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 一応女性を保護するのだが、まずはウェルの予備の服を着せてからにした。俺が【念動】で持ち上げてウェルが着せていき、終わったら【念動】で持ち上げたまま脱出紋へと向かう。その前に壺を使ってもう一度【浄化】しておく。


 女性を脱出紋の近くに置き、俺は最奥の端まで行って一周する。それなりに呪いを吸い込んだものの、濃い呪いというよりは残滓という程度だった。全て綺麗にしたら脱出紋へと戻り、女性を持ち上げて脱出する。


 外に出た俺達は椅子に座って休憩するのだが、新たに椅子を1つ追加して女性を座らせる。意識が無い女性が横にズレて倒れてしまうので、仕方なくカマクラの中にすのこと布団を敷いてその上に寝かせた。


 少し早いが今日はもう夕食にしようという事で、蓮は麦飯、イデアはスープを、ウェルはサラダを、そして俺は竜の塊肉を焼く。皆はそれを聞いただけでテンションが上がり、各々がそれぞれの料理を行う。


 ウェルが終わり、イデアが終わってある程度経ったら、俺は塊肉の準備をしていく。香辛料を塗して揉み込み準備を整えたら、じっくりと集中して最高の焼き加減で熱を通す。肉を焼くといっても、それは拘るなら簡単な事ではない。


 【空間把握】を使い、肉の状態を一切見逃さず最高の焼き加減を続けていると、その匂いに我慢出来なくなったのか女性が起きてきた。俺は特に気にする事も無く最高の焼き加減を続けるが、他の皆はビックリしているらしい。


 まあ、最奥で助けて目が覚めなかった女性が、竜の塊肉の匂いで起きたらビックリするか。そう思いつつも肉の焼き加減は一切逃さない。自分自身の持てる全てを結集して焼いていると、女性が話し始めた。



 「………ありがとうございます。私を救ってくれたのが貴方だ「それは後だ」と」


 「今は竜の肉を焼くのに集中したい。話は後で聞く」



 俺は女性の話をぶった切り、後で話すように言う。俺にとって今大事なのは、この女性ではなく最高の焼き加減の竜肉だ。どうせこの女性にも食べさせるんだから、何故こっちを優先したかは分かるだろう。


 ゆっくりじっくりと焼いていき、蓮に麦飯を炊くのに集中するように言う。驚いていた蓮は、ようやく俺が代わりにやっていた事を理解したらしく、慌てて自分で【加熱】し始めた。


 その後、俺が焼いている竜肉も焼け、麦飯も炊けたので配膳していく。もちろん女性の分も用意し、全員の前に料理を並べ終えた。それじゃあ、いただきます。



 「うん。竜肉はいつ食べても素晴らしいな。で、さっき喋ろうとしていたけど、何が言いたかったんだ?」


 「…………ハッ!? 今、何が……私はこの肉を食べて……まさか意識が飛んでいた? そんな! 私の意識が飛ぶなんて!?」


 「んーー!! おいしい! このまえもたべたけど、おいしい!! りゅうのにくはさいこう! あーー! おいしーーー!!」


 「うん。美味しいという言葉しか言えないよね。本当に美味しいよ」


 「ニャー!」 「………」


 「そろそろ落ち着いたか? 竜の肉を初めて食べたんだから、驚きとかでそうなる事もある。で、何が言いたかったんだ?」


 「申し訳ありません。私の名前はフィーヴィライア、かつての時代において生命の神の使徒であった者です。私は下界の生命達の荒れように心を痛めた神より派遣され、そして捕まり実験の限りを尽くされました」


 「人体実験? いや神の使徒だから人体ではないか……それにしても、何処にでもマッドなクズは居るんだな。碌なもんじゃない」


 「私の体は使徒の肉体です。その時代の人間種より遥かに頑強でした。そして数々の実験の結果、私は怨みと憎しみに囚われてしまい……以降はおそらく、この場に何千年と居たのだと思います」


