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ウェルも出てきたので朝食を作って食べ、少しゆっくりした後に準備を整えたら、壊して整地して出発する。西へと進んで行きつつ魔物を白く変え、急がすに変えていく事を優先しながら進む。
「どうして魔物を白くする事を優先するの?」
「地震があったからと、その所為で邪気と呪いが混じったヤツが居たからだな。本来なら邪気が溜まらない筈が、実際に邪気を持つヤツが居た以上はな、浄化できる者を増やしておく必要がある。じゃないと、邪気と呪いのヤツが際限なく暴れるかもしれん」
「そういえば他の人を殺して邪気を吸収したり、呪いを吸収して動き回るんでしたっけ? 食べなくても無限に動き続ける訳ですから、殺戮を続ける危険な存在なんですよね。首を切り落とせば止まりますけど」
「そうなのか? ならばそこまで強い訳ではないな。ドラゴンであれば倒せるだろう。問題は私以外のヤツが倒そうとするかだが……」
「それ以前に邪気と呪いが混ざっていると非常に強化されるから、近付いたら高確率で邪気と呪いに汚染されるぞ? だから迂闊に柄づくのは危険だ。遠隔から倒すのが基本だな。まあ、浄化すれば倒せるんだが……」
「でも邪気だけや呪いだけより強いんだよね? アルドは邪気と呪いが混ざると簡単には浄化できないって言ってたし」
「まあな。もちろん権能を使えばあっさり【浄化】できるんだが、普通に浄化魔法で倒すのはかなり大変だ。この星では滅多に生まれないだろうが、可能性がゼロではなくなったからなぁ」
「確かにそうですね、現に居ましたし。邪気に関わる魔物が居ないとも言えませんので厄介ですね。それでも邪気だけなら強くないんですけど、この星には呪いが多いですから……」
魔物に枷を4つ着けながらもダラダラ会話をしている俺達。別に魔物を舐めている訳でも侮っている訳でもない。話している余裕があるだけだ。そうやって会話しながらも進みつつ、昼になったので昼食を食べ、終わったら更に西へと進んで行く。
この辺りは荒地とまでは言わないが、割と近くに木々が無いので見通しはいい。真っ直ぐ西に進んでいるのは【探知】や【空間把握】で分かっているので、ズレないように真っ直ぐ進んで行く。
そうしていると突然目の前にドラゴンが降りて来た。そのドラゴンは何故かウェルの背後に回ると「助けて!」と言い出した。女性っぽい声だったが……そう思うと5頭のドラゴンが俺達の前に「ドスン!」と降り立つ。迷惑な奴等だな。
「ほう、都合よく同胞の雌の近くに降りたのか、褒めてやる。お前達まとめて我らが可愛がってやるから感しぁっ!?!!」
下卑た視線と碌でもない物言いに即座に気絶させ、5頭のドラゴンの手足に4つ枷をつける。ウェルに助けを求めた女性は何が起きているのか意味が分かってないようだ。3分待って真っ白になったら枷を外し、【昏睡】を使ってからこの場を去る。
何故かウェルに助けを求めた女性が後ろからついてくる。いやいや、ドラゴンの巨体でついてくるとか勘弁してくれないか? そう思いつつ罪を暴く腕輪を装着すると、そいつも赤く光る。……こいつ! 俺は即座に【昏睡】を使い強引に眠らせようとした。
しかし俺にも意識を向けていたのか抵抗してくる。とはいえ、ドラゴン如きが抵抗できるほど甘いものではない。眠たくなってきて一瞬意識が逸れた瞬間に、【衝気】を使い気絶させる事に成功。さっさと枷を4つ嵌める。
そういえばと思い、罪を暴く腕輪をウェルに向けると青く光った。
「アルド。私を聖人にするのは止めてくれないか?」
「いや、そうじゃなくてな。ウェルは昔、自分を犯そうとした奴を殺して群れを出たって言ってたろ? それも罪なのかと思って調べたら青いんだよ。だから神様的には仕方がないって事なんだと思ってな」
