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「知っていたという訳ではないのだが……突然誰かが居なくなるというのはあったのだ。まだ群れにいた頃、不意に誰かが居なくなるという事がな。その頃は何も思ってはいなかったが、あれは突然死していたのだろう」
「しかし死んだら流石に分かるだろうし、ドラゴンである以上は死体も大きく残るだろう。ウェルが知らないし、気付かない事があるのが驚きだがな」
「アルドはおそらく勘違いしているな。生まれて10年もすれば人間種と似た肉体に変身というか変化できるようになる。そうなって以降は、群れの中では人間種の姿で生活する。死んだ時もおそらくその姿なのだろうと思う」
「ドラゴンが人間種の姿に変身してるんですよね? にも関わらず、死んでも変身は解けないんですか? 元々の姿はドラゴンの姿の筈なのに……」
「私も突然死した者を自分の目で見た事が無いから、ハッキリとは言えないのだが、「ドラゴンの姿で死ぬ事は恥」という事を大人達が言っていたのは覚えている。まだ子供だった時だが」
「恥ねえ……もしかして、それが祖先と同じって事か? 突然死で死体となり他の生き物に喰われる。ドラゴンの祖先がどうなって喰われたのかは知らないが、少なくとも喰われた事は事実みたいだからな」
「その可能性はある。それ故にドラゴンの姿で死ぬ事が禁忌になっていったのやも。その割にはアルドの前でドラゴンの姿になり、次々に殺されたが……」
「もう、分かっていないんじゃないか? 昔から伝えられている事も途中で捻じ曲がったりとか普通にあるぞ? もしくは誰かが途中で意図的に捻じ曲げたりとかもな」
「色々な事があって、昔の事なんて誰も覚えてないみたいだしね。何かの大きな事とか、憎しみだけ覚えてる気がする。竜の神様は滅んでもいいって言ってたんだから、そういう意味でもドラゴンは仕方ないんじゃない?」
「そうだね。アルドさんが聖人に変える以外は、好きに滅んでいけばいいと思う。そもそも100年で子供が出来なくなるって事は、実質100年の寿命って言っても良い気はする。それ以上はダラダラ生きているだけだし」
「それは私も知らなかったな。100年以上生きているドラゴンは子を産む事が出来ぬとは……しかも雄も雌も両方がだ。説明したところで愚かな雄どもは止めぬであろうがな。突然死が無くなっている私からすれば、もうどうでもいい事だ」
「そういえば、そうでしたね。ウェルも本当の意味で不老長寿という事で……? ドラゴンって突然死するんですし、不老長寿って言っても半分だけでしかないのか」
「ああ、そういう事であろう。私は違っているし、これからもアルドの雌として生き続けられる。それだけで十分だ。全てを差し出しておいて、主の許可も得ずに突然勝手に死ぬなどと言う事はないのだからな」
やっぱり呪いの生物の心臓は取り扱いを気をつけなきゃいけないな。仲間内だけで食べて済ませるべきだし、食べられないなら燃やしたりして誰も恩恵を受けられないようにしておかないと。
おそらくだけど天然の呪いの生物になった奴の心臓も、少なからず似た効果は持っていると思う。ダンジョンの最奥ほどおかしな効果は無いだろうが。……とはいえ呪いの生物の心臓を食っても、新たな呪いの生物になるだけではある。
なので、そこまで心配する事でもない。そんな話をしつつ適当に過ごしていると、子供達は眠たくなってきたのか自分で布団に寝転がる。2匹を左右に寝かせて【昏睡】を使って深く眠らせ、次はウェルなんだが……。
ウェルはどうやら何かを考えながら近寄ってきた。どうも俺達に会えなければ突然死していたかもしれない事に、今さら恐怖感が湧いてきたらしい。なのでじっくり丁寧に優しく撃沈しておく。
