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皆が起きたので朝の挨拶をし、見送った後で女性との雑談を続けていると、皆は戻ってきて紅茶を入れ始めた。皆が当たり前のようにハチミツを使っているのを見て奇妙な顔をしているが、自分達で手に入れた物だと言うと納得の表情をしている。
「それで昨夜はどうだったのだ? アルド。おそらく阿呆が侵入しようとしてきた筈だが、私が起きていた時にはまだだったからな」
「予想通りの連中が来たな、ただし全部で8人だったが。そいつら全員を聖人に変えて、その後は村の連中全員を聖人に変えていった。罪を暴く腕輪で確認したが、赤く光る犯罪者でなかったのは4人だけだったよ」
「4人しか居なかったの? それとも4人も居たの?」
「さて、そこは難しいところだな。俺としてはどっちでもいいとは思うが……。どのみち聖人でないのは4人だけだ、この村はもう犯罪者の巣窟ではなくなった。聖人にされなきゃ犯罪を止めないのは、いつものお約束みたいなもんだからな」
「こちらは東に比べて生きるのに大変だ。で、ある以上は犯罪を犯さざるを得ん場合もあるのだろう。もちろん、だからといって罪が許される訳ではないがな」
「とはいえなー……犯罪に慣れると、罪を罪とも感じなくなる。そのまま育てば犯罪を容易に犯す者の出来上がりだ。当然、そんな奴の子供も容易に罪を犯す。悪循環になって誰も歯止めを掛けなくなるんで、纏めて聖人にするしかないんだよな」
朝からする話でも無いので切り上げ、俺達は朝食作りを始める。全粒粉に塩と神水を混ぜて多少練り、後はウェルに任せた。蓮にはサラダをイデアにはスープを任せ、俺はイエローボアとかす肉のミンチを作り炒めていく。
味噌と神水とハチミツ、それに呪いの魔物の脂と黒砂糖を混ぜてミンチ肉に絡めながら味付けし完成とした。ウェルが作ってくれた生地を【熟成】してチャパティにすると、【念動】で空中に浮かせて【加熱】で焼いていく。
女性の目が点になっているが気にせず焼き、終わったら皿に乗せていく。後は1人分ずつタコスモドキにしていき、椀にスープを入れたら朝食だ。それじゃあ、いただきます。
「イエローボアのお肉ってしっかりしてる? ミンチになってるけど噛み応えがあるね。でも噛むとお肉の味が濃くて美味しい。それに甘いタレが合ってる」
「イエローボアってなかなか出ないし食べない魔物ですけど、思っているより美味しいですね。確か、精力が付くお肉だったんでしたっけ? そういう魔物って幾つか居るって聞きますけど……」
「そうだな。イエローボアよりも強力なのがパープルボアだ。蛇系の魔物には精力増強効果のある魔物がいるし、ブラックコブラみたいに天然の媚薬のような魔物もいる。妙な効果を持つのは蛇が多い」
「変わっておるな。精力剤だったり媚薬だったりと不可思議な魔物だ。まあ、美味しければ何でもいいとは言えるのだが……何だ? 変な顔をして」
「いえ……別に変な意味で出された訳ではないなと思いまして。朝ですし、流石にそれはないなと」
「そもそも余っているし、同じ肉ばかりも飽きるからイエローボアを出しただけで、他意は一切無いんだが……」
心外ではあるものの、出している肉が肉なので何とも言えないが、それは横に置いておこう。朝食を終えた俺達は女性に一晩泊めてもらった感謝を言い、最後に村の子供3名と女性以外の全員を洗脳して聖人に変えた事を言っておいた。
女性は困ったような顔をしたが、俺達は気にせず村を出て西へと歩いて行く。走らないのは1つずつ村や町を回って聖人にしていく為だ。時間は掛かるかもしれないが、あの村の9割を聖人にした以上、次の村も似たようなものだろう。
