1935
子供達がトイレから戻ってきて紅茶を入れている。それを見ながら【念動】の用意をするも、子供達が引っ繰り返すような事はなかった。鍋で入れているから危険はあるんだよ。ポットを作った方がいいだろうか?。
紅茶を飲み終わったら片付け、宿を出たら酒場へと行く。大銅貨4枚を支払って朝食をとり、終わったら町を出た。東へと走って進み、カムス村に到着。少々早いものの村に入り、そのまま食堂へ。
大銅貨2枚を支払い昼食を注文し、麦粥を食べたら村を出て少し歩く。走っても大丈夫になったら走り、そのまま進んで夕方前にはオルヌス町に到着。登録証を見せて中に入る。
町の人に宿の場所を聞き、表通りの宿へと入る。一泊の料金を聞くと高くなかったのでここに決め、小銀貨2枚を払って5日間とった。10日泊まるなら割引してくれるが、5日では割引は無いらしい。10日も留まる可能性は低いから仕方ないな。
俺達は少し宿の部屋でゆっくりし、夕日が出てきたら酒場へと行く。辺境伯の領地の割には人が多い気がするな。普通、国境は危険だからあまり住みたがらないと思うんだが……。隣国とは戦争とか小競り合いが無いのかね?。
酒場に入り小銀貨1枚を支払い大銅貨6枚を受け取って食事を注文。席に座って待っていると、周囲から似た様な噂話が聞こえてくる。
「領軍の方々や、ウェルダ様は大丈夫かねえ。<穢れの森>のアンデッドが増えているって聞くし、嫌な予感がしないでもない。ウェルダ様は辺境伯様の御息女だっていうのに、【浄化魔法】が使えるからって何度もアンデッド退治に出かけてらっしゃる剛の方だ。大丈夫だとは思うんだが……」
「縁起でもねえ事を言うんじゃねえよ。ウェルダ様に何かある訳ねえだろ、今までだって領軍の方と共にアンデッドどもを退治されてこられてるんだ。今回だって大丈夫に決まってる」
「それよりも<穢れの森>のアンデッドが増えているっていうのは気掛かりだよな。近くに四大アンデッドでも居るんじゃねえだろうかって思っちまう。だからこそ<穢れの森>に行かれちまったんだろうけどな」
「おめえも、いちいち余計な事言うんじゃねえ。本当に四大アンデッドが居たらどうすんだ。こういう時には思ってても言わないんだよ。口に出すんじゃねえよ、バカが」
やはり<穢れの森>っていうのが近くにあると、町に住んでいる人も過敏に反応するんだな。仕方ないとは思うが、戦わない連中が過敏に反応しても意味は無い。為政者としては通常の暮らしを続けてくれるのが一番良いんだが……この調子だと難しそうだな。
食事を終えた俺達は宿の部屋へと戻る。特に悪意や敵意も向かって来ないので、こちらに目を付けた連中などというのは居ないらしい。部屋へと戻った子供達は早速とばかりに聞いてきた。
「<穢れの森>っていう所に行くんでしょ? 領軍っていうのと貴族の御息女? っていうのが行ってるみたいだけど、絶対に会うよね?」
「今までの事も考えると間違いなく会うと思うよ。ただ、そこで揉めるのか、協力して退治するのか分からないけどね。それと、四大アンデッド。噂話だったけど、何だか嫌な予感がするよね」
「確かに噂話が事実だったという事はありますけど、だからといって特に問題にならないのでは? 言葉は悪いですが所詮アンデッドです。相手にはならないでしょう?」
「甘いですよ。ボクが言ってるのはそっちじゃありません。アルドさんがいつも通りあっさりと倒すでしょう、となると必ず貴族は関わってきますよ? ボクが言ってるのは面倒臭い方の話です」
「ああ……それはあるでしょうね。実に面倒臭いでしょうけど、振り切って逃げられないでしょうか?」
「<穢れの森>までの距離にもよるだろうが、俺達が走って3~4時間ぐらいだと逃げられる可能性は高い。最悪は<穢れの森>から南東に逃げる事で、野営をすれば次の日には国境を越えられるだろう」
