶えないが、我々の事はいい。それよりも奥に居る総隊長やウェルダ様を頼む! 我々よりも遥かに強大な敵と戦っておられるのだ! 奥の方々を助けてくれ!!」
「ここは私や子供達が居れば浄化しきる事は可能ですので、アルドは奥の方をお願いします。私達はここが終わり次第、奥の方へと向かいますので」
「そうそう。この程度なら私達でも浄化できるし、この程度の敵じゃ魔力は尽きないよ」
「ですね。奥の方から濃い瘴気? らしきものも漂ってきてますし、何やら強力そうな者が居そうです。噂話の通りかもしれませんが、それでも問題なく倒せるのはアルドさんだけです」
「……了解だ。ただ無理せず戦うようにな。何なら武器で潰した後で浄化しても構わない。安全第一だぞ? じゃ、行ってくる」
俺は皆にそう言って、<穢れの森>の奥へと踏みこんでいく。中に入って行っても領軍の兵士とアンデッドが戦っているので、俺は適度に浄化しながら進む。移動のついでに浄化しているだけなので然して倒せていないが、それでも多少は楽になったろう。
そうやって奥に進んで行くと、森の中心のような場所でドス黒い瘴気を噴き出す骨と戦っている奴等が居た。女騎士が必死に肩口を押さえているようだが、出血が酷い女性が居るな? あれが領主の娘であるウェルダか?。
「ハハハハハ! 浄化魔法が使える者だと聞くのでちょっと手を出してやったが、話にならんわ! 【ブレイズボール】! ヒャヒャヒャ、お主らは我が配下にもならぬカスでしかないのでな、さっさと火葬にしてやるぞ」
「クソォ! 防御陣形!! 魔法士は敵の魔法を防げ! 前衛は盾で少しでも軽減しろ!!」
「「「「「「「「「「【マジックウォール】!」」」」」」」」」」
【ブレイズボール】という圧縮された赤い炎の玉が、【マジックウォール】という薄紫色の魔力の壁にぶつかると、ドォーン!! という音と共に派手な大爆発が起きた。その爆発を防御陣形を敷いた兵士が盾で必死に守っている。
俺はそれを見ながら神薬の入った小瓶を取り出し、女騎士の元でグッタリしている女性に飲ませる。既に意識が無く飲まない可能性もあったので、【念動】で強引に胃の中まで送り込んだ。
いきなりの事で対処出来なかった女騎士が慌てて動こうとしたものの、俺はすぐに離れる。すると、途端に神薬を飲んだ女性は目を開き、起き上がった。
「……デフィー、今はどういう状況なのです? 私は黒い何かに切り裂かれて……その後どうなりましたか!?」
「ウェルダ様! お気を取り戻されたのですね!? 現在、いまだ戦闘は続いております! <不死王>はこちらを弄ぶように戦闘を続けており、我々は逃げる事も叶いませぬ」
「そうでしたか、しかしそれでも私達がどうにかせねばなりません。ここが命の捨て時です。分かっていますね?」
「……ハッ」
俺は口を一切挟まない。正直に言えば、誰が死のうが興味が無いからだ。決死の覚悟は分からんでもないが、相討ちすら不可能だろう。おそらく一方的に倒されて終わりだろうなぁ、向こうはアンデッドだし。普通に復活すると思う。
そんな事を考えていると、急にこちらに【ブレイズボール】とやらが飛んできたので、【念動】で逸らしておいた。どうやら<不死王>とかいう奴は俺が薬を飲ませたのを見ていたらしい。
「何だキサマは? せっかく領主の小娘とやらを我らと同じアンデッドにし、絶望に泣き叫ばせようかと思っておったのに邪魔しおって」
「邪魔とか言われてもなー……。そもそもアンデッド如きの言う事を聞いてやる義理も無いし、いちいち汚いツラをこっちに向けてくるなよ、骨」
「………この私を、<不死王>たる私を骨だと!? 余程死にたいらしいなキサマ。塵も残さず焼却してやろう! …………【ブルーフレア】!!!」
青白い炎の玉が<不死王>とやらの手から浮かびあがると、領軍の魔法士とやらが怯えて狂乱しだした。言葉を幾つか拾って分かったが、どうやら馬鹿げた魔力が篭められてるらしい。
………アレで? としか思えないが、この星の魔法士とやらからすれば凄まじいのだろう。俺は飛んでくる【ブルーフレア】とやらを【念動】で逸らし、森の外へと放り出す。
「なに!? キサマ……いったい何をした? 私の【ブルーフレア】があんな方向に飛ぶなどあり得ぬ!! 答えろ! いったい何をした!!」
「お前はバカなのか? 聞けば何でも答えてくれる訳が無かろうが。……ああ、脳味噌が無くて骨しかないから愚かなのか。それなら仕方ないな。悪い悪い、動く骨というのを忘れていたよ」
「………キサマは絶対に許さんぞ!!! ここで死ね!! ………【黒の焼滅】!!!!」
<不死王>の骨の手から黒い何かが凝縮された玉が浮かび上がると、領軍の魔法士は卒倒して倒れる者が続出した。おそらく彼らにとっては、あり得ないほどの魔力量だったのだろう。俺からすればアレで? としか思えないが。
その黒い玉は俺の方に飛んできたが、三度、【念動】によって全く別の方向へと飛んで行く。森の外に着弾した後、黒い半円のドームを作り、中の物を一気に焼きつくしているらしい。何故か黒色の炎だが、俺にはよく分からない。ここ実験惑星だし。
「チィ! 何度も何度も訳の分からん。キサマはいったい何なのだ! 人間程度の分際で、いちいち私の邪魔をしおって!!」
「何だと言われてもな? アンデッドを滅ぼせと言われただけの者だよ。あー、勘違いするなよ? 別にこの星の奴等に言われた訳ではないからな。さて、<不死王>とか呼ばれてる四大アンデッドとやらが、この程度でしかないと分かったのは僥倖だ。他の奴等も大した事はなさそうだしな」
「何だと!? 人間風情が調子に乗りおって!! 少々訳の分からん力を使う事から、おそらく異界人であろうが、所詮その程度でしかないと教えてくれるわ!!」
「いつまで自分が優位だと誤解してるんだ、このアホは? いい加減、面倒臭いからこっちからいくぞ?」
俺は今までワザと見せなかった【神聖世界】を使い、一気に浄化していく。その効果は覿面で、<穢れの森>の瘴気は中心から直径2キロの範囲に掛けて、綺麗に浄化されて取り除かれた。
あっと言う間に周囲のアンデッドも何かもが消し飛んだ事に、領軍の連中だけでなく、<不死王>とかいう奴まで驚愕している。というかコイツは浄化しきれなかったのか。
魔力反応などをみるとボロボロで、もはや風前の灯火程度でしかないが、あの【神聖世界】の中を生き残れるとはなー。とはいえ、【神聖世界】で浄化しきれなかったのは今までも何度かあるから、そこまで驚く事でもないが。
一応は四大アンデッドと言われる事はあるんだろう。周りの領軍の兵士の中には何故か平伏している者とかいて、そっちの方が面倒臭い事になりそうで嫌になってくる。
顔が引き攣りそうだが、とりあえず表情に出さなかった俺は偉いと思う。だって若干ながら聖人どもと似た目をしてるんだよ。あれは崇拝対象を見る目だ。勘弁してくれ!。




