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「小瓶とはいえ見られましたけど良いんですか? あれだけの薬の効果です。下らない事を言ってくるかもしれませんし、貴族に話して面倒な事になるかもしれませんよ」
「小分けにして小瓶に入れてた物でも喚いてくる可能性はあるか……。とはいえ、ならば全員聖人にしてやれば終わるけどな? それもあの高校生どもだけ変えず、他の連中は聖人にするという形でもいいし」
「周りが聖人になって自分達に物を言ってくる……という形ですか。欲に塗れた事を言えば糾弾されますね。最終的に王まで聖人になったりして」
「可能性は否定出来ないか。権力者が欲しがる物の一つでもあるしな、薬というのは。特に何でも治せる薬となれば、王侯貴族なら追い求めるだろうさ。おっと、訂正しておくか。ハゲは治らないからな」
「ハゲって治らないの?」
「ああ。そもそもアレは病気でもなんでも無いんだよ。だから神薬でも治らないというか、そういうものじゃない。神薬で治る場合もあるが、それはストレス性だったるする場合などで、自然にハゲる場合はどうしようもないんだ」
「ふーん」
それにしても小分けにしていた神薬でも狙ってくる……か。確かに欲深い連中なら狙ってきてもおかしくはないが、普通は薬だって限度がある訳で、期限を過ぎると効果を失うなんて当たり前だ。新鮮じゃないと効果は低いって知識ぐらいありそうだけどな。
もちろん神薬の効果はどれだけ時間が経っても元のまま変わらない訳だが、これは人には作れない薬だし、神様が作った物だからなぁ。意味不明な効果でも期限でも、神の薬だからで終わる話なんだよ。というか説明なんて出来る訳ないし。
おっと 夕日が出てきたんで酒場に行くか。俺達は宿への道を変更し、酒場へ行って大銅貨4枚を支払い夕食を注文する。適当な雑談で時間を潰し、運ばれてきた夕食を食べたら宿の部屋へと戻った。
ゆっくりとしつつ子供達とフィーの<七並べ>を見ていると、蓮が話し掛けてきた。
「外に変なのが来たけど、あれって何だろうね? 神薬を出したその日に現れるなんて面白い話だけど、誰が見張らせたか蓮でも分かるよ」
「向こうはバレてないと思ってるんだろうけどねー、こっちは2キロ離れてても分かる人が居るから隠れても無駄なんだけど……まあ、知らないんだからしょうがないか」
「向けられている悪意が分かるという事ですか。敵意や悪意を把握できるなら相手の居場所は丸分かりでしょうね。その相手はまったく気付いていないでしょうが」
「そもそも監視という程でなくても、見張っている最中に考えている事で悪意が漏れたりするもんだ。特に侵入とか考えている連中は悪意や敵意、もしくは害意は必ず持つんでな。その瞬間こちらは把握できる」
「そういう人相手に隠れようとしても無駄なんですよね、もちろん相手は知らない事なんですけど。むしろ相手に同情しますが、でも悪意を持っている悪人ですから……うん。結局、同情なんてしませんね」
まあ、そもそも犯罪者に同情する理由も価値も無いし、それをする必要も無いな。それはともかく、数が増えたって事はこっちに押し入るつもりかね? いつも通り過ぎて笑うというか、本当にバカの一つ覚えな連中だ。
子供達もウトウトしてきたのか、自分達でベッドに行き寝転がった。そのまま【昏睡】を使い眠らせたら、【極幸】と【法悦】でフィーを沈め、綺麗に【浄化】してから服を着せて寝かせる。
部屋と体を綺麗ににしつつ見張っているが、まだ動きは無い。流石にこの悪意だと今夜中に動くだろうが、いつ動くかまでは分からないしな。俺も寝ておくか……バカには付き合いきれんし。それじゃあ、おやすみなさい。
………今が何時か知らないが、ようやく動き出したようだな。感覚的にそこまで時間が経っている感じはしないが、とりあえず突っ込んできたバカに対処するか。
