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 高校生達は帰ったようだ。宿の入り口には既に見当たらない。まだ夕方にもなっていないので、夕食も食べてないんだよ。あのまま宿の玄関に居座られたら迷惑でしかない。そう思っていたんだが、さっさと諦めてくれて何よりだ。



 「それにしても、戦闘術であったり魔法を簡単に教えてもらえると考えるとは……いったい何を考えているのでしょうか? 幾らなんでも頭が悪過ぎると思います」


 「彼らの星では戦いそのものが縁遠い話なんだよ。一般人は戦闘に巻き込まれず、職業軍人、つまり専門の兵士が戦う星。そう考えれば分かりやすい。彼らは戦い自体が日常に無いんだ、だからそれが財産だと理解出来ない」


 「そうなの? ……そういえば魔物が居ない星とか言ってたけど、その所為?」


 「おそらく、そうだろうな。俺の元いた星も、人間同士の争いしかなかった。そしてそれが多い時代では剣術なども財産であり、弟子入りしないと学べないものだったんだがな。少なくとも、頭を下げれば教えてもらえるようなものじゃない」


 「結局はあの人達が軽く考えていただけ、そういう事ですね。そもそも戦いの練習すら碌にしていないのに、何故自分が強いと錯覚できるのか理解できません。スキルとやらがあれば本気で強いと思っているんでしょうか?」


 「思っていたんだろうな、彼らのお花畑な脳味噌の中だけでは。情けないくらいに殺し合いの知識が無い所為で、自分達が無双する夢想でもしてたんだろう。ただの妄想でしかないっていうのにな」



 雑談をしていると夕日が差してきたので酒場へ移動。大銅貨4枚を支払い夕食を注文したら、席に座ってゆっくり待つ。それなりに待たされたが、この前は早かったし変な事もあるもんだ。


 夕食を食べたらさっさと宿に戻り、適当にダラダラと過ごす。子供達は眠たくなったのかベッドに寝転んだので、【昏睡】を使った後でフィーを沈めて寝かせる。部屋と体を綺麗にしたら、おやすみなさい。



 <実験惑星20日目>



 おはようございます。今日はさっさと町を出て行きます。正直に言って、これ以上居たら間違いなく何かに巻き込まれる。相変わらずだが、向こうがこちらを巻き込もうとしてくると逃げられない事が多い。


 当たり屋のような事を平然としてくるからな。こっちを巻き込むなと言いたいが、巻き込もうとする奴等は無理矢理にでも巻き込もうとしてくる。迷惑千万だが、奴等がこちらの事を考えて諦める……なんて事は無い。


 なので、いつも通り逃げるしかない訳だ。本当に鬱陶しい連中だよ、まったく。朝の日課を終わらせて、紅茶を飲みつつ考えていると、子供達が起きてトイレに行った。見送って再び思考しているとフィーが起き、キスしてから部屋を出て行く。


 かつてのフィーではないとはいえ、段々記憶として整理がついたのかね? だったら良いんだが、今のフィーの人格ではないとはいえ酷い目に遭わされたのは事実だからな。その辺りは触れない方が良いし難しい。


 戻ってきた子供達やフィーが紅茶を飲んでいるのを見ながら、俺も適当に相槌を打ち、飲み終わったら部屋を片付けて出る。宿の従業員には今日で出る事を言い、返金不要を言って宿を出た。


 酒場に移動して朝食を注文し、小銀貨1枚を支払い大銅貨6枚をお釣りに貰ったら席に着く。周りの話も大したものは無く、適当に雑談しながら運ばれてくるのを待つ。


 朝食を食べ終わったら酒場を出て町の入り口へ。登録証を出して外へと出たら、さっさと東へ向かって移動、町から離れる。とりあえず逃走するのが一番良いし、<三十六計逃げるに如かず>。もしくは<君子危うきに近寄らず>というしな。


 東へと続く道を皆と一緒に走って行く。町や村の名前すら知らないが、別に俺達が知っている必要もない。ダラダラと走りながら進んでいき村に到着。少し早いものの、中に入って食堂へ。


