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子供達や2匹にウェルにも手伝ってもらい、少しずつでも呪いを浄化していく。もちろん俺は一気に【浄化】していくが、皆はゆっくりとなる。忙しいとは思うが皆には頑張ってもらいたい。
魔物が出てくるかもしれないので、一応武器を持ったまま浄化してもらっている。流石に呪いの中から急に現れたら避けられないので、子供達はウェルを先頭にして後ろから浄化しつつ進む。
俺は逆に単独行動で皆から離れつつ、【浄化】の権能と【神聖世界】を使いながら広範囲を浄化していく。今のところ魔物は出てきていないのだが、濃い呪いが充満し過ぎていて禄に【探知】や【空間把握】が効かない。
おかげで一寸先は闇という状態で移動を続けている。特に川があるので注意しなきゃいけないのだが、向こうは大丈夫だろうか? 俺が広範囲を一気に浄化しているので、川に落ちるとかは無いと思うんだが。
そんな事を考えつつも呪いをどんどんと浄化していき、北にぶつかったので今度は東に行く。【浄化】の権能も【神聖世界】も使いつつ東に向かい、突き当たったら今度は南へ。それらを繰り返し、まずは外側を【浄化】しきった。
次に内側の呪いの【浄化】だが、これは簡単で【探知】と【空間把握】を使えば呪いのある場所をすぐに見つけられる。あとはさっさと【浄化】するだけだ。全て【浄化】しきったら皆と合流し、川の水を神水にして補充したら転移紋へ。
「それにしても、入ってきた時とは雲泥の差だな。あれほどまでに濃い呪いに塗れていたというのに、今や清浄ささえ感じるほどに綺麗になっている。まあ、この空気がいつまで保つのかは分からんが……」
「それより魔物が出てこないね? 魔力も闘気も感じないし、気配も感じないから居ないんだと思うけど……何でだろう?」
「呪いが長くあったから出てこられなくなったのかな? 出てきても呪いに汚染されて耐えられないとか?」
「まあ、あそこまで濃い呪いなら分からなくもない。もはや変質とか以前の問題で、死ぬか新たな呪いとして取り込まれかねないぐらいだ。それに何より、ここは【呪魂環】が壊れた跡地に作られたダンジョンだしな」
「そういえば、そうだったな。壊れた後に”作られた”のだった。呪いを封じる為に作られたのなら、普通のダンジョンと同じな訳が無い」
「さて、転移紋まで来たが……よく聞いてくれ。次の層も転移した瞬間、一気に浄化するからそのつもりでな。おそらく次の層も呪い塗れだろう、だから気を引き締めておいてくれ」
俺はそう言って、皆と共に転移紋へと乗る。2層へと転移した瞬間【神聖世界】を使い広範囲を浄化したが、やはり呪い塗れで周囲が見えないほどだった。1層と変わらない状況に安堵するやら、溜息が出るやら。
再び1層と同様に皆と手分けして浄化していく。川に気をつけるように言っておいたので落ちる事は無いと思うが、目の前が見えないというのも厳しいからな。とはいえ、ここまで濃い呪いには無駄に接近しないとは思うが……。
俺は小走り程度の速度で【浄化】しつつ、時折【神聖世界】を使い広範囲を一気に浄化していく。あまり魔力を使いすぎず、ある程度温存しながら使っているのは万が一を考えてだ。流石にギリギリまで魔力を使うと戦いに負ける恐れもある。
闘気は使ってないので余程の事が無いと負ける事は無いが、だからといって後先考えずに行動する訳にはいかない。ここまでの呪いだと子供達にも2匹にも良い経験になるだろう。ウェルに関しては経験以前の問題だな。
2層が終わったので3層へと進む。時間的にはそこまで掛かっている訳では無いが、魔力的な疲労は大きい。なるべく無駄な魔力は使わず、効率的に魔法を使う練習としては最適だ。上手く使わないと、すぐに魔力が無くなる。