結局スるのかと言われそうだが、望んだのはウェルなので何とも……本当に恐怖してたのか、そういう体でシたかったのか分からないな。まあ、綺麗に【浄化】して服を着せよう。その後は【昏睡】を使い、扉を開けて部屋の外へ。
隠密の4つの技を使いつつ、宿の客から順番に聖人にしていく。罪を暴く腕輪をして、しっかり確認しながら聖人にしているが、相変わらず青く光る奴が居ない。どこまで腐った連中ばっかりなんだと思うが、赤く光る以上は全て聖人にしていく。
宿の客が終わったら、宿の従業員、それが終わったら宿の周囲の建物へ。多くの者を聖人にしていき、ある程度の時間で宿へと戻る。流石に時間がかかる場所なので、急いでやっても仕方がない。
自分を綺麗に【浄化】したら宿の部屋へと戻り、ベッドに寝転んだら、おやすみなさい。
<呪いの星107日目>
おはようございます。今日からは時間のかかる聖人化の作業です。それでもやらないといけないのでキッチリやるけども、本当に大変だと言わざるを得ません。朝の日課を終えて、紅茶を淹れながらボーッとする。
皆が起きてきたので朝の挨拶をし、食堂に移動して大銅貨3枚を支払って食事をとる。宿の部屋に戻ってきたらベッドに寝転がり、おやすみなさい。
……イデアに起こしてもらった俺は、部屋と体を綺麗に【浄化】して部屋を出る。今日は皆も寝ていたり、ゆっくり休んでいたらしい。王都に来るまで移動しながらの聖人化だったしな。移動ばかりで疲れただろうし退屈でもあっただろう。
それはいいんだが、変な奴等に絡まれなかったか? そう聞くと、今日のところは無かったようだ。ただ雰囲気はあまり良くないとの事。聖人化が進めば下らない事をする者も居なくなるんだが、昨日始めたばかりだしな。
食堂に着き大銅貨3枚を支払ったら、席に座って待つ。近くの客も色々話しているが、どうしても先行きの不安からか愚痴ばかりだ。そういう話は余計に暗くなるだけなんだがな。
食事を終えた俺達はすぐに宿へと戻った。雰囲気が良くなかったし、長く居ると面倒なのに絡まれる可能性もある。そもそも暴動が起こった町なんだから、警戒するくらいで丁度いい。そんな事を話しつつ、野菜スティックを食べる俺達。
今日も肉、肉、肉の食事だったんだが、昼も同じだったようだ。食料があるだけマシだとも思うが、流石に野菜類が殆どないのはマズい。そのうえスープの中のちょっとじゃ、必要な栄養がとれてない可能性が高いんだ。
熱を通すと駄目な栄養素がある以上、火が通った野菜ばかりも体に良くない。そんな事を説明しながら野菜スティックをボリボリ食べている。草食動物になった気分だが、諦めてもらおう。
全員が気にせずに食べているが、それぐらい肉ばかりだったんだなぁ。日中はダンジョンに行って野菜類を探してきた方が良いのか? そんな事を言ったのだが、ダンジョン街は人が多いし面倒臭そうなんだと。気持ちは分かる。
子供達はトランプで遊んでおり、俺はダリアをブラッシングする。すぐに眠るものの綺麗にしていき、2匹と子供達が寝たら布団に連れて行く。寝かせていき【昏睡】を使ったら、ウェルからリクエストがあったのでその通りに。
満足したウェルも梳いていき、眠った後も続けて綺麗になったら【浄化】をする。その後は服を着せてベッドに寝かせ【昏睡】。ようやく聖人化2日目を開始できるな。隠密の4つの技を使い窓から外に出たら、赤く光る奴等を聖人に変えていく。
昨日の続きをしていき、宿の周囲へと広がるように変えていく。これが一番安全を確保できるのと、襲ってくる奴がいた場合に反応できるからだ。まだ王都ドレンでの安全が確保された訳じゃない。
気をつけておかないとな。