「流石に国境を越えれば追うのは難しくなるでしょうから、そこまでが勝負ですかね? ボク達も全力で走った方が良いでしょうし、明日は走り回る事になるかも」
「それでも面倒臭いのに関わらなきゃいけないよりマシだよ。さっさと浄化して、さっさと東の国に行こう。この国、面倒臭い」
「まあ、主に異界召喚と異界人、ならびに冒険者ギルドが鬱陶しいんだけどな。他のには迷惑掛けられてないから、国丸ごと鬱陶しい訳じゃないさ」
その後も皆とダラダラ話していたが、子供達は眠たくなってきたのか、自分達でベッドに布団を敷いて寝た。俺は【昏睡】を使い子供達を眠らせたら、フィーを撃沈させて寝かせる。大丈夫そうだが、一応白い枷を1つ着けとこう。
部屋と体を綺麗にしたら、おやすみなさい。
<実験惑星22日目>
おはようございます。今日は<穢れの森>に出発する日ですが、向こうではどうなるか分かりません。余裕を持って動きたいが、どの程度の規模のアンデッドが居るかも分からない。何とか大きな事もなく終わりたいもんだ。
朝の日課を終わらせ紅茶を淹れたら、陶器の瓶をアイテムバッグから取り出して【変形】する。2つ使う羽目になったが、注ぎやすいティーポットが完成したので、その中に紅茶を注いでしまう。そんなに大きくはないが、それなりに量は入るようにした。
自分でコップに淹れてみるも、特に問題なく使えたので子供達でも大丈夫だろう。紅茶を飲みながらゆっくりしていると、子供達もフィーも起きてきた。トイレに行って戻ってくると、いつもの鍋が無いから困惑しているようだ。
俺はティーポットに入っているからそれから入れるようにと言って、見本を見せてやった。子供達はすぐに理解して自分で入れているが、今までより入れやすくて楽しそうだ。急須やティーポットなんて今まで気にしてなかった。お茶好きとしては迂闊だったな。
飲み終わったら部屋を片付け、宿を出て酒場へ。大銅貨4枚を支払って食事をとったら、町の入り口へと行き登録証を見せて出る。<穢れの森>はここオルヌス町の北なので、真っ直ぐに進んでいこう。
俺達はいつも通りに走り始め、そのまま走って行くも、こちらの道へと行く者はいないらしく人も馬車も全く見ない。まあ、アンデッドが出る森なんて近寄る訳ないか。そう思いながらも走って行き、体感で3時間ほど経つと目的地が見えてきた。
あからさまに瘴気が充満しているというか、妙に黒い森だ。そこまで広くはないものの、ダンジョンの最奥で見たのよりは薄い。それでも薄黒いとは言える見た目をしている。これが<穢れの森>ねえ……分からなくはないな。
流石はスキルのある実験惑星、おかしな景色も当然のようにあるんだなー。思わずそんな風に感心してしまうが、子供達とフィーは「どうするんだ?」という感じの表情で俺を見てくる。
うん、気持ちは分かる。カンカンキンキン音がしていて、現在領軍は戦闘中なんだ。明らかにアンデッドと思わしき連中に襲われているんだが、倒しても起き上がり、倒しても起き上がってくるらしい。
まさしくアンデッドといった風に見えるが、【浄化魔法】の使える辺境伯の娘が居たんじゃなかったのか? 見たところ浅い部分には兵士しか見当たらない。挙句、いつかは体力が無くなり殺されるぞ。
仕方ないなと思いつつ子供達とフィーに武具を出すように言い、俺も矛を取り出す。
「いいか、武器は無理に使わなくてもいい。最優先は浄化だ。ただし、無駄な魔力は使わないように。見たところ【聖浄】で十分倒せそうだ。それと薄黒い部分は入っても問題ないらしいが何かあるかもしれない、気をつけてな」
「「「了解」」」
うちの子供達は早速駆けていき、【聖浄】の魔法でアンデッドも含めて薄黒い部分も浄化していく。それを見て驚く領軍の兵士。どう考えても面倒臭い事になるなぁ……。