そう思いつつ歩いて進んでいき、魔物を見つけると4つ枷を嵌めて浄化能力を持つ魔物にして進む。皆も見ていたが、何故か魔物だと真っ白になっていたので、人間種は白くならないのだろう。どうでもいいが、新しい発見だった。
途中で昼食を挟みつつ歩いていくと、アルート村に辿り着いた。村の一角に人が集まっているので近付くと、どうやら行商人が馬車の中の物を売っているらしい。3台の馬車があり、商人がその前で物を売っているんだが、村人が殺到してるなぁ。
特に殺到してるのは塩っぽい。内陸の村だからという訳じゃないだろうが、近くには塩の採れる所が無いんだろうか? 俺達が使う塩はまだ沢山あるから何も問題は無いんだが、運んでくるのも大変なので高そうだな。
そんな事を思いながら覘いていると、村人が気付いたのか俺達を警戒し始めた。なので東から旅をしている事を言い、この村の一角で寝泊りしてもいいか聞く。村人は困ったような顔をしたが、そこに居た奴等は「良いんじゃないか?」と言っていた。
なので了承はとれたと思い、俺達は行商人からそっと離れる。村の入り口近くというか、それっぽい所に行ってテーブルと椅子を作り、座って神水を飲みつつ休む。村の南側に川があるっぽいので、夜中に行って神水を補充しておくか。
そんな事を思いつつ皆とダラダラしていると、行商人の1人がこっちにきた。何が目的か分からなかったが、とりあえず話を聞く。
「いやぁ、すみませんね。ところで貴方がたは東から来たと言ってましたけど、いったい何故こちらに?」
「何故と言われてもなー。俺達は色々な所を旅して見て回ってるだけだし、それ以上もそれ以下も無い。見た事の無い物を見たり、聞いた事も無い場所に行ったり。こっちに来たのも東の国で、西の山を越えれば国があると聞いたからだな」
「へー、そうなんですか。私はてっきり東の者が、こちらを攻め、る為に情報収集に来、たのかと思いましたよ」
「東の? ないない。俺達は今まで3つの国を越えて旅してきた。何より向こうじゃ狩人でな。……ああ、狩人というのは国に属さない自由民の事だ。魔物を狩るから狩人であり、国に所属している訳じゃない。かわりに狩人ギルドに所属しているが」
「は、はあ、そうなんですね。おっと、呼んでいますので失礼します」
さっさと離れていったが、これ以上俺達と居るとボロが出ると思って逃げたんだな。【白痴】を使ってたんで言いたくなかったんだろうが、東の国の者が攻めてくる何て考えているのは体制側だけだぞ。
統治者か権力者と知り合いなのか、それとも一族なのか、はたまた家臣なのかは知らんがな。それより俺達の口封じに動くかもしれんが、それはそれで都合が良いので纏めて聖人にしてしまおう。その方が手っ取り早い。
そのまま雑談したり子供達のリバーシを見ながら過ごし、夕方が近くなってきたので夕食作りを始める。焼き場を作り、蓮には麦飯を、イデアにはスープを任せる。ウェルにはサラダで、俺は簡単に作れるデスボーアの角煮だ。
麦飯に合わせる為、ゆっくりしつつイデアを手伝っていると、何故かこっちを遠巻きに見ている村人が多い。夕方なのに何やってんだ? と思うも気にせず料理を続ける。
鍋に神水と魚醤に黒砂糖やハチミツ、更には灰持酒や香辛料などを加えて調味液を作ったら、デスボーアの肉を投入しゆっくりと煮込んでいく。ある程度煮こんで火が通ったら、【浸透】と【熟成】を使いつつ丁度良い塩梅で【加熱】を止めた。
後は更に【熟成】を使いつつ味見をして完成。麦飯も炊けたので椀に盛り、野菜スープも入れたら準備完了。それじゃあ、いただきます。
「うん、今日のは香辛料を使っているが、風味は良くなってるから上手くいってるな。肉に良い風味がついてるし、上手くアクセントになってる」
この角煮は上手くいったと言えるだろう。それはともかくとして、周りで見ていた奴等は急に家に引っ込んだな。何なんだ?。




