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夕食後、宿に戻って適当な雑談をしながら過ごす。ウェルは随分な目に遭ったと思っているらしく、かなりの不満を口にしている。分からなくもないが、今も神々に見られているという自覚は無いのだろうか?。
次に遭うかもしれないと考えれば迂闊な事は言わない筈だが……まあ、黙って聞いていよう。流石にそろそろ落ち着くだろうし。そう思っていたら、ぶちまけてスッキリしたのか、それ以上は口にしなくなった。
その後は普通の雑談をしつつ、子供達がウトウトしているので布団に寝かせ、2匹を左右に寝かせて【昏睡】を使う。ウェルは夕方まで寝ていたので元気いっぱいだが、【極幸】と【至天】で撃沈し寝かせておく。
部屋と体を綺麗に【浄化】したらアリシアに【念話】で連絡、すぐに来るように言われたのでゾルダーク侯爵家の屋敷へ。ふと思いつき、技を一切使わず貪る事にしたのだが、アリシアも大悦びして受け止め、今は気を失っている。
俺は部屋と体を綺麗にし、ゾルダーク侯爵家の屋敷を後にした。それにしても夜にウロウロとしているって唯の不審者だな。そう思いながら宿の部屋へと戻り、ベッドに潜り込む。今日も一日お疲れ様でした。
<呪いの星84日目>
おはようございます。今日はダンジョンに行き、ラミシール聖国へと戻る日です。その後は聖都から北へ行って、西へと移動して行かなきゃなー。それより聖都がどうなっているかだが、まだ暴動も何も起こっていない可能性も無い訳じゃない。
可能性としては極めて低いけど、暴動なぞ起きず粛々として……無いか。貴族の屋敷を打ち壊して物を奪っているか、それとも貴族の家の者を殺して回っているか。屋敷を奪う……という可能性は低いだろうなあ。
それと他の地方貴族が聖都を攻める、もしくは確保するにはまだ早い。報せを聞いて軍を準備して出発。それだけでも2~3日掛かる。それも早くて2~3日だ。遅ければもっと時間が掛かる。軍なんて簡単に動けるもんじゃない。
移動にも時間が掛かるし、食糧の手配もしなきゃいけない。それだけでも大仕事であり、簡単には出来ないんだ。ゲームみたいに簡単に指定して攻めるなんてもんじゃないし、そんなに簡単なら誰も苦労しない。
なので未だ大規模な戦なんかは起きていないのは確実だ。まだ聖都の者が暴徒として暴れている時期だろう。問題は兵士だが、むしろ率先して暴れているか、それとも日頃の怨みで一般人に殺されているかだな。
朝の日課を終わらせて向こうの事を考えていたら、イデアが起きてきたので見送る。すぐに蓮もウェルも起きたので見送ったら、紅茶も淹れていないのに気が付いた。なので紅茶でも淹れよう。
淹れた紅茶をコップに入れていると、3人が部屋に戻ってきた。
「紅茶も淹れずにボーッとしていたが大丈夫か? 体調が良くないのであれば、ゆっくりと休んだ方がいい。別に急いではいないのだからな」
「いやいや、聖都の現在の状況を考えてただけだよ。場合によっては焼き討ちや略奪でメチャクチャになってるだろうと思ってな。それならカマクラで寝るだけなんだが、それも安全かどうか……」
「大丈夫じゃない? だってカマクラで危険な魔物に襲われた事ないもん。むしろダンジョンの中で寝た方がいい?」
「だとしたら9層ぐらいかな? 川が流れてるから水には困らないしね。それに混乱してるならダンジョンに非難する人なんて居ないだろうし」
「そうだな。ダンジョンでの寝泊りも悪くないかもしれない。とはいえ北へと行くんだから、まずは北へ進む事を考えるけどな」
部屋の片付けをしつつ話をし、紅茶を飲み終わったら綺麗にして出発。宿の従業員に今日の出発と返金不要を言い、食堂へと移動。大銅貨3枚を渡し朝食を食べるものの、特に気になる噂は無し。
