1933
80層の剣と盾がどの程度の物か分からないが、人前では使わない方が良いと決まった。そもそも超魔鉄より質が悪い可能性があるし、そうなったら永遠に出さないだろうけど。
それはともかくとして、この町に居る必要性も無くなったので、町を出て行こうと思う。
「それが良いと思います。あの若者達も居ますし、碌でもない事を言ってくる可能性も未だ無くなっていません。冒険者ギルドについても微妙な気がしています。何かが起きる前にさっさと出て行くべきでしょう」
「蓮も賛成。絶対に変な事に巻き込まれると思う。もしかしたら、もう巻き込まれる事が決まってるかもしれないけど、今ならまだ間に合うかもしれない。だから早く逃げるべきだよ」
「僕も賛成です。そもそもここの領主すら薬欲しさに子飼いの人達に襲わせるくらいですし、碌な場所じゃないです。いつも通りと言えばそうですけど、それでもやってる事は最低な事ですから」
「まあ、そりゃなー。俺達相手だと何の役にも立たないどころか、聖人化される原因にしかならないが、それでも普通の連中なら抗うのは難しいかもしれないしな。確かにクソ貴族の見本みたいな奴なのは事実だ」
俺にとってみればどうでもいい雑魚でしかないが、普通の冒険者なら対抗するのは無理か。呼び出して召し上げる、駄目なら実力行使。という訳ではなく、最初から実力行使だったからな。順序もすっ飛ばしてる。冷静に考えると、確かに碌でもない領主だな。
今までにもそういう貴族は居たから、普通の貴族みたいに思ってた。よくよく考えたら、碌でもない奴なんだよな。俺もちょっと麻痺してたかもしれない、色々な星の貴族がクズすぎて。
そんな話をすると、蓮もイデアも頷いていたので2人としても納得できる事だったのだろう。クズばかり見ていると、それが標準になってしまうという事は。
ダラダラと宿の部屋で過ごしていると、急に誰かが訪ねてきたらしく宿の従業員が部屋に来た。俺達が宿の入り口に行くと、異界人達のお守をしている騎士達の中の2人が居たので話を聞く。
騎士を見た時点で嫌な予感はしたのだが、案の定、俺達に異界人達と協力しろと言ってきた。俺は無言で革袋に小銅貨、中銅貨、大銅貨、小銀貨、中銀貨、大銀貨を5枚ずつ入れて渡した。
「それが俺達が手切れ金として渡された金だ。そっくり全て返してやる。これで俺達とは完全に関わり無しだ。そもそも王宮から手切れ金と共に俺達を放り出したのはそっちだろ。恨むならスキルに踊らされたバカどもを恨め」
「貴様、陛下をバカだと申すか!」
「そうだろうが。妙なスキルに目を奪われて、実力のある者を放り出したんだからな。ま、俺達も分かっていて出たんだがな、バカには付き合いきれんし、前の星でもそうだが愚か者は救いようが無い。これは何処でも変わらん」
「き、貴様!!」
「先ほども言っただろうが。俺達と手切れだと決めたのは、お前達のいう陛下とやらだ。この国の頂点が手切れとした以上、手切れなんだよ。お前ら下っ端が何を言ったところで変わらん。お前ら下っ端の騎士如きが、王の決定を覆せるとでも言うのか?」
「そ、それは……」
「だから言ってるんだよ、その金を持って失せろ。既に手切れとなっている以上、俺達はこの国とは何の関係も無い。お前達が王都に戻るなら偉い奴等に言っておけ、零れ落ちた水は2度と元には戻らんとな」
「「………」」
「じゃあな」
そう言って俺達は再び宿の部屋に戻る。どうしようか困っていたんだが、ようやく金を返す事が出来た。これで本当の意味で手切れだ。金も返したので貸し借りゼロ。仮にものを言ってきたところで、俺は取り合う気が無い。こちらはこちらの言い分を押し通すだけだ。
そもそもこの国は俺達を拉致、誘拐した国だからな。言うなれば犯罪国家とも言える訳だ。俺達に限っては神様が介入したんだが、それでも拉致や誘拐をした事実は消えない。