 「ん? ……もしかして君は【呪魂環】の大元? つまり呪いを兵器利用しようとした結果生まれたんじゃなく、もっと古い時代において呪いの大元になったのか。まさかこの星に呪いが蔓延るキッカケの人物とは……」


 「しかし、神の使徒とはいえ、そこまで呪いを撒き散らせるのか? この星を蝕み続けていた呪いなのだぞ? 神の使徒ではあるが、1人で出し続けられるものなのか疑問に思える」


 「当時の私は生命の神より多くの力を貸し与えられていました。おそらくその結果でしょう、死ぬ事も出来ずに呪いを生み出し続けたのは。かつての私はその心を闇に落としていたのです」


 「………この人、何か他人事みたいに言っている気がするんだけど、蓮の気のせいかな?」


 「いいえ、気のせいではありませんよ。今の私は完全に浄化されており、元の私と同じではありません。何より、呪いの大元になった時に元の私は潰えています。今は浄化された別の者と言えるでしょうね」


 「やっぱり思っていた通り、呪いに汚染されきったら、それまでの自分は無くなるんですね。アルドさんが浄化したり、白い枷を使えば変わるのは当たり前ですけど、呪われた段階で変わるなら気を使う必要はありませんね」


 「そうだな。まあ、元々赤く光る奴だけを変えているから、どうこうは無いんだけどな。……そういえば今の今まで囚われていた割には、色々な事を知っているみたいだが、それは何故だ?」


 「遥か上位の神々より私に対し多くの知識を与えられたのと、生命の神からは「共に行き、お支えするように」と言われています。私を生み出し、下界に派遣されたのは星を司る神です」


 「ああ、惑星に準ずる神な。それは別にいいんだが、元の君とは別の人格であり、かつての事は知識として知っているだけといったところか。何だったら新しく生まれたと言っても過言じゃないな。肉体が使い回しなだけで」


 「そうです。この肉体は元々の使徒のものですが、私は新しい使徒だと言えるでしょう。これから宜しくお願いします」


 「私達も、よろしく頼む。………アルド、本当に大丈夫なのか?」


 「さっき彼女が言ってたろ? 遥かな神々って。間違いなくいつもの神様連中だ、あの方々は一応最高位の神だからな。で、あの神様連中が関わってるなら絶対だよ。ついでに悪い奴じゃないし、おかしな奴でもない。あの神様連中が、そんな奴に知識を与えたりなんてしないさ」


 「まあ、神様が関わっていらっしゃるなら大丈夫か。それに新しく生まれた者であれば、再び呪いを噴出するなどという事もあるまい。それはそうと、あの動物のような姿は何だったのだろうな?」


 「動物の……ああ、これですか」



 女性がそう言うと、右腕が蔦のような触手のような形に変化してウネウネと動き始めた。皆はビックリして固まったが、俺はすぐに分かった。あれも使途の肉体に使われたものだ。何て事をするのやら。



 「それは彼女の肉体が変化したものだ。つまり、彼女の肉体は元々ああする事が出来る肉体なんだよ。生命の神はそんな肉体を自分の使徒に与えたという事だ」


 「すみません、名前で呼んでいただけますか? 先ほど申した名も、元々は神より授かった名ですので」


 「ああ、すまん。フィーヴィライアは長いから、フィーと呼ばせてもらう。で、フィーの肉体はおそらくだが自在に変えられるんだろう。色んな生き物の肉体にな。だから呪いを噴出していた時はキメラのような見た目をしていた訳だ」


 「「???」」



 ウェルとフィーにはキメラが伝わらなかったので、その説明もする羽目になったが、それで伝わったので納得してもらえた。とはいえ大きく変えられる訳じゃないらしく、体の各所を動物系のものに変えられるくらいだった。


 虫とかは無理で、動物も制限が結構ある。だが首から上を熊に変えた時などは優秀で、嗅覚などもかなり向上するうえに、強力な噛み付き攻撃も行う事が可能だった。


 ここまでの事が出来て、何故捕まったんだ? 逃げる事も容易くできたろうに。


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