1918
「このオリジナルの鍵、相当に複雑なんだが……俺達の下にはいつ来る? 俺達としてはワイバーン狩りを行いたいんだが、オリジナルは冒険者ギルドが持ちたいんだろ? 複製をくれるなら構わないが、それはいつ頃になりそうなのか聞いておきたい」
「………鍵職人に聞かねば分からん。ただ、31層の鍵に比べても、異様な程に複雑だな。扉はおそらく31層の物だとは思うが……」
「31層に扉があるのか? あそこは平原と川だけだと思っていたが、あんな所に扉があるとは知らなかったな」
「31層の転移紋は北にあるが、その更に北へ行くと丘がある。その丘の東側に、丘の中へと続く扉があるのだよ。そこの鍵は長らく不明のままでな、おそらく先に続く転移紋が中にあるだろうとは言われていた」
「粘土なんかを突っ込んで、扉の鍵の型をとれば合鍵ぐらい作れないのか? そうすれば開けられるだろうに」
「昔それを考えて実行した者は、扉から黒い靄が噴出してきて死んだのだ。それ以降も馬鹿な奴は居たかもしれんが、成功した者は誰もいない」
「成る程、正規の方法以外で開けようとすると発動するトラップがあるのか……。だったら複製の鍵はどういう事だ? 複製だろう? 正規の方法ではないが、何故開けられるんだ。それも黒い靄が噴出しないとおかしいいだろう」
「分からん。おそらくでしかないが、誰かが到達する必要があるのではないか? 誰でもいい、誰かが到達さえすれば、複製を作っても構わないとなっている……唯の想像だが、大きく外れてはいないと思う」
「まあ、鍵が光って浮いているくらいだしな。だったら、これからは粘土を突っ込んで複製を作ろうとする者が現れるかもしれないな。これだけ複雑な鍵の型がとれるのかどうかは知らないが」
「うむ。異様な程に複雑だからな、現物があっても複製するのは簡単ではない。君に渡すにしても、いつ渡せるかは言えん。これを複製出来るかも分からんしな」
「なら俺が複製したコレを認めて貰おう。……そう驚かれても困るが、俺だって奪われたままではやってられないからな。だから先に複製を作っておいたんだよ。そっちがいつ複製を作れるか分からない以上、俺が自分で作った複製を認めてもらうぞ?」
「それは、まあ……君が手に入れてきたのだから構わんが、よく作れたものだな。我々としては先々の事を考えて、ギルドに鍵を預けてくれるなら何でも構わない。他の者が短縮用の転移紋を使えなくなったら困るのが本音だ」
「じゃあ、これで話は終わりだな。俺達からの話は以上だが、そっちから聞きたい事はあるか?」
「いや……うむ、これ以上は無いな。もしワイバーンを狩ってくるとしても、1日で3~5頭ぐらいにしてくれ。高く買い取る事は当然するが、大量にあっても解体できる者が多くない。何よりワイバーンの解体は難しいのでな」
「そんなものか……まあ、仕方ないな。それでも今までよりは稼ぎが良くなる。なら、それで手を打とう」
「本来なら、こちらが獲ってきてくれと言うぐらいなのだがな。逆に多く持ち込まんでくれと言わねばならんとは……。他の冒険者が持ち込む獲物もあるので、ギルドとしても高く売れる物だけ解体する訳にもいかんのだ」
「若手の事もあるし、若手が食べていけなければ育たないからな。それは仕方のない事だ。じゃあ、俺達はそろそろ酒場で飯が食いたいんで行かせてもらうよ」
「ああ。すまないが、君達が61層に到達した事は黙っておいてくれ。いたずらに広める事でもないし、実力の無い者を連れて行って死なれても困るのでな」
「分かっているし、俺達にとっても足手纏いなど要らんよ。邪魔な荷物を持って戦う気なんて無いさ」
