1908
到着した町の門番に登録証を見せて中に入る。このダンジョン町の外れにダンジョンがある。二重の塀に囲まれているらしく、一応の防御は考えられているらしい。本当にダンジョンから溢れたら、その程度では耐えられないだろうが。
町の人に宿や食堂などを聞きこみ、教えてもらった宿へと行く。一泊大銅貨3枚、10日で小銀貨3枚だったので支払う。これで宿は確保できた。まだ時間は昼と夕方の間くらいなので、俺達は町を色々と見回る事にした。
ダンジョンのある町とはいえ、そこまで特別な何かとかは無く、あるのは普通の売り物ばかりだ。当たり前といえば当たり前だが、ダンジョンがあるかどうかで町が劇的に変わったりはしないらしい。
他の町に比べて鍛冶屋は多いのだろうと思う。比べているのが王都の工房街なので何とも言えないが、それでもダンジョンのある町では武器の需要と修理の需要は大きい筈だ。多分でしかないが。
この星でダンジョンがどのように活用されたり、攻略されたりしているかは分からないのだから、今のところはおそらくでしか言えない。そんな事を皆と話しつつフラフラと見回ったものの、特に面白い物も無く終了。食堂へと行く。
夕方には少し早いが、早めに食堂に行っておかないと混むと面倒だ。そう思って行ったのだが、既に客が多い。同じ考えの者が多いんだろうとは思うが、それだけ人も多いんだろうなー。
大銅貨2枚を支払って夕食を注文し、席に座って待っていると色々な話が聞こえてきた。
「今日は6層の魔物でそれなりに儲かったけど、お前らもう少し持ってくれないか? できるだけ一度に多く持って帰らないと金にならないぞ? このままだと7層か8層まで行く必要がある」
「おいおい、今でも厳しいのに更に奥へと行けっていうのかよ。まさか10層のボスまで行けって言うんじゃねえだろうな? 倒せりゃいいが、オレ達には無理じゃねえか?」
「流石に10層のボスまで行けとは言わねえけどよ、それでもこのままじゃ碌に金が貯まらねえぞ? 武器や防具の事も考えたら先へ進むか、多く持って帰るしかねえよ。俺達は6層だぜ?」
「先へ進んだって魔物の数が増えるだけで、魔物が変わる訳でも強くなる訳でもねえ。売れる部位を切り落として、売れる分だけ持って帰ってもギリギリだ。もっと持って帰ってくるか、10層を越えるしかねえんじゃねえか?」
「10層のボスっていやあ、オークとかいう魔物の筈。硬い皮膚とデカイ体してて、簡単には武器が効かねえって聞く。魔法が使えりゃ良いんだろうが、オレ達の中に魔法が使えるヤツなんていねえし……」
「今のところは入ってくる金の方が若干は多いが、何があるか分からないからな。誰かの武器が駄目になっちまった時点で、新しい武器を買う余裕があるかどうか……」
「また棍棒か? 棍棒使うと獲物が潰れるから儲けにならねえ事が多いからなあ。それでも安い武器っつったら木の棍棒しかねえけどよ。他に何かあるか?」
「ねえな。あったら誰もが儲かってるっての。簡単には儲からないから冒険者は苦労すんだよ。入ってくる金と、出て行く金。儲けなきゃ何かあったら終わっちまうからな」
「頼むぜリーダー。でなきゃ酒場で酒飲む事もできやしねえ」
「お前ら金があったら、あるだけ飲むだろうが。だから禁止にしたんだよ。儲けたら儲けただけ飲みやがって、いい加減にしろってなるのは当たり前だろう」
せっかくの儲けが酒で消えるっていうのは厳しいだろうなあ。いつまで経っても儲からず、安全圏に避難できない。しっかし、10層のボスがオークねえ。その程度なら倒せそうだが……あの青年達じゃ厳しそうだ。
まだ17~18ぐらいの青年? 少年? 達が儲からないって嘆いてる。他のも似た様な年齢だし、子供の頃から潜ってるのかねえ。最初の星でも似た様な光景は何度も見た。それでも十分に生きていけるだけマシだからな、同情とかは無い。
