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俺はアイテムバッグから大太刀を取り出して一閃、当たり前のように斜めに両断し木が斜めにズレて倒れた。竜の素材で作られた大太刀だが、この程度の木であれば余裕で切り倒せるらしい。確認の為に行ったが予想通りか。
「とんでもない切れ味だな。異常と言ってもいいが、アルドが使っているので何とも言えん。おそらくは竜の素材で斧でも作れば、簡単にこの木を切り裂くのであろうがな。アルドの技だからと言えなくなくもない」
「竜の素材だから安心してこんな事が出来るんだが、竜の素材以外でも切れる可能性自体はある。まあ面倒だし、これ以上はしないけどな。本来ならこの木は優秀なものだし、素材としてのランクは高いんだが……1本で十分だな」
俺は大太刀で切った木の枝を落とし皮を剥いだら、2メートルの長さの丸太にして収納していく。それが完了したら出発だ。まずはここから北西にある地図の丸印へと進む。おそらく集落だと思うが、どうなんだろうな。
俺達は木々の間をすり抜けながら走って行く。木は大きいのだが、その反面木と木の間も広い。なのでそこまで苦戦する事も無く俺達は走って行き、途中で出てきた魔物は枷を4つ嵌めて真っ白にしていく。
そうやって進んでいると1つ目の丸印の場所に辿り着いた。正確にはその近くだが、やはり呪われた連中の集落だった。そしてそこに居たのは、なんとオーガだ。高濃度の呪いに汚染された連中はオーガになったらしい。
前の星でもそうだが、オーガというのはゲームなんかに登場する者とは違い頭がそれなりに良く、更には人間種より圧倒的に高い身体能力を持つ。ゴブリンやコボルトにオークとは比べ物にならない程の高い知性を持つ。それがオーガだ。
そりゃ西から攻めて来る者達に備える筈だ。オーガが攻めてくるっていうのは、流石にちょっと洒落にならない。頻度が少なくて助かったなというレベルだ。子供達も自分の目で見て理解したからか、ちょっとヤバいのが分かったらしい。
俺達は集落が見える場所から離れ、少々作戦会議を行う。夜の間なら簡単に聖人に変えられるんだが、今は日中だ。まして集落を示している丸印はそれなりに多い。夜間のみ変えるとなれば時間が掛かる。
「日中に変えても良いと思うが、それをどうするかだな。集落の中に居る者を全て変えたとしても、狩りなどに出かけている者が居るだろうから取りこぼしてしまう。かといって放置しても行けぬし……」
「赤く光る腕輪をつかっちゃ駄目なの? オーガだけど、元々は人間種なんだよね?」
「………どうやら大丈夫みたいだ。お手柄だな、蓮。罪を暴く腕輪をしつつ、変質してオーガっぽくなってる奴等を変えていこう。枷は4つだ。こいつらには枷を4つ着けて、この森の浄化を担当してもらおう」
俺は素早く【昏睡】を使い、集落の者を眠らせていく。次々に眠っていくので不審に思ったのだろうが、そんなオーガ達には構わず一気に眠らせ、集落の中に起きている者が居なくなったら集落に入る。
皆に枷を4つ渡し、手分けしながら一気に真っ白な何かに変えていく。今まで赤い肌だったのに真っ白な肌に変わっていく時点で、こいつらは人間種より魔物寄りだという事が分かる。高濃度の呪いに侵された時点で手遅れか。
そこまでの人数では無かったのですぐに終わり、集落の中に変える者が居ないのを確認したら合流。枷を回収したら皆で集落から離れる。あとは【覚醒】を使って全員起こし、俺達は罪を暴く腕輪を頼りに移動する。
森の中でオーガを見つけたら【衝気】で気絶させ、枷を4つ嵌めたら3分待つ。終わったら離れ、【覚醒】を使って起こしたら先を急ぐ。木々で俺達の姿が見えないから出来る事であり、平地だったなら強襲するのは難しい。バレバレだしな。