そう言って俺達はギルドマスターの部屋を出る。夕方なので足早にギルドを出て酒場へと行く。大銅貨4枚を支払って食事を注文したら、席に座ってゆっくりと待つ。適当な雑談をしながら待ち、運ばれてきた料理を食べる。
その後は宿の部屋に戻ってようやく休めるのだが、尾行していた奴等が居て鬱陶しい限りだったな。冒険者ギルドから俺達の後ろをつけてきていたが、流石に頭が悪過ぎる。あそこまで頭が悪くてよく生き残れているもんだ。
俺はワイバーンの皮を使って、子供達の皮鎧を作りつつ皆と話す。
「宿の近くでこっちを窺っている連中が居るが、幾らなんでも頭が悪過ぎるだろう。よほど聖人になりたいらしいが、今までにもこんな事をして成功してきたのか疑いたくなる。ここまで杜撰な割には、手慣れてる感じがするんでな」
「確かにバレバレ過ぎて、杜撰としか言い様がないですね。今も気配が殆ど動いて無いですし、むしろ周りからも怪しまれていると思いますよ。何故それでも止めないのか理解できませんけど」
「きっと成功すると思ってるんだよ。成功するのは聖人にする事なのにね?」
「それは必ず成功するでしょうね。私は聖人を見た事が無いですが、何度か聞いているので理解はしています。間違いなく聖人に出来るならした方が良いと思いますし、後は知らぬ存ぜぬでかわせると思いますよ」
「そもそも証拠が全く無いからな、何かこっちに言ってきたとしても難癖でしかない。そのうえ聖人になるだけだ。別に誰かが不利益を被った訳でもなく、犯罪者が真っ当すぎる何かに変わるだけでしかない」
俺は蓮に皮鎧を着せながら、指貫グローブを翼膜で作っていく。胴体の皮は厚めで、翼膜は薄い。ただ、だからといって翼膜の皮が脆いかと言ったらそんな事もない。もしかしたら【圧縮】した翼膜の方が優秀か?。
そんな気がしないでもないが、胴体の皮は胴体の皮で使えるので、これはこれで良いかとも思う。後はイデアの鎧と3人分の指貫グローブで終わりだ。流石に胴体の皮が足りないので、これ以上は作れない。
適当な会話をしつつ作り終わった分は渡しておき、後の物はアイテムバッグに全て詰め込んだ。そういえばワイバーンの牙とか爪とか毒針とかどうするか……調べたらそこまで良い物でもないな。これなら明日捨てておくか。
子供達は鎧を着て槍を構えたりしていたが、眠たくなったのかアイテムバッグに仕舞ってベッドに寝転がる。すぐに寝息が聞こえてきたので【昏睡】を使うと、既に脱いでいたフィーが抱き付いてきた。本当に女性陣と変わらないな?。
俺と同じ神の使徒なのか若干の疑問を持つものの、大満足させて寝かせておく。外の奴等が襲ってくるかどうかは知らんが、襲ってきたら聖人にすればいいだけだ。部屋と体を綺麗に【浄化】したら、おやすみなさい。
……予想通りの行動をする奴等で笑うしかないが、それでも忍び込んできた以上は聖人化決定だ。合鍵を持っていたのか、それとも鍵を開けたのかは知らないが、俺達の部屋の前に来た奴等を全員【衝気】で気絶させ、【念動】で浮かせながら部屋の中に入れる。
白い枷を2つ着けて話を聞くと、借金のある冒険者どもだった。ギャンブルで負けて、その負けをギャンブルで取り戻そうとする、典型的な駄目人間。碌な連中じゃないが、借金でどうにもならないらしく、期限が過ぎても払えないと尻を掘られるようだ。
俺はさっさと3つ目を着けて聖人化し、窓から全員を出して、宿の前の道に並べておいた。誰も見ている者など居ないし、仮に居たとしても信じられないだろう。スキルがある星だから何か言ってくるかもしれないが、知らぬ存ぜぬを通させてもらおう。
侵入者もこれで終了だ。それじゃあ、おやすみなさい。