異界人にとっては紛れもなく犯罪国家なんだが、この国の奴等にはその自覚が無いんだろう。あれだけ居丈高なくらいだしな。
宿の部屋で再びボーッとしつつ紅茶を淹れていると、また誰かが来たらしく宿の従業員が部屋に来た。鬱陶しいなと思いつつも宿の玄関に出ると、何故か高校生3人組が居る。何だ、こいつらが頭を下げたらどうこうという話か?。
「すみません! 怒るのは当然だと思います。それでも僕達に戦い方を教えてください。お願いします」
「「お願いします」」
「断る。お前達は勘違いしているのかもしれないが、戦い方、ハッキリと言えば戦闘技術というものは財産だ。お前達の言っている事は、他人に財産を寄越せと言っている事に等しい。自覚が無いのかもしれんがな」
「そ、そんな事は……!」
「ただの事実だ。誰が他人に無償で戦闘技術をくれてやるっていうんだ? 頭を下げれば、他人が長い時間をかけて習得してきた様々なものを、タダでくれると思っているのか? まるで理解していないようだからハッキリと言ってやる。お前達に教える事も、与える物も何も無い。とっとと失せろ」
「で、でも、僕達は……」
「知らん。恨むなら俺達を含めて拉致、誘拐したこの国を恨め。そもそも何の関わりも無い奴等の為に戦う、それを決めたのはお前らだろうが。ならば命を懸けて戦え。スキル持ちなんだろう? その言葉に踊らされて重要な事を見失ったのはお前達だ、諦めろ。世の中や人生というのは漫画やアニメやラノベじゃないんだよ」
「「「!!!」」」
「俺はお前達を高校生と言ったんだぞ? その時点で気付くべきだったな。マヌケというのはそんなものだが……ああ、現代人としての繋がりとか、同じ星出身の可能性とかに縋るなよ? バカな高校生なんぞ助ける気にもならんからな。俺からすれば、スキルを持つ事で調子に乗った恥ずかしい奴等でしかない」
「「「………」」」
「これで話は終わりだ。オレSugeeeとか私Tueeeとかしたかったのかもしれないが、俺からすれば痛々しいだけだからなー。マヌケとして見ている分には面白いが、関わりたくは無い。ついでにそんなマヌケが何処かで野垂れ死んでも、どうでもいいしな」
「ここで立ち尽くしていても無駄ですから、さっさと帰った方がいいですよ? あえて言ってはいませんが、貴方がたはお荷物なのです。戦いにおいて、お荷物が居ると死の危険性が跳ね上がるのですよ。そういう意味でも関わりたくないのです」
「騎士の人達が居るんだから、騎士の人達に教えてもらえばいいよ。あの騎士たぶんだけど蓮達よりも弱いけどね」
「そうだね。ボク達もなんだかんだと言って、アルドさんと一緒に戦い続けてきたし、足手纏いじゃない。それだけ戦ってきたし、足とか腕とか貫かれた事もある。貴方達じゃ耐えられないでしょう? その程度なんですよ。自覚して下さい」
最後に一言だけ言って部屋に戻った。仮に手出しをしてくるなら、また聖人が増えるだけだが……どうなるのかね? 俺達は明日からこの国を出る為に移動するが、異界人達はこれからも戦いの為の修行の日々だろう。
大変だねーと思うも、恨むならあんなスキルを持たせた神と、盛大に利用する気であるこの国を恨めとしか言えないんだよな。あえて神々の事は言ってないけどさ。
それに高校生達にも言ったが、戦闘技術なんていうものは財産だ。俺が自分から教えるならまだしも、何で底意地の悪い連中に教えてやらなきゃならないんだか。意味が分からない。
あいつらの一昨日までの態度を見て、助けてやろうなんて思う奴は多くないし、ましてや俺が助けてやる理由は全く無い。それなのに頭を下げれば助けてもらえると思ってやがる。
あの態度で助けてもらえると思ってる事自体がおかしいんだが……。高校生だからか、それともまだこっちを舐めているのか。
まあ、どっちでもいい。手を出してきたら潰すだけだ。




