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「あ、う……ぐぅ………」
「すみません! ショウリには言ってるんですが、何故か態度を改めないんです。もっと厳しく言っておきますので、許してやっていただけませんか」
「………はぁ。そうやって君が擁護するから、いつまでもこのバカが調子に乗るんじゃないの? さっきも言ったけど、貴方達はまだ31層にも辿り着いてない。その程度の実力しか無いのよ。高がスキルを持つというのが何なのしらね? そんな調子ならすぐに死ぬわよ」
「「「「「「「………」」」」」」」
「ほら、貴方達以外の異界人の方が理解してるじゃないの。いったい何処からやってきたのか知らないけれど、よっぽど安全なところで生きてきたのね? そんな安全な所の理屈がここで通用すると思ってるなら大間違いよ。意識を変えないと死ぬわ」
「「「………」」」
「普通は騎士に習うんだと思うけど……騎士の言う事すら聞かなかったって事? そんなマヌケがいつまでも生きられるほど甘くはないわ。しっかりと認識する事ね」
そう言って<紅の旋風>のティーリマという女性は去っていった。リーダーと言っていたからクランリーダーなんだろうし、だから31層であんな時間に会ったんだろう。おっと、俺達の番が来たのでさっさと進むか。
迷宮紋で中に入った後、北西の扉まで進み31層へ。そこから北の丘の中の転移紋で61層へ。62層に進んでワイバーン5頭を狩ったら脱出。冒険者ギルドに行って売るんだが……何故かティーリマという女性がついてくるぞ? 子供達も首を傾げてる。
俺達は気にせずギルド裏の解体所に行き、ワイバーン5頭を出して木札を貰う。ティーリマの仲間と思われる女性達は驚いているが、ティーリマ本人は頷いていた。俺達はギルドの建物に入り、受付嬢に木札を提出して小金貨5枚を受け取って分ける。
その後は依頼を見ていくのだが、どの依頼をすれば効率よくランクが上がるんだろうか? 悩みながらも一枚の依頼書を持って受付へと行く。ちなみに<紅の旋風>は解体所以降はついてきていない。
俺は昨日と同じく荷運びの仕事を請けて北西区画の店に行く。そこでも馬車に商品を詰め込み、終わったらギルドへ。中銅貨15枚の報酬を貰い、俺は3枚で皆に4枚という形で分ける。歩いて渡しつつ食堂へ。
大銅貨2枚を渡して昼食を食べ、終わったらギルドへ行って荷運びの依頼を請ける。北西区にはギルドと鍛冶屋に商店が、北東にも同じく商店が多い。南西は主に住宅街で、南東は貴族を含めた高級住宅街。一応はそんな感じの町だ。
俺達は午後から北西区の2軒と北東区の1軒の店の荷運びを行い、全部で中銅貨56枚を貰った。報酬を14枚ずつに分けてランク4になった俺達は、明日からは獲物を獲ってくる依頼を請けられる。ようやく冒険者って感じがするな。
これからはダンジョン内の仕事だが、ランク4になるまでダンジョンの仕事が無いのは、あくまでもこの町でだけらしい。受付嬢が言うには、他のダンジョンがある町だとランク1からダンジョンの依頼がある町もある、との事。
この町のダンジョンは5層まで石壁迷宮であるという事が影響しているらしく、採取系の仕事は6層からであり、新人が行くような層ではないとの事。というより石壁迷宮でも、調子に乗ればネズミやウサギに噛み付かれて大怪我を負う。そこに行かせるのは危険すぎるという事だ。
流石にランク4にもなれば落ち着いてダンジョンを進んで行くだろう、という事なのだと思う。とはいえ、ダンジョンに潜る事を止める事は出来ないので、新人の死亡率と大怪我率はやはり高いらしい。
そんな話を聞いた後、酒場へと行って大銅貨4枚を支払う。俺達が食事をしていると、異界人の連中もゾロゾロと入ってきた。そもそも彼らは身体強化を使えないから、1日か2日がかりで攻略しないと31層には到達出来ないだろう。
彼らはちゃんと金稼ぎが出来てるのかねえ。10人と騎士4名の計14人だ。この大所帯で国から金が支給されてるなら、ダンジョンに慣れ次第、あの連中は奥まで進む事になるんだろう。実力も無いのに大変だ。
「どうしたの?」
「いや、異界人の連中は実力が無いから早く進めないだろ? なら泊りがけで攻略しなけりゃいけない。最初の関門は21層だ。あそこまではノンストップで進む必要がある。11層は野営層じゃないからな」
「そういえば、そうでしたね。野営層でない以上は休む事が出来ません。休む事が出来ない以上は、地図があるなら買って最短で進む必要があります」
「それでもあの大所帯では大変でしょうけどね。正直言って足手纏いも多い……というか、足手纏いしか居ないといったところですか。ならば何度もアタックして慣れるしかありませんね」
「あのバカが何度も同じようなアタックで納得するのか? という疑問はあるがな。ああいうバカが1人居るだけで、軋轢が生まれるし連携なんて碌に出来ない。お荷物だが【聖盾術】の所為で捨てられないだろう」
「面倒な状態だね? 案外誰か死んじゃうかも」
「それはそれで良いんじゃないか? それでも現実が見えなければ稀代のバカだし、俺達には関わりないからな」
子供達も頷いているし事実だが、他人事だからこそ雑談のように話していられる訳だ。お付きの騎士4人からしたら地獄だろうさ。自分達がどうにかしなきゃいけないが、素人のバカさ加減に付き合わなきゃいけないんだ。
場合によれば、とばっちりで大怪我を負うかもしれない。そんな可能性もある以上は、一番可哀想なのは騎士達かね? 周囲の会話が大声なので聞こえてないだろうが、チンピラ高校生がこっちを睨んでる。人はそう簡単には変わらない、というのがよく分かるな。
夕食後、さっさと宿に戻った俺達は明日からの依頼の事を考える。
「出来れば31層以降の納品が良いね。請けさせてくれるならだけど、ランク1~3以外の紙にはランクが書いてなかったから大丈夫じゃないかな?」
「僕もそう思います。低ランク用の仕事と、それ以外って感じでしたから。31層以降の素材も売れると思いますけど、出来れば31層に近い方がいいですね。移動が楽で済みますから」
「誰しもが同じ事を考えるでしょうから取り合いになるのでは? その際には普通に売れば良いですかね?」
「だな。普通に売ればお金は手に入るんだし、低ランク向けの仕事以外が請けられるなら、これから先は焦る必要も無い。どのみち後は素材を売っていくだけだ」
ダンジョン内部の素材を採取してくる仕事もあるが、討伐系に比べれば少ない。理由としては、そこまで有用な薬の材料などは無いからだそうだ。無いというより、採取してこなきゃいけない物が少ないというべきか。
多くの薬草は栽培されているらしく、わざわざダンジョンで命を懸けて採ってくる必要が無い。既に安定供給されている以上は無理に採ってくる必要は無いし、採ってきても売れないんだ。だから依頼としても無い。
これは依頼の紙を見ていた時に教えてもらった事だ。逆に言えば、採取してくる仕事は基本的に栽培できない薬草の採取となる。そしてそういうのは大抵が素人には難易度の高い代物ならしい。
だから薬草系の多くは、薬師を目的の層まで護衛する仕事なんだそうだ。戦えない素人を連れて行くんだから、本当に大変だよ。そういう護衛を専門でやっている人達が居るらしいが、よく出来るもんだ。
足手纏いを連れていく仕事なんて俺にはできない。絶対にお断りだし、進んでやる奴等は尊敬するよ。いや、本当。