俺は宿に侵入し、素早く俺達の部屋の前に来た黒ずくめの連中を【衝気】で気絶させ、【念動】で浮かせながら部屋に入れる。6人に枷を2つずつ着けて尋問すると、予想通りこの町の領主である貴族の子飼いだった。
どうやら異界人達から聞いたらしく、俺の持つ神薬が目的だったらしい。6人全員を聖人にした後で窓から放り出し、宿の前の道に並べて【昏睡】を使い眠らせておく。
隠密の4つの技を使った俺は窓から出て、南東地区の領主の館へと行き、勝手口の方に向かい扉を調べる。鍵が付いていたが簡単な物なので、【念動】を使って直接開けて侵入する。【空間把握】で調べ、領主の部屋へ移動して聖人化。
次いで領主の家族も聖人化しておく。これは再び鬱陶しい事に巻き込まれない為だ。それが終わったのでさっさと館を出た俺は、外に出て鍵を掛けてから宿へと戻る。
宿の部屋に窓から戻った俺は、部屋と体をもう一度綺麗にしたら、さっさとベッドに横になった。もう起こされる事も無いだろう。それじゃあ、おやすみなさい。
<実験惑星18日目>
おはようございます。今日も依頼を請けてランクを上げます。何処まで上げればいいのか分からないが、とりあえず中堅ぐらいまで上がればそれでいいや。そこまで行けば、流石に舐められるという事もないだろう。
朝の日課を終え、紅茶を淹れて飲みつつ思案する。昨日の連中も領主一家もまとめて聖人にしたが、俺達を襲わせたその日に聖人化している。まあ、一番怪しいのは俺達だよな? それ自体は構わないんだが、何がしかの面倒を言ってきたら……。そいつも聖人にするか。
前の星と変わらないが、今回は最初の星と同じく襲ってきた奴に限ろう。別に浄化能力を持たせなきゃいけない訳でもないし。
考え事をしていたら起きる時間になっていたらしく、フィーが起きて部屋を出た少し後に子供達も起きた。部屋に戻ってきた3人が紅茶を入れているのを見つつ、【念動】で補助をする。ちょっと寝惚けてるからな。
紅茶を飲み終わり、頭も覚醒したようなので部屋を片付けて酒場へ。小銀貨1枚を支払い大銅貨6枚のお釣りを貰って朝食を食べた後は、ダンジョンへと歩いて向かう。今日もそうだが異界人達と出くわした。……が、今までと様子が違うな。
チンピラ高校生は睨んでこないし、捻くれ女子高生とリーダー高校生は目線を逸らしている。他の異界人も何だか態度がよそよそしい感じだし、騎士達は溜息を吐きながら声を掛けているようだ。
スキルとやらを持っていても何の役にも立たないって気づいたか、それとも言われたのかね? 少なくとも怪我をしていた女性は言う権利があるからな。それならあの状況なのも分からなくはない。
ダンジョンに入った俺達はさっさと62層に行き、ワイバーン5頭を狩ったら脱出しギルドへと移動する。解体所に出し木札をもらい、受付嬢に出すと依頼扱いにするか聞かれた。どうもワイバーンを依頼してきた者が居るらしい。
1頭だけらしいので別に良いかと思いつつ、1頭だけを依頼扱いにしてもらった。4頭分の小金貨4枚と依頼の小金貨1枚と大銀貨10枚を貰い、俺は小金貨2枚と大銀貨1枚、皆は小金貨1枚と大銀貨3枚に分ける。
登録証を渡すと、ランク5だったのが何故かランク10に引き上げられるらしく、鉄の登録証になるので待たされる羽目に。受付嬢に理由を聞くと、流石にこうもワイバーンを狩ってこれるならランクを上げないと駄目だとの事。
ギルドマスターからの命令らしいが、実力者のランクが低いとギルドとしても困った事になるらしい。理由としては、冒険者ギルドが有能な人物を不当な環境で働かせている。と、周りから攻撃されかねない。
妙な手を突っ込まれても困るので、周囲の目は気になるんだそうな。まあ、外部の者に手を突っ込まれるのは、どんな組織でも嫌がる事だ。