皆にはちゃんと効率的に魔法を使う事を意識するように言い、神丹を飲ませておく。これで3日は高速回復し続ける。ジト目で見られたものの、この呪いの量を見れば仕方ないと諦めた。皆だって役に立っているからこそ、神丹を飲ませたと理解出来たんだろう。
3層も小走りしながら浄化していき、終わったので合流して4層へ。神丹を飲ませたからか皆の速度が上がってる? 4層を終わらせて5層へと進み、5層が終わったので昼食にする。昼までで5層と思うかもしれないが、それでも皆も含めて頑張った方だ。
川の傍に焼き場やテーブルを作り、蓮に麦飯を、イデアにスープを、ウェルにサラダを頼み、俺は肉とタレの準備をする。香辛料などを混ぜていき、火を入れ、魚醤ベースと味噌ベースのタレを作成。それと薄く【分離】した肉を大量に用意する。
皆の料理を手伝いながら進めていき、麦飯が炊けたら金網を出して焼き台にセット、焼肉を始める。ヘビーブルの肉とデスボーアの肉を焼きつつ、焼けた肉をタレに付けて食べていくが、久しぶりの焼肉も良いな。
「うん、お肉が美味しい。熱々のお肉をすぐに食べるのが良いね。……今は凄く綺麗だけど、入ってきた時のアレが酷いダンジョンだよ。毎回ビクッってする」
「分かる。濃い呪いって抗えないよね。背筋がビクッとするっていうか、すっごく怖い。浄化していくとそうでもないんだけど、最初は周りに多いからビクッとしちゃうんだよね」
「すぐにアルドが【神聖世界】を使って呪いを浄化してくれるのだが、その一瞬が厳しい。最初は脱出紋の上以外、完全に呪い塗れだからな。完全に呪いに圧迫されていると言ってもいい」
「すまないが、あれ以上早くは出来ないぞ? あれ以上早く使うと不発の可能性もあるし、場合によってはおかしな事になるかもしれん。だから完全に転移が終わったタイミングでしか使えない」
「それはそうだろうな。私達も転移が狂っておかしな事になっても困る。脱出紋の上という安全地帯でなくなったら、間違いなく呪いの生物の仲間入り、もしくは死ぬしかない」
怖い話は止めにして昼食を楽しみ、終わったら片付けて少しゆっくりとする。トイレなどを済ませたら転移紋へと進み、6層へと転移した。
再び呪いを浄化していくが、地形は変わらず川のある草原だ。ここは10層毎に地形が変わるダンジョンなんだろう。昼食を食べてリフレッシュ出来たからだと思うが、皆も元気に浄化を頑張ってくれている。
6、7、8、9層を浄化し、10層への転移紋を前にして帰る事にした。10層まで行けば次の地形だろうが、今日はここで終わりにした方がいい。初日から根を詰めても仕方ないしな。
外へと戻ると既にそれなりの時間であり、俺達は焼き場で紅茶を淹れて飲む。ダンジョン内の大変さを話していると夕方になってきたので、夕食の準備にとりかかった。
夕食後、後片付けを終えたらさっさとカマクラの中に入り、すのこを敷いて布団を敷く。子供達も2匹も神丹を飲んだとはいえ疲れたらしい。魔法使用の効率化をしなければいけないのだし、丁度良いタイミングだったのは間違い無い。
子供達も2匹も考えながら使っていたようだし、明日も続けるのだから良くなっていくだろう。ウェルはそれ以前の問題なので、頑張って正確に素早く必要なだけの魔力を使おうか。
「それがもう達人の領域だと思うのだがな。とはいえ子供達がやっているのはそこから先なのだから、私もまずはそこへ到達しなければ駄目なのか……」
なんだかウェルがガックリしているが、そもそも今すぐやれと言ってる訳じゃないんだから問題ないだろうに。子供達だって2匹だって頑張ってきて今があるんだ。すぐに出来るようになれば、誰も苦労なんてしないさ。
そう言うと少し安堵したようだ。




