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<呪いの星89日目>
おはようございます。今日は西のショテーム山を越えていく日です。それにしても結局休めたのは到着した日だけだったし、次の日である昨日は阿呆のボスの所為で襲われた。色んな意味で疲れる連中だと思う。
聖都まではそこまでじゃなかったのに、聖都から北に進むとコレだ。もしかしたら西の国の連中が関わると、襲ってくるんだろうか? まあ、冗談ではあるんだが、そう言いたくなる程に襲われてるんだよなぁ。
朝の日課を終わらせて、紅茶を淹れながら一応の想定を行う。ショテーム山を今日越えられるのか、それとも今日は山で一泊する事になるのか。その辺りは分からないが、少なくとも山の近くに村や町があるとは思えない。
なのである程度の距離を移動する必要があるだろう。それは構わないんだが、最初の村や町を見つけられるかどうか……。実は村や町の場所を聞くのを忘れてたんだよなー。今にして思えば聞き出していればよかったんだが、その時は頭から抜けていた。
向こうに行って【探知】を使っていれば、人間種の生命反応ぐらい見つかるとは思うが……。まあ、全ては行ってからだな。紅茶をコップに入れて飲みつつ、適当にボーッと過ごしていると蓮が起きて部屋を出た。
それを見送り過ごしていると、戻ってきた蓮はコップに紅茶を入れてから膝の上に乗ってきた。寝起きだからか無言だが、誰かにくっついて居たいのだろう。好きにすればいいし、久しぶりだからな。甘えられるのも。
2人で静かに過ごしていると、ダリアが起きてトコトコと近付いてきた。水皿に神水を入れてやると美味しそうに飲んだ後、左の膝に引っ付き寝始める。2度寝がしたいのか、それとも蓮が膝に座っているので胡坐に潜り込めなかったのか。どっちだろうな?。
そんな事を考えていると、イデアもウェルもフヨウも起きてきた。水皿に半分ほど残っていた神水を「ズゾッ」と吸い上げたフヨウは首に巻きつき力を抜く。そのまま2匹と蓮と過ごしていると。イデアとウェルが戻ってきて紅茶を入れ始めた。
「今日は西のショテーム山を越えるのだが、準備は大丈夫なのか? 山越えというのはなかなか大変なのだろう?」
「おそらくはな。とはいえ西の国の連中がそれなりな数こっちに来てる事を考えると、そこまで大変だとは思えないが……山は怖ろしいものだからな、舐めたりはしない。それより問題は山を越えた後だ」
「山を越えた後……ですか?」
「ああ。村や町の場所が分からないし、聖人にした中で知ってそうな奴等に聞くのを忘れてた。西がどういう場所なのかを聞くのに集中していた所為で、肝心の村や町の場所が分かっていない。とはいえ【探知】を使えば分かるとは思う」
「前の星でも山を越えた後、アルドは【探知】で調べてたよ? 南に山を越えた後。だから調べれば見つかると思う。ゴブリンの森の前、ソンビの村を越えた後はそうやって調べてたし」
「ああ、そういえばそんな事あったね。山の中の村がゾンビばかりになってて、近くっていうか、それなりに離れた町のスラムの人達だったんだっけ? その人達を移動させて村を作らせてたみたいだけど、ボク達が行った時には村人がゾンビばかりになってた」
「それもそれで、どうなのやら。スラムに人が集まって大きくなるのは困るのであろうが、山の中に作った村に移住させるのもな。その結果が村人のゾンビ化であろう? その政は間違っていると思わなくもないな」
そろそろ部屋の片付けを始めておくか。そう思った俺は蓮を膝から下ろし、立ち上がって布団などを片付けていく。皆も紅茶を飲み終わったようなので全て片付け、忘れ物などを確認してから部屋を出る。
食堂に行き、大銅貨3枚を支払って朝食を注文したら、席に座って雑談をしつつ待つ。周囲の話を聞いても特に聞いておくべき話も無く、朝食を食べたらエイテシャ町を出発した。
西へと走って行くと大きな山が見えるが、あれで低い山なんだろうか? そう思いつつも近付いていく。そのまま山に近付いていくも、道のようなものがあるようには思えない。それでもこの山を越えねばならないので道を探す。
しかし見つからないので、やむを得ず突入する事にした。看板などがある訳でもなく、行商人のような者も見当たらないので行くしかない。俺達は山へ分け入りつつ、通れる場所を走って進んで行く。
適当に思えるかもしれないが、山なんて越えられる場所は大凡決まってるし、皆そういう場所を進んで行くもんだ。その結果道ができたりするんだし。一応は足下も調べているんだが、誰かが通ったような獣道すらない。
年に数回しか通らないのなら、行商をしている奴等ぐらいしか道を知らなくても分かるな。ついでに香辛料などを売りに来てるなら、尚の事年に数回だけしか来れないだろう。何度も収穫できる訳でもないんだし。
そんな事を考えつつも、向こう側に越えて行く為に【探知】と【空間把握】を使いつつ、邪魔な木や草を切り払いながら進む。多少は俺達が払って行かなくちゃならないだろうが、それでも本格的な夏場に比べればまだマシだろう。
おそらく夏本番だと鬱蒼とし過ぎていて足元すら見えない。そうなるだろうと想像できる程だ。そんな場所を進んで行きつつ、山を登っていく。越えられればいいと思ったんだが途中で方針転換。頂上まで登った方が、見渡せるんじゃないかと思ったんだ。
そこからは走りつつ山の頂上を目指して進み、ちょうど昼時には頂上まで来れた。遠くから見てると高い山に思えたが、思っているよりも高くはない山だ。頂上部分の木などを切り倒して場所を確保したら、焼き場やテーブルなどを作る。
蓮に麦飯と蟹の身を渡し、イデアには野菜の味噌汁を頼む。俺は冷凍で残っていた秋刀魚を焼きつつ、頂上からの景色を眺めている。実は頂上からは遠くの方に村が見えているので、ここまで上がってきたのは間違いではなかった。午後からはあの村を目指そう。
皆も鬱蒼としている場所を越えたからだろう、今は解放的な気分になっているようだ。まあ、山の頂上だからという理由もあるんだろう。秋刀魚が焼けたので皿に乗せ、蟹の炊き込みご飯が炊けるタイミングに合わせていたので、蓮の方も終わったようだ。
イデアが作ってくれた味噌汁を椀に入れ、いただきます。
「蟹は相変わらず美味しいけど、それ以上に見晴らしがいいね! 山の頂上ってこんな感じで色んなところが見えるなんて知らなかった」
「ここは頂上が急だからだろう。低い山の場合は頂上が広いというか、なだらかに続いていたりする事もある。その場合は周囲が見えるような事もないし、その所為でこんなに綺麗な景色じゃないんだよ」
「「ヘー……」」
「あの辺りに村があるのは見えているが、どういう連中なのかは行ってみないと分からんな。一晩泊めてくれるように頼んで様子見か、それとも積極的に聖人に変えていくのか。その辺りは難しいとしか思えん」
「今決める事でもないしな。向こうの連中がどういう状況なのか、どういう考え方なのかで変わる。庶民は争いなんぞ御免だと思っているかもしれないし、もしかしたら成り上がりの為に望んでいるかもしれん」
「上も下も争いを望んでいる場合もあるか。それに余所者に襲いかかる可能性も高そうだな」
「争いが当たり前の時代というか環境だと、自分と家族が第一になる。それこそ他人が道端で飢え死にしていても、誰も気に留めないとかな? そういう事が本気であるのが戦国時代だ」
他人の事を考えないというより、他人の事を考える余裕が無いと言った方が正しいか。




