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夕方近くになってきた為、夕食作りを開始する。蓮には麦飯を、イデアには野菜スープを、俺は卵に謎の魚節でとった出汁と蟹の身を入れて玉子焼きを作る。ウェルには秋刀魚を焼いてもらっている。
初めて【加熱】を使って自分で料理するからか慎重にしているが、多少焦げても問題ない事は言っておく。そろそろ料理をさせないと魔法の使い方が今以上に上手くならないからな。料理のような加減を必要とするものは良い練習になる。
ちなみに俺が玉子焼きなのは出汁を入れていて焦げやすいからだ。これこそ慎重に焼かないと焦げるし、そういう料理の代表みたいなものだと思ってる。少なくとも今日が初めての者には任せられない。
蓮の麦飯が炊けたら出来ていた料理を温めて、ご飯を盛ったら準備完了。それじゃあ、いただきます。
「むふーっ! ……この玉子焼き、凄く美味しい! 濃厚な蟹の味もするけど、出汁が入ってるから合わさって凄く美味しい。魚醤とか要らないね」
「うん! これ美味しいね。ふわっと香るのかと思ったら、蟹の味がしっかりしてる。むしろ出汁の方がふわっとするけど、蟹の味の邪魔をしてなくて美味しい」
「……うむ、美味い。美味いのだが、子供達のような評価は私には無理だ。だから美味いとだけ言っておく」
「まあ、子供達は色んな物を食べてきているからな。邪生の肉や心臓から、竜の肉や内臓に脂まで。美味い物を食ってきたから味が分かるというべきか、それとも子供だからというべきかは分からないがな」
無粋な会話は要らないと言えばそれで終わるから、今は大人しく食事を楽しもう。見てくる者達は居ないが、【空間把握】で調べると倒壊した家もチラホラ見える。あの婆さんも俺達に喧嘩売ってる場合じゃないと思うがねぇ。
家が壊れた奴は、他の家に一時的に避難させてもらってるらしい。こういう時は助け合いが出来るんだな、それともこの村だけか? この国の通常の姿を俺達は知らないからなー、強制的に聖人にしてきている所為で。
美味しい夕食も終わり、さっさと後片付けをしたらカマクラへと入って硬い土壁で閉じる。すのこを敷いた上に布団を敷くと、子供達はトランプで遊び始めた。俺は【空間把握】を使いつつ村の連中の監視だ。ウェルはダリアと遊んでる。
色々調べてみたものの、今の時点で動いている奴は居ない。こっちに悪意を向けてきていたからてっきり動くのかと思っていたが、肩透かしを喰らったな。それとも深夜になってから襲ってくる気だろうか?。
色々考えつつ監視していると、子供達が眠たくなったのかトランプを仕舞って寝転がった。なのでダリアとフヨウを左右に寝かせて【昏睡】を使い、ウェルを満足させて寝かせる。カマクラ内と体を綺麗に【浄化】したら、全員に枷を1つ着けておく。
蓮もそうだが、流石に震災で亡くなった人を見たのは堪えたようだからな、精神を回復させておく必要がある。全て終えたら入り口を壊して開け、外に出たら再び閉じる。隠密の4つの技を使ったら村人の聖人化の開始だ。
近くの家から始めていくが、こういう時代だと夜になったら寝ている人ばかりだ。明かりを点けるにも燃料か魔法しかない。どっちも無いなら大人しく寝るしかないのは、地球の古い時代と本当に変わらないなと思う。
魔法が有ろうが無かろうが、こういう部分は何も変わらない。そこにあるのは人の営みというだけだ。そんな事を考えつつ、村人を【昏睡】で寝かせて聖人にしていく。相変わらず赤く光る奴等ばかりで、青く光る奴がまったくいない。
いない事も無いんだが、1つの村に0~3人ぐらいというのが頭の痛いところだ。こっちの国は本当に犯罪者だらけなんだが、そもそも人の行き来も然程ない筈の場所で、どうしてこうも犯罪者が多いんだ? それともこの判定は神様基準なんだろうか?。