 大銅貨2枚で麦粥を食べつつ、相席した村人に話を聞く。すると、話し相手が出来て嬉しかったのか色々教えてくれた。


 ダンジョンのあったデアムス町から東に ドド村、ソーム町、カムス村、オルヌス町、そこから北に<穢れの森>があり、東に国境となっているそうだ。ちなみに国境の向こうはロウティス王国という漁業の盛んな国らしい。


 国土の南がほぼ海岸線の国で、日々魚を獲って暮らしているのと、海産物が安く食べられるそうで羨ましがっている。ここは内陸だし、この国は海に近づける場所が少ないらしいから、気持ちは分からなくもない。


 それはともかくとして、地理を教えてくれた事に感謝しつつ大銅貨1枚を払っておいた。


 昼食後、俺達は東へと移動し、ソーム町に到着。早めに町に入り、宿へと行って部屋をとる。小銀貨1枚を払い、大銅貨6枚をお釣りでもらった。これで部屋を確保できたので、早めの夕食へと出かけるか。


 酒場で大銅貨4枚を払い食事をしたら、すぐに宿へと戻ってゆっくりと休む。今日は久しぶりに移動で走ったからな。身体強化をしていても疲れるものは疲れる。子供達も久しぶりに疲れたのか、お腹が膨れるとウトウトしだした。


 背もたれになってやりながら30分は座らせ、その後はベッドに寝かせて【昏睡】を使う。


 ……いつもなら何らかのリアクションがある筈なんだが、フィーはどうしたんだ? そう思って見るも、俺をジッと見た後に少し考えてから口を開いた。



 「初めまして、最上位の神の使徒。私はかつてのフィーヴィライアです。既に私というモノは壊れ、すり潰され、朽ち果てている。そう、私自身も思っていました。しかし、貴方の御蔭で僅かばかりは戻ってこれたようです」


 「俺の御蔭と言われても……すまないが、よく分からない」


 「ええ、そうでしょうね。分かりやすく申し上げるなら、貴方が新しい人格のこの子を毎日”幸せ”にするからです。その結果、私が幸せだった頃の記憶までこの子は夢で見、そして私の欠片がこの子の中で集まっていった。というところでしょうか」


 「うん、まあ……何となくは分かった。それで、元の人格の君が出てきた理由は?」


 「私は口に出すのもおぞましい目に遭いました。その私です、癒されてもいいと思いませんか? 今度は幸せになっても良いでしょう?」



 その言葉と共に襲ってきたので、【極幸】【至天】【法悦】のコンボで沈めておいた。言っている事はともかく、やっている事は女性陣と何も変わらないんだがな?。


 まあ、酷い目に遭ったのだから、幸せになってもいいと思うが……そっちの幸せでなくともいいと思う。


 とりあえず、白目を剥いて色々垂れ流しているフィーを綺麗にして寝かせるか。俺はフィーの体を【浄化】して【念動】で持ち上げた後、服を着せてベッドに寝かせる。そこまで時間は掛かってないが、代わりに濃密だったなぁ。


 思い出しても仕方ないんで、さっさと寝るか。部屋と体を綺麗にしたら、おやすみなさい。



 <実験惑星21日目>



 おはようございます。今日は更に東へと進む日です。朝の日課を終わらせたら、紅茶を淹れて飲みつつ思案する。昨夜のフィーは元の人格という事を言っていた。今のフィーは二重人格のような形なんだろうか? それはそれで不安定な気がするのだが……。


 そう考えていると、フィーが起きてトイレに行った。戻ってきたフィーがコップに紅茶を入れていると、子供達も起きてトイレに行く。今のうちに聞いておくか。



 「元のフィーが昨夜出てきたが、大丈夫か? 二重人格の状態は不安定になるというし、おかしな事になると俺でも治せないんだが……」


 「それは問題ありません。そもそも殆ど出てくる気は無いと言っています。夜のアレの時だけ出てきたいそうですので、交代でする事になりました」



 それはそれでどうなんだと思うが、そこにも触れない方がいいな。心は繊細なものだし、治ったと思っても治っていないものでもある。とりあえず、元の人格が多少なりとも回復しただけマシか。


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