ある程度変えたからか罪を暴く腕輪の反応が無くなった。どうやら近くには居ないようなので、地図を見て次の場所に向かう。次は最初の集落の西に丸印があるのでそちらに進み、2つ目の集落を発見した。
再び【昏睡】を使って眠らせていき、全員を眠らせたら枷4つで真っ白に変貌させていく。それを行っていると、どうやら狩りに行った連中が帰ってきたようだ。狩りの連中は寝ている集落の者に慌てて駆け寄り確認するが、その瞬間【衝気】で気絶させ【昏睡】で眠らせる。
俺達はすぐに狩りに出ていた連中も真っ白にし、残りの集落の者も真っ白に変えていく。全て終わったら合流し、枷を回収したら集落を出る。ある程度離れたら【覚醒】でオーガを起こし、それが終わったら集落から遠ざかる。
そのまま離れ、俺は焼き場やテーブルを作って昼食の準備を始めた。流石に今の時間は昼を過ぎている。子供達もお腹が空いているようだし、さっさとタコスモドキを作って食べ、食後は少しゆっくりとする。
「オーガだったのは驚いたが、それでも樹海ではああいう形で進むと思う。皆も大変だろうがよろしく頼む。流石に真っ白になった以上、アレは人間種寄りではなく魔物寄りの存在だ。真っ白に変えておけば浄化能力を持つので、樹海を浄化してくれるだろう」
「それは大変良い事ではあるのだが、あの白く変わった種族がどんどんと増えると、最後はとんでもない事になりそうだがな。浄化し尽くしても尚、浄化を続けそうな気がする。それとも増えたり減ったりを繰り返すのであろうか?」
「さあな。そこは俺達が考える事でも責任を持つ事でも無い。神様から「止めろ」と言われない以上、やっても問題無い事なんだろう。あれだけ聖人にしたりしてきたのに、神様達からは一切何も言われてないからな」
「神様は何も言ってないけど、駄目って事は無いの?」
「枷を貰う際に【浄神】が言っていたんだが、やってはいけない事なら神様達が止めるから、いちいち考えずにやれと言われたんだよ。悩む必要は無いってな」
「成る程。それでアルドさんは神様が止めてないから大丈夫と言ったんですね。駄目なら止められる以上は、止められないなら問題無いって事になりますし」
そうなんだよ。神様達が止めないって事は、俺のやっている事は問題ないって事になる。問題があるとすれば、神様達と【世界】の考えがどれだけ違うかという事だ。場合によってはそこのズレが決定的で、俺は【世界】から滅ぼされかねない。
可能性としては低いが、無い訳じゃないのが怖いな。まあ、それを言い始めたら際限が無いから考えても無駄なんだけどね。そろそろお腹も落ち着いたし、トイレを済ませて出発するか。確認しても赤く光る奴は居ないし。
全員が済ませたら全て壊し、更地にしたら出発する。次は真っ直ぐ南に向かってある程度の距離を走る必要がある。集落と言ってもバラバラにあるのでちょっと面倒だ。それでも【探知】を使えば生命反応が固まっているので分かりやすい。
それなりに離れていた集落も、全員真っ白に変えて次へ。そこから南西へと進んだ集落も変えて離れた。少し北へと進んでいき、ある程度広い場所を見つけたのでカマクラを作る。夕方には早いが、そんな事を言っていたらすぐに日が沈んでしまう。
焼き場やテーブルなどを作って準備完了。蓮に麦飯を頼み、イデアにスープを頼む。ウェルにはサラダを頼んで、俺はイエローボアの野菜炒めとデスボーアの角煮を作る。野菜炒めも角煮も簡単なのでさっさと作り、終わったら他を手伝う。
周りの気配やらを探りつつ、罪を暴く腕輪を確認するが異常は無し。【探知】に反応はあるものの、そこまで警戒するほどの反応は無い。カマクラで寝泊りしても大丈夫そうだな。
どうやら麦飯が炊けたようなので、おかず類を温め直したら配膳する。終わったので食べようか。それじゃあ、いただきます。




