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 「押し麦というのは米と一緒に炊けるようにした物でな、皮を剥いてから蒸して柔らかくし、押し潰した後で乾燥させた物だよ。そうする事によって火の通りを良くして短時間で煮えるようにしてあるんだ」


 「へー……」


 「米が無いから大麦だけだが、ここはパン文化圏だ。大麦も小麦もどちらかというと粥にすると思うんだが、何故か普通にパンが出るんだよなー。不思議だけど、その辺りの事情はどうなってるのやら」


 「麦の粥? 食べたい人は普通に注文するし、食堂なんかでは出るけど? どちらかというと貧乏人の食べ物って感じかしらね。麦を荒く挽いて水と共に煮れば出来上がり。私の実家でもよく作ってたわよ」


 「私の家でもそうだったな。懐かしいが、食いたいとは思わない。何というか、貧乏だった子供の頃を思い出すのでな。ただ好きな者も居るし、そういう者は普通に食べているぞ。食堂なんかでは言わなければ出してくれないな。イメージが悪いからだが」


 「そうだったんだ……。正直に言って美味しくないパンを食べるより、麦の粥を食べた方がマシかもしれない。あのカチカチのパンはもうウンザリだよ」


 「ハハハハハ、気持ちは分からんでもない。それでも私達からすれば、パンが出てくるだけマシだと思うのだよ。カチカチのパンを食べてきた者はウンザリするのだろうがな。粥を長く食べてきた者にとって、パンは一種の憧れなのだ」


 「そうなんですか……僕には理解できません。あんな人を殴り殺せそうなパンを食べなきゃいけない訳ですし、水を吸わせてふやかさないと食べれませんし。それに煮込む事もできませんしね、薪代が勿体なくて」


 「ああ、それがあるのか。確かに薪代の事を考えると、毎回煮込んでなんていられないだろう。クラン全員の分の食事をクランが賄うなら、薪代は何とかなるのかもしれないがな。そうでもしなきゃ難しいんだとは思う」


 「だろうが、クランなど言葉は悪いがそこまで信用しあっていない。残念だが、儲かるから互いに我慢しているだけだ。仕方がないとは言えるが、自分だけで儲けられるなら誰も群れたりはせんよ。その方が儲かる訳だしな。我がクランは違うが」


 「<栄光の頂>はダンジョンの攻略を夢見る者達が集まるクランだから、よくあるクランとはかなり違うのよね。ダンジョン攻略という夢の為に集まってる訳だし。私達<紅の旋風>は女性保護の為のクランよ。どうしても女というだけで狙われたりするからだけど」


 「僕達<影の墓標>は更生する為のクランなんですよ。後ろ暗い過去を持ってる人が多いですけど、それ自体は仕方がない部分がありますしね。生まれ変わって真面目にやりたい人も居ますし、それが出来る人も居ますから」


 「スラム出身だと特にそうだからな。罪を犯さないと待っているのは飢え死にでしかない。そういう者達を救済しない癖に貴族どもは五月蝿いのだ。生まれた時点でどうにもならん者は居るというのに」


 「言ってもしょうがないわよ。あの異界人と同じくらい頭の悪い連中だもの、人の言葉が理解出来ないんでしょ。冒険者ギルド含めて、各種ギルドがあるだけマシだわ。それさえなければ暴動が起きてるわよ、バカどもの所為で」


 「そういえば話は変わるんだが、スキルって何なんだ? 俺達はスキルなんて無い所から来たんでな、スキルというものがよく分からん。魔法だって何だって自前で出来るのに、何故スキルなんてものがあるんだ?」


 「簡単に言いますと、スキルがある方が楽だったり上手かったりするんですよ。更に一部のスキルに関しては、スキルとして持っていない限り使えないんです。おそらくですが、話に聞く異界人高校生の【聖盾術】もそれに当たるものでしょう」


