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2人が枷の効果に納得し諦めたタイミングで蓮と2匹は起きてきた。2匹はすぐに俺の下に来たので水皿に神水を入れて出すと飲み始め、それを見ながら俺は昨夜やった事を話し始めた。
「皆も分かっていると思うが、昨夜村の連中を聖人にした。この村では村長の他に長老と呼ばれる婆が居たが、こいつは裏切り者で、この領地の情報を隣の領主に売ってたんだ。それで得た金で村人を懐柔して、最終的には村長一家の排除を目論んでいた」
「成る程、長老だとか言われていたのは金をバラ撒いていたからか。中には助けられた者もいて、そういう者は恩義を感じるだろうからな。しかし村の乗っ取りが目的だったとは……。とはいえ、そんな事は何処でもありそうだが?」
「ああ、特におかしな事でもないし、村長とて駄目な奴なら排除されるのは普通だ。どんな小さな権力者でも、下の連中がいる以上は叛逆される事はある。それは好きにすればいいんだが、こういう情報が元で戦争や小競り合いは起きる訳でな」
「私達が戦に巻き込まれるって事? ……アルドが全部倒しちゃう気がするんだけど、気のせいかなぁ……」
「ボクもそうなると思うけど、何か気になる事があるんじゃないかな?」
「気になると言うより、戦が起きたら両軍を聖人にしなきゃいけない訳だ。それを考えると困った事になるんだよ。ある程度の数は動員される筈なんでな、当然1日じゃ終わらないだろう。仮に片方が終わっても……」
「もう片方は終わってないから攻めてくる? 聖人は戦をしないでしょうけど、聖人になってない側は攻めるでしょうね。……そうなると、一方的に殺される?」
「ああ、その可能性があるんだよ。迂闊に戦に介入する訳にもいかないし、そうなると終わるまで待つ必要が出てくるんだが……そんなに待ってもいられないしなぁ」
「ふむ。確かに困った事になるな。とりあえず責任者というか、上の者だけ聖人にするか? そうすれば少なくとも争いは治まると思うが……」
「仮にそれで治まっても、下の人達は止めるかなぁ……。勝手に村を襲って奪ったりとかするかもしれないよ?」
「いやいや、それでは唯の盗賊ではないか。流石にそれはないと思うぞ? それこそ処罰の対象であろうし、場合によっては内輪揉めの原因になりかねん」
「それは東の場合だろう? こっちは群雄割拠の戦国時代だ。普通にそうなる可能性自体はある。集められた農民だってタダで帰る訳にはいかないしな。略奪できるから集まっている可能性もある」
「そういう軍って訳ですね。ヤシマの国でそんな話を聞きましたけど、いろいろ大変だなぁ……って改めて思います。奪わなきゃ暮らして行けないから、小競り合いに参加して奪う。農民でもそれが当たり前の地域があるって」
「………」
ウェルはビックリしているようだが、奪わなきゃ暮らせないなら奪うのは当たり前の事だ。誰も彼もが十分に肥えた立派な土地を持っている訳じゃないし、家族が十分生きていけるだけの作物が毎年実る訳じゃない。
無い物は奪ってでも手に入れないと家族が生きていけないんだ。盗賊でも何にでもなるに決まってるだろう。そうしなきゃ生きていけない以上はな。
「ああ、そういう事か。そして今いるココはそういう場所である可能性が高いという事だな? ……ふぅ。そういう事が起きる可能性はあるのか?」
「分からない。ただ、言葉は悪いが今は夏だ。ヤシマの国でもそうだったが、戦の起きる季節はだいたい夏と冬になる。理由は大変ではあるものの、それでも農民の手が空くのがその季節だからだな」
「雑草取りなどをしているのは見かけた事がある。それと畑で作物を作れぬ冬か……。魔物も少なくなるし、一番食べ物が少なく厳しい季節だな」