食料店に行き、米と大麦を中銀貨2枚分ずつ買ったらダンジョンへ。いつも通り一気に走って行き、20層の森の地形で昼食にする。ゆっくりと食事と休憩をしたら進み、一気に35層へ。
今回は呪いの蟻だったが【浄化】し、白くしたら【粉砕】で全て粉にした。使える所が無さそうだったのと、何度も最奥のボスを倒しているからか、何だか弱くなっている気がする。それに、素材としても柔らかいので使えない。
さっさと転移紋に行き、ラミシール聖国を指定して飛ぶ。ダンジョン街に出たのだが、そこは予想に反して人で溢れていた。いったい何故なのか分からず、近くの人から聞きだす。
「ダンジョン街に人が多い理由? そんなもん聖都に居たら襲われるからに決まってるだろ。あそこじゃスラムの連中やらが暴れ回ってる。完全に無法地帯になってるぜ」
やはり予想通りの結果になっていたが、こんなに沢山の一般人がダンジョン街に逃げてくるのは予想外だった。とはいえ俺達はさっさと北へと移動する為、ダンジョン街から出るけどな。
人の合間をすり抜けてダンジョン街を出た俺達は、北に向けて走って行く。夕日が出てきたのでタイムアップとなり、カマクラと焼き場を作って料理を始める。今日は久しぶりに麺が食べたいのでうどんにする事に。
ウェルに麺を捏ねて練ってもらいつつ、子供達に謎の魚節などで出汁をとってもらう。俺は呪い鹿の肉を角煮にした後、その煮汁でかす肉を煮込んで柔らかくしていく。既に角煮は取り出しているが、後でもう一度温めるつもりだ。
麺が出来上がったら少し置いておき、【熟成】を使ったら鍋で茹でていく。十分に茹で上がったら椀に盛り、出汁を注いだ後で角煮とかす肉を乗せれば完成だ。出来た順番で食べていってもらい、最後の俺の分も出来たので食べよう。
「うん。十分に美味しいし、成功と言って良いんじゃないか? 麺もちゃんと出来ているし、特に問題も無い。話は変わるが、まさかダンジョン街にあんなに人が居るとはなぁ……」
「確かに、あれは予想出来なんだ。おそらくは食べる物と水があるから集まったのであろうが、ダンジョンの物は浄化せんと呪いが溶け込んでおる……いや、それは天然の物も変わらんか」
「呪いを浄化出来る人がいないと、もしかしたら呪いで変わる人が出てくるかもしれません」
「それはあるかもしれない。色んな人が居るし、ダンジョン街でも殺し合いとか起きたら変わっちゃうかも」
「確かにな。とはいえ肝心の兵士は何をしてるんだと思うも、あれらも上が居ないと略奪や暴虐に走るだろうし……治安が崩壊してるなら、スラムの連中は確実に暴れるしな」
「まあ、我らには関わりの無い事だ。所詮は喧嘩を売ってきた者が悪いのだし、それに連なる者に住民も含まれる。そもそも一般人には関わりが無い等というのは詭弁でしかない。国家に所属するとはそういう事だしな」
「ああ。自分達に都合のいい言い訳にしか過ぎないからな。国家に所属するという事は、国家に責任を持つという事でもある。上の連中がやった事の被害を受けるのは、悲しいかな、いつの世も民だ。それは変わらん」
「とはいえ国家の運営を含めて上に丸投げしている以上はな、自分達に責任が無いなど詭弁でしかない。それが嫌なら国を変わるか、狩人のような自由民になるしかない。ただし狩人は国家からの助けは無いがな」
「あれもこれもと、自分達に都合の良い事にはならない。自由民の一個人である俺と戦争をして負けたんだからな。しかも俺は戦争の勝者として、敗者の国の国民を虐げたりなどしていない。むしろ敗者の国の国民が暴徒になっているだけだ」
「そう考えると聖都の騒動はバカバカしいと言うしかないな。勝者が敗者を蹂躙している訳でもなく、敗者が敗者を蹂躙しているのだ。醜さの極みと言うべきであろう」
まあ、負けた国なんてそんなもの。そう言えば終わる話でもあるけどな。