 「スキルが無いと使えない……ねえ。アンデッドと仮に戦うにしたって、そんなものが必要なのか? 無くても勝てそうな気がするがなー」


 「アンデッドの中でも強者に勝つのは難しいからな。<吸血公主>や<黒の未亡人>、それに<六腕骨>に<不死王>。この四大アンデッドと言われる連中は、強力なスキルがあっても勝てるかどうか……」


 「異界召喚で来たばかりなら知らないでしょうけど、<吸血公主>は強力な魅了を使い、血を吸われたら吸血鬼の仲間入りです。<黒の未亡人>は触れられると生命力を奪われて、あっと言う間に皮と骨にされます」


 「<六腕骨>はその名の通り六本の腕を持つスケルトンで、色んな武器を達人のように扱うの。そして<不死王>が最悪で、アンデッドを生み出して使役しているのよ。コイツと<吸血公主>は軍勢だからどうにもならないわね」


 「それでも生み出されたアンデッドなら勝てるそうだがな。ただ四大アンデッドに関しては、一度たりとも討伐された事は無い。そもそも何処に居るのかも分かってないうえ、フラっと人里に現れては壊滅させられるらしいのだ」


 「目的もあまりよく分かっていないみたいね。四大アンデッドは勝てない程に強い癖に、何故か人類を滅ぼそうとしていない。何か理由があるんじゃないかと言われてるけど……」


 「そりゃ生きている連中が居ないと困るからだろう? 人類が居ないと吸血鬼は増やせないし、血が必要だろう。生命力を吸収出来る相手が居ないと困るだろうし、アンデッドを使役する為にも生きている者は必要だ。スケルトンだけが分からないが」


 「<六腕骨>に関しては、強い奴と戦いたいだけなんじゃないかと言われてますね。本当かどうかは分かりませんが、人だというだけで殺そうとする連中ではありません。なら何の為かと聞かれたら知りませんが……」


 「成る程なー……ちなみに、あのバカな異界人を含めて勝てる可能性があると思うか?」


 「「「無理!」」」


 「だよなー。あれらの実力がどれほど伸びるかは知らんが、それでも勝てるとは到底思えん。そもそもあの程度の連中で勝てるなら、とっくにこの星の誰かが討伐してるだろう。その程度も分からん連中だからなぁ。いや、気付いてる奴は居るのかもしれないが」


 「中には居ると思うぞ? 王宮付きの方が都合が良いから黙っているが、自分達では勝てんと思っている冷静な者は居るだろう。全てがマヌケという事はあり得んよ。君達もそうだろう?」


 「まあ、俺達の場合はアンデッドがどの程度強いかも分かってないので何とも言えないところだ。少なくとも元の星でも戦ってきた訳で、あんな素人どもと一緒にされても困るといったところか。もちろん素人でない連中も居たけどな」


 「確かに居たが、それでも素人よりはマシか、多少優秀だなと思うぐらいだったぞ。それ以上の者は居なかった。王国はあれでどうしたいのやら。四大アンデッドどころか、<吸血公主>や<不死王>の幹部にすら勝てなさそうだが」


 「それは無理でしょう。何度かは出来たらしいけど、ここ30年は無いらしいし、相手が油断でもしてなきゃ無理だと思うわ。そんな簡単に勝てたら誰も苦労しないしね」


 「仰ってる事は分かりますし、こんな大陸の南西の国には出て来ないと思いますけどね。ただ<黒の未亡人>と<六腕骨>に関しては何処に居るか全くの不明なのが怖いんですよ。もしかしたら近くに居るんじゃないかと」


 「子供を躾る時の常套句よね。アンデッドが来るわよ、って子供の時に何回も親から言われたわ。言われた回数なんて覚えてないくらいだけど、未だに討伐もされてないのよねえ」


 「今日も何処かで誰かが殺されている、それが事実だからな。忘れてはならないが、自分達に降りかからないなら意識もしないのが人というものだ」



 もうそろそろ昼食を終えてもいいか? しんみりしているところ悪いが、どんだけ食ったんだよ、お前ら。


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