「ああ、そういう事か。まあ、神々も流石に同胞の雄のクズさ加減に呆れ、お許しくださったのだろう。あの時にクズを始末したのは間違いなく事実だ。その後は目立たぬように生きてきたしな。喧嘩などはあったが、殺しまではしておらん。魔物以外はな」
「となると、あの追いかけられていたドラゴンは何故赤く光ったのでしょうね? 追いかけられて助けを求めていたにも関わらず。しかも被害者みたいに見えましたけど……」
「あっ!? こいつ雄じゃないか! 女性のような声だと思ったけど、雄だぞ、こいつ!! 【空間把握】で体を調べて分かった。って事はドラゴンの男の娘なのか? 勘弁してくれよ……」
ウェルが理解していないので説明しながら、3分経った男の娘ドラゴンから枷を外して移動する。すっかり真っ白になった6頭のドラゴンを無視して歩く俺達。まあ、何かあったら起きるだろうし、白くならないと直らない連中だから容赦する気も無い。
「成る程な、とも思うのだが……訳の分からん事でもある。結局のところ雄同士なら好きにすればいいとしか思わんな。欠片も理解できんが、そういえば人間種にも似たような者が居た事を思い出した。あの頃と変わらず理解できんが」
「心配せずとも、それを好む連中以外は誰も理解できんよ。ただ、自分に絡まないなら好きにしろと言うだけだ。ウェルもそうだろう?」
「まあ、そうだな。私に関わってこないなら好きにしろとしか思わん。関わりたくもないがな。そもそも私は雌なのだ」
ま、この話題はここらで終えよう。それよりも何でこんな所をドラゴンがポンポン飛んでるのか理解できん。かつて【呪魂環】があった近くだと知らないのか、それとも知っていても安全だから飛んでるのか?。
確かに今は【呪魂環】も無いし、星の呪いの濃度は均一に近い形になっているんだとは思う。砕かれた【呪魂環】の大半が何処に行ったのかは分からないんだけどな。東から旅をしてきたとはいえ、今のところ東の国々と呪いの濃度は変わっていない。
だからこの辺りに砕かれた【呪魂環】は無いんだと思う。元々の魔導王国が近いし、この辺りに置く事は無いだろう流石に。それよりも首都の近くまで来たけど大丈夫だろうか? 地震の所為なんだが、食糧が買えない状態が続いてる。
手前の方では買う必要が無かったけど、地震が起きてからは無理に買う事も出来ないし困ってる。流石に米も麦も大分減ってきた。各町の食堂が使えないのも痛い。営業してないし、暴徒に破壊されてたりするので、予想とかなり違ってきている。
まだ一週間ぐらいは大丈夫だけど、それが限界かな? そんな話を皆としつつウィク村に到着し、村の入り口にカマクラを作る。村の家は焼け落ちたりしてるけど、無事だった家に住まわせてもらっているらしい。ここは助け合いが出来ているようだ。
ただ俺達には気付いていないようなので、このまま気付かれないままにしておこう。騒がれて出て行けも鬱陶しいし。
そう思いつつ座っていると、鍬や鎌を持っている者が集まってきた。
「おめぇら何処のもんかしらねぇけど、今すぐ出てけ!」
「そーだ、出てけ!」 「「「「そーだ! そーだ!」」」」
「あーあー、分かった、分かった」
俺はそう言ってカマクラなどを全て壊して更地にし、東へと皆と共に歩く。皆はあっさり引き下がった俺に不思議がっているが、歩きながら俺はそれに答える。
「出て行けで済んで良かったんだ。こっちの持っている食糧をくれ、だともっと面倒臭い事になってた。それに比べれば出ていけの方がマシだ。どのみち夜には聖人にするんだしな」
「確かにな。アルドは7日分ぐらいしか残ってないと言っていたし、地震があった以上は金を払っても売ってくれるかは分からん。災害の時には食えない金銭より、食える食糧の方が重要だろう」
「まあな」
ウィク村から見えない所にカマクラを作り、椅子とテーブルを作ったら料理を開始する。魔物が襲ってくるかもしれないが、食料にすればいいか。