「今日は14層で儲かったけど、それでも新しい装備が買えるほどのお金は貯まらなかったわね。あいつら目が血走るから儲けやすいけど、持って帰るのが面倒なのよ、本当」
「肉はねえ……重いし嵩張るし臭いし。でもオークの肉って高く売れるから、こうやって稼げてるんだけどさ。それでも厳しい事は厳しいわよ」
「新しい武器はお預けで良いんじゃない? 今のままでも十分やっていけるんだし。流石に20層のボスに挑むのは早すぎるわよ。10層が越えられるなら普通に儲かるのがダンジョンなんだから、焦らない、焦らない」
「お金が稼げるかどうかが決まるからねえ、10層のボスは。私達にもあったじゃない、10層が越えられるか悩んだ時期が。懐かしいわねえ。といっても去年だったと思うけど」
「ボス部屋って越えられるかどうかだけだしね。越えられるなら新人は卒業できるわ。10層以降でお金を稼いで、十分に貯めてから故郷に帰った人も居るし。ウチの村にもそういう人が近所に居たからねえ」
「私の故郷にも居たよ。村の中じゃ良い暮らししてたし、そりゃ冒険者になろうって思うよねえ。その結果、物凄く大変だったと知るんだけど……」
そろそろ食事も終わるし宿へと戻るか。それにしても儲かる、つまり収支が改善するのが10層を越えてからか。つまり最初の関門がオークなんだなぁ。
この星のオークがどんな強さなのか分からないから何とも言えないが、スキルぶん回しの星の割には弱い気がする。女性達もベテランに届かない程度だというなら納得なんだが、この町の平均的な冒険者の強さすら分かってないからなぁ。
今のところは何とも言えないし、考えたところで答えは出ない。部屋で考える事でもないし、子供達の遊びに付き合うか。いつものように神経衰弱の邪魔をし、子供達に奮闘させる。
慣れているとは思うのだが、それでも邪魔をされると腹が立つのだろう、今は蓮が抱き付いて来ている。俺の邪魔をしてイデアへのアシストにしているのか、抱き付く事でストレスを緩和しているのか。そこは分からない。
イデアも邪魔されたり、地味な嫌がらせを受けて疲れている。俺は絶対に合わせようとしないので、余計な情報が次から次へと入ってきて情報過多に陥るんだ。それでミスして余計に混乱する。
2人とも今はすぐに冷静に戻れるが、それでも混乱した際に記憶が曖昧になるし、記憶に自信が無くなってくる。自分の記憶を疑い出したら更に悪化の一途を辿るからなー。流石に終わったけど、イデアも久しぶりで大変だったみたいだ。
疲れた表情をしている子供達を休ませ、俺はゆっくりと神水を飲みつつ【探知】と【空間把握】で調べる。悪意は無いので一応だが、それでも人が多いと何があるか分からない。警戒を緩めるのは危険だ。
飲み終わった俺は、買った壺を土鍋に変えてアイテムバッグに収納しておく。終わって子供達を見ると疲れたのか、自分でベッドに寝転がり寝ていた。
俺の物作りが終わったのを見たフィーがいそいそと用意をし始めたので、子供達に【昏睡】を使った後、フィーを満足させて寝かせる。部屋と体を綺麗に【浄化】したら、俺も寝よう。今日も一日お疲れ様でした。
<実験惑星4日目>
おはようございます。今日からダンジョンに行ってお金稼ぎをしますが、どこまで行けるかは分かりません。冒険者ギルドに行って地図でも売ってれば良いんだが。まずは自分達の実力で進んでみよう。
次の層へ進むのは、おそらく今までと変わらず転移紋だろう。ならそれを調べるだけで済むし、それなら【探知】で分かる可能性がある。駄目なら【空間把握】で調べよう。
朝の日課を終えて、神水を飲みつつダラダラ考えていたらフィーが起きたようだ。なにやらジッと見てくるが、何かあったのかな?。