犯罪者だけでなく、神様の基準でアウトな奴も赤く光るようになってる? その場合、前の腕輪と仕様が異なっている気が……もしかして前もそうだった? 神様から貰った物だから、何でもアリと言えばそれで終わるんだが……考えても無駄か。
赤く光る連中を聖人にしていっていると、村の一角に人が集まり始めた。やはり俺達を襲う気だったな。ある程度集まった段階で動き始めたので後ろからついていくと、予想通り俺達のカマクラまで来たので【衝気】で気絶させ、【念動】で運びながら聖人にしていく。
適当に最初に集まっていた付近に転がしておき、全員聖人にしたら村人の聖人化に戻る。村の一番大きな家である村長の家も終わったが、あの婆が居ない。【探知】を使って詳しく調べると、村の外れに1つだけ生命反応があった。間違いなくあの婆の反応だ。
1人だけ村の外れに住んでいるって怪しすぎだろ。そう思いながら素早く家まで移動し、離れた所から【昏睡】で寝かせる。眠ったのを確認すると、婆の家まで移動し枷を2つ着けたら尋問を始めた。
「何故、村の外にカマクラを作った俺達をあそこまで警戒していた? 何故わざわざ俺達に威圧をしてきたんだ?」
「何をしにきた者か分からんから行った。危険な者かもしれんから調べる必要があった。私は静かに暮らしていたいだけだ。誰にも気付かれたくない」
「ん? 気付かれたくないとはどういう事だ? 何に気付かれたくなく、お前は何を隠している?」
「私はドラゴンだ。かつて散々に犯され、無理矢理に子を孕まされ、私はそれに耐えかねて逃げた。呪いの大元があったこの近くは隠れるのに適していたのだ。もうドラゴンには関わりたくない。村に来た者の中には同族が居た。隠せていたか分からないが、上手くいった筈だ」
「隠せていた? ドラゴンから身を隠す方法があるのか?」
「我らドラゴンは<竜眼>で確認しているが、<竜眼>で見ているのは気の波のようなものだ。他の生物には見えんのだろうが我らドラゴンには見える。それを漏らさぬようにすれば人間種だと誤認する可能性は高い。長きに渡って同族に気付かれぬ為に必死に修行をした成果だ」
「そうか……分かった。苦労をしたようだからな、ゆっくりと休め」
俺は【昏睡】を使いつつ僅かに【極幸】と【至天】も使う。元々は殺す前に幸福にする為の有情の技だが、心をマシな状態にする事も出来るだろう。それにしても、まさかドラゴンだったとはな。ウェルが分からないとは……それだけ苦労して会得したんだろうが、その理由がな。
本当にドラゴンの雄どもは碌な事をしない。俺は枷を”4つ”にして3分待つ。明らかに3分を超えたら外し、俺はそっと家を後にした。浄化能力を持つ素晴らしい人物に変わったろう。仮にこれからも隠れ住む事を選択したとて構わない。
流石に酷い目に遭った者に対し、浄化の為に飛び回れとは言えないしな。枷4つだからどうなるかは分からないが、爆心地に近いこの辺りを浄化し続けてくれるだけで十分でもある。
カマクラの前まで戻る最中、突然空の上を何かが飛行した。そいつは一度旋回した後、俺の前に着地した。わざわざ下りてこなくていいよ、面倒だから関わってくるな。隠密の4つの技を解除してたのが失敗だった。
地面に下りたそいつは俺をジロリと睨んだが、その瞬間、俺は【瞬閃】を使って相手の後方に回ると同時に隠密の4つの技を使う。こちらを見失った相手に対し、俺は【衝気】を使って気絶させ、すぐに枷を”4つ”着けた。
人間種用の枷だが、何も一周ぐるりと覆う必要は無いらしい。手足にくっ付いた段階で効果があるらしく、枷として嵌めなくても効果があった。流石は神様が作った枷だよ、本当。
3分待ったら外し、真っ白になったドラゴンは放置してカマクラに戻る。婆の姿だった雌ドラゴンは真っ白にならなかったのに、雄ドラゴンはなるんだな? 魔物にそれだけ近いって事なのか……?。
考えるだけ無駄だろうから止め、カマクラに入って閉じたら綺麗に【浄化】していく。十分に綺麗になったら、おやすみなさい。