「ああ。そういった季節だからこそ戦や小競り合いで略奪し、少しでも飢えを凌ごうとする。この国がそこまで飢えているかは知らないが、可能性が無いわけじゃないんでな」
朝食を作り、食べながらする話じゃないものの、食べ終わったので話を止めて片付ける。終わったら準備を整え、最後にカマクラを壊して整地したら出発。北西に進みつつカロッソ村を目指す。
それにしても周りは森だらけで沢山魔物が潜んでいるが、こんな中でも戦をするんだろうか? ヤシマの国でさえそこまで小競り合いが多かった訳じゃない。理由は戦の最中に魔物が介入してきたりするからだが。
それでも魔物を恐れてそこまで派手な戦はなかったし、この星も魔物が居るのは変わらない。村人であっても狩れない訳じゃないんだから、食糧が厳しいなら魔物を狩るだろう。その場合は罠かもしれないが。
「何処でもそうだが、魔物を狩って肉を食えば済む。もちろん狩ってすぐに食える訳ではないが、ある程度の飢えは凌げるだろうし魔物の数も十分だ。という事は戦や小競り合いは多くないのか?」
「それは……と3分経ったな。それは分からない。人間種の欲望なんて尽きないものだし、魔物から肉は手に入っても金銭は手に入らないからな。小競り合いなんかを求める奴は居るかもしれん、それと口減らしだ」
「口減らし……ああ、食う数が減れば食料に余裕は出るな。しかし……いや、全員が生きられると思う方が間違いか。今までも見ようとしなかっただけで、そういうのは身近にあったのかもしれん」
「ドラゴンは強いからな、腹が減れば魔物を襲って喰らえば済む。人間種はそう簡単に魔物を狩る事もできん。その違いは当然あるさ。……それにしても子供達が張り切って魔物を白くしてるなぁ。別にいいんだけども」
子供達は魔物に素早く枷を嵌めている。特にゴブリンやオークだと股間を打って悶絶しているところに枷を嵌めていて、白くなる前に可哀想な目に遭っている。まあ、多少しか効かない場合もあるが、それは雌だから仕方ない。
頑張って普通の魔物でも白くしているが、強力な魔物は止めておくように言ってある。滅多にいる訳じゃないが、居ない訳でもないからだ。っと、そろそろ昼なのでここら辺で休憩にするか。
焼き場やテーブルなどを作ったらウェルに麺の生地を作ってもらい、子供達にはかす肉で野菜炒めを作ってもらう。俺は蟹と謎の魚節で出汁をとり、ウェルが生地を捏ね終わったら【熟成】を使って【分離】して麺にする。
鍋で神水を沸かして麺を投入し、茹で終わったら出汁の入った椀に入れ、最後にかす肉の野菜炒めを乗せれば完成だ。具沢山のうどん、もしくはちゃんぽん風うどんだが、こんなのは適当でいい。それじゃあ、いただきます。
「うん、美味い。蟹の出汁がかす肉に負けてないから美味く両方が引き立てられてる。それに野菜が良いアクセントになってるな」
「美味しいね。今日のは凄く美味しい! っていう訳じゃないけど優しい美味しさがする」
「うん。うどんってこういうの多いけど、これはこれで良いよね」
ウェルは喋らず黙々と食べてるなぁ。蟹の出汁が美味しいからだろうけど……ま、気にしなくてもいいか。
十分に昼食を堪能したら少しゆっくりした後で更地にし、再びカロッソ村に向けて出発。道中はゆっくりと歩いていき、見つけた魔物を積極的に白く変えていく。出来れば雄雌両方を白くして、数が増えるようにしたいところだ。
そんな事を考えていると、村が見えてきたのでカロッソ村に到着したんだろう。特にどうこうという村じゃないが、人気が妙に無いな? 何かあったのかね?。
近くには誰も居ないが、とりあえず村の入り口にカマクラを作ろう。そうやってカマクラやテーブルに椅子などを作っていると、老人がこっちにやってきた。
睨むまではいってないが、こちらを明らかな不審人物として見ているな。




