1931
受付嬢から、ランク10の証である鉄の登録証を渡された。別に俺達にとって然したる意味は無いのだが、周りの冒険者からすれば一流の証らしい。ちなみにそれを超えたものがランク15以上の銀の登録証のようだ。金では無いみたいだが、それは仕方ないのだろう。
ちなみにランク6から青銅で、ランク10から鉄らしい。俺は青銅の登録証すら持つこと無く一気に鉄になってしまったが、ランク5から6になるのは大変で、結構な実力を示さなければなれないそうだ。この町でなら31層を越えるぐらいしなければ無理との事。
という事は大半の者が低ランクという事になるんだが? そう思って聞くと、どうやらそれが事実らしい。元々ランク1からダンジョンに潜る依頼がある町なら違和感は無いのだろうが、この町ではランク4からしかダンジョンの依頼をさせてくれない為、違和感が大きいのだとか。
大半の者が木の登録証ではあるものの生活は出来る為、一部の功名心がある者以外はそこまで気にしていないようだ。実際、31層を突破すれば青銅の登録証がもらえる訳だしな。俺達は踏破しても貰えなかったが。
「あれは仕方ありません。町中の仕事もした事が無く、依頼も請けていないのですから上げる事など出来ません。更に言えば、今回の事もギルドマスターが特例で命じられただけですので、それが無ければランク10まで上がっていませんよ」
「別に俺達は上げてくれとは言ってないんだが? いちいち面倒な事を言われるくらいなら上げなくても良かったくらいだ。今すぐに戻してくれて構わない」
「………」
受付嬢は笑顔を張り付けた表情のまま、それは受け付けないとニコニコしている。俺はわざとらしく溜息を吐き、冒険者ギルドを出た。一応はああやって牽制しておかないと、こっちにおかしな依頼を持ってきかねない。明日か明後日でいけるところまで進み、ダンジョンを攻略してしまうか。
「それで良いんじゃない? お金はそれなりに稼げたし無理に依頼を請ける必要も無いし。蓮もお金持ってるからね、皆のお金を合わせれば十分あると思う」
「そうだね。ダンジョンの最奥だけは調べておかないといけないけど、それ以外は特にやる事も無いし、終わったらさっさとこの町を出ましょう。いちいち面倒な事を言われても困りますし、ボク達が変な依頼を請ける理由も無いですよ」
「どうも冒険者ギルドというのは、所属している者を簡単に利用できると誤解しているようですね。ワイバーンの売却で稼がせてやっているというのに、更に欲を掻きそうな態度でした」
「あの受付嬢だけかもしれないが、特例で上げてやったからどうこうと言ってきそうな気もするな。面倒な事を言ってきたらダンジョンの事は放り投げて、さっさと町を出るか」
皆と話してこれからの態度を確認しつつ、俺達は宿に戻ってゆっくりとする。ランクが10になってしまったので依頼を請ける気にもならず、帰ってきてダラダラ過ごす事に。
昼になったので食堂に行き、大銅貨2枚を払ってパンではなく麦粥で注文した。すんなりと通ったので、聞いていた通り粥に出来るらしい。それなりに大きな木の器で出てきた麦粥を、木の匙で掬って食べる。
……カチカチのパンに比べればこっちの方が遥かにマシだな。顔を上げると皆もそう思ったのか、特に不満そうな表情はしていない。もちろん不味そうな顔もしていないので、麦粥で問題なし。
それよりも野菜と申し訳程度の肉が入っているスープの方が問題だ。肉の量が少ないのは当然だが、薄い塩しか入っていないので美味しくない。更には野菜の旨味も出ていないのでスープ自体が美味しくないんだ。
旨味が出る野菜が碌に入っていないのが原因だろう。カチカチのパンが酷すぎただけで、こっちも十分に美味しくないな。それでも我慢出来なくはないので、食べて宿に戻る。徹底して味を付けていないスープって感じ。
あれはもしかしたら申し訳程度の肉から出た塩分なんだろうか? そう思える程に味が薄いというのも凄いと思う。スープというより水煮といった方が正しい気がするぞ。
そんな食事を終えての午後も、ダラダラと時間を潰すように過ごしている。正直に言って不健康な時間の使い方だが、中途半端にやる気がなくなったので仕方ない。明日になればやる気も出ているだろう。
……ようやく夕方か。そう思いながら疲れた子供達とフィーを連れて酒場へ。トランプで時間を潰していたんだが、3人とも途中から明らかに飽きていた。やる事が無いから仕方なくやっている感じだったからな。
酒場に行き夕食を注文、小銀貨1枚を支払い大銅貨6枚を受け取る。適当に雑談をしながら待っていると、今日は早くに運ばれてきた。驚くほど早かったが食事をし、終わったらまっすぐ宿に戻る。
特にやる事もないので、また来た尾行の連中を宿の部屋から逆監視。また薬目当てなのか、それとも何か別の目的か。その辺りは侵入してきたら分かるだろう。
「また来てるけど、貴族じゃないんでしょ? だってもう聖人にしたって言ってたし」
「そうだな、貴族関係ではない筈だ。領主の家族も聖人に変えたから、そちらの関係者である可能性は低い。そうなってくると商人か、あるいは騎士のだれかが王宮に報せたか、あるいは裏の組織か……」
「神薬を一度出しただけでコレですか? と言いたくなりますけど、欲深い連中なんてこんなものでしょうね。今までの星でも変わらなかった訳ですし」
こちらが監視している事に気付いていない筈だが、妙にコンタクトをとらない連中だな。話をする事も無く2人1組が2組、2ヶ所からジッと宿を見ている。既に暗いから良いが、日中だったら完全な不審者でしかないぞ。
今でもバレたら不審者だが、人が近付くと隠れるか通行人のように装っている。俺はずっと監視しているので分かるが、偶然通っただけの人には分からないんだろうなぁ。疑いを向けてはいない。
子供達がベッドに寝転んだので【昏睡】を使い、フィーを満足させて寝かせる。そのまま監視していると4人が集まって話した後、宿への侵入を始めた。何故か「寝たようだから行くぞ」と話していたが、どういう事だ?。
疑問に思っていたが、その間にドアの前まで来たので【衝気】で気絶させ、【念動】で浮かべて音をさせないように部屋の中へ入れる。白い枷を2つずつ嵌めて確認すると、商人が依頼した裏の組織の連中だった。
どうも気配を探るスキル持ちらしく、俺達が寝たと判断したから侵入してきたらしい。何故寝たと思ったのかだが、気配が動かなくなったからだそうだ。何というか、思っている以上に浅はかだな? 宝の持ち腐れな気がする。
まあ裏組織の連中だから、宝の持ち腐れでいいと言えばそれまでだが……よし、2分経ったな。聖人に変えた連中を窓から宿の前の道に放り出し、俺も隠密の4つの技で外へ出る。
この町では大きな商人らしいが、俺達に手を出して来たのが運の尽きだ。店の場所は聞いているのでさっさと侵入し、中に居る商人と家族を聖人にした。すぐに出た俺は、次に裏組織のアジトに行く。
この町のスラムは南西区の西の端部分だ。だが裏組織は北西区の店が並んだ中にある。普段は普通の商売をしつつ、裏では非合法なことしているという訳だ。人数が少ないので簡単に終わり、宿の部屋へと戻った俺はベッドに寝転がる。
いちいち面倒な奴等は来なくていいよ。そう思いつつ目を瞑る。今日も一日お疲れ様でした。




