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<呪いの星83日目>
おはようございます。今日は4人を連れてアリシアの所に行きます。いきなりの訪問……という訳じゃないんだが、アリシア以外にとってはいきなりの訪問になるな。まあ、アリシア本人には話を通してるから多分大丈夫だとは思うが……。
朝の日課を終わらせて、紅茶を淹れたら飲みつつ確認。あの4人も特に問題は無いみたいだ。まあ、何かあったら起きただろうから問題があったとは思っていない。が、一応の確認だ。
紅茶を飲みつつ静かな時間を過ごしていると、ダリアとフヨウが殆ど同時に起きてきた。水皿2つに神水を入れてやり出すと、フヨウが吸い上げたのに対し、ダリアはゆっくりと飲んでいる。
フヨウが俺の体を登り首に巻きつくと、ダリアがペシペシ叩いてきた。いちいち叩かなくてもいいから、神水を飲んでなさい。そう言うと、大人しく飲み始める。毎回叩かなきゃ駄目なのか?。
ダリアは飲み終わった後、近寄ってきて丸くなる。今日は椅子に座っているのと、それなりに気温が高くなってきたからだろうか? おそらくだが、この星に飛ばされてきたのも春の始まりだったのだと思う。
前の星も飛ばされてきた最初の日は風の月の1日だった。後でウェルに聞けば分かるだろう、なので聞いておくか。気にしてなかったから季節すら把握してなかったな。まあ、そこまでしっかり把握する必要もないんだけど。
そんな事を考えていると、子供達とウェルが起きたので見送る。戻ってくるまで待ち、紅茶を入れて飲み始めたら聞いてみた。
「ウェル。今まで特に気にしてもいなかったんだが、この星には季節はあるのか? 元の星には春夏秋冬とあったし、前の星には風火土水という季節に分かれていた。よく考えればこの星の季節を知らないと思ってな」
「……今ごろ聞くのか? という話をし出すのだな。今は………春の月83日目か? 先ほどアルドが言った春夏秋冬という風に分かれておるし、それぞれの月に90日ほどある」
「それぞれの月に90日ほどな。何と言うかアバウトだなぁと思うも、この星ではそれで上手くいってるんだから文句を言う意味もないか。何より星の大きさも太陽からの位置も違うわけだし」
「難しい事は分からぬが、考えても無駄な事は考えても無駄だぞ。受け入れた方が早い」
「確かに。それはそうと、昨夜アリシアに【念話】を送っておいたから、既にアリシアには話が通っている。なので行けば会えると思うが、駄目なら再度【念話】で話しかける。まあ、料理人の話に乗り気になっていたから大丈夫だろう」
俺はそう言って部屋を片付けると、皆が紅茶を飲み終わるのを待って料理人の部屋をノックする。流石に起きていたので部屋を出てきた4人と食堂に行き、大銅貨5枚を支払い食事をとる。
やはり美味しくなさそうな顔をしているが諦めろ。食事後、ゾルダーク侯爵家の屋敷前まで行き、門番にアリシアから話が通っている筈だと確認を頼む。門番は訝しそうな顔をしていたが、一応確認の為に中へと行った。
少しした後で慌てて出てきた門番は門を開け、俺達を中へと通す。歩いていき玄関前に行くと、前に会った執事か家令の人が居て、案内をしてくれるようだ。そのままアリシアの居る執務室まで通された俺達は、ソファーに座って話し始める。
「久しぶりだな、アリシア。懐かしいような、昨日話したばかりのような、そんな気分だ」
「お久しぶり、ウェル。ドラゴンのウェルからしたら1年前でも昨日の話になりそうな……まあ、それはいいいとして、そこの4人が転移者? この星には無い料理を知っている者」
「そうだ。【念話】で話した通り、ラミシール聖国に転移してきた4人だな。他の連中は助ける気が無かったんで、未だラミシール聖国の聖都に居る。どうなったかは知らん。強姦されたか、殺されたか……どっちかだとは思うが、まだ無事かもしれない」
「国が崩壊したら略奪や暴虐が当たり前、大混乱に陥り制御不能になる。似たような事は過去の歴史にあり、学んだ事はありますけど……まさか現実の事になるなんて」
話の最中に俺は大きなワイン樽を置いていき、4つのワイン樽を置いたらその内の1つを回収する。残りの3つをアリシアに渡すのだが、執事か家令の人では動かす事も出来なかった。
仕方なく開けると、大量の貨幣が見えたので混乱しているようだ。まあ、気持ちは分からんでもない。
「聞いていた通り、本当に貨幣を奪ってきてる。とはいえ奪ってきたというか、それとも正当な賠償というかは人によるでしょうけど。それにしても適当に詰めてあって困りますね」
「そう言われてもな、国の連中を潰しながらの貨幣の回収だ。こうやって雑多に詰め込むのが限界だよ。王城の貨幣も詰め込んできたし、庶民やスラムの連中が暴れても貨幣は碌に無いだろう」
「まあ、そうでしょうね。相変わらずですけど、国1つを転覆させるというか、引っ繰り返せる実力というのはとんでもないですよ? あまりひけらかすと、恐怖の対象にしかなりませんから気をつけて下さい」
「そうかもしれんが、俺達は色んな場所をフラフラ移動し続けるだけだ。そのうち忘れられるさ。人間種っていうのは目の前の事に集中するものだし、それに俺が国を崩壊させたといっても一部の者しか知らないしな」
「まあ、それはそうでしょうね……どうやら貨幣を取り出して数えるにしても時間が掛かりそうです。中身は雑多に詰め込んであると言っても、結構な金貨類が見えるので十分でしょう。貴族の家や王城にあったというなら、大きい額で保管してあったでしょうしね」
「ならば料理人達の店を出させても構わんという事だな。流石に知り合いになった者達が不幸になるのは、寝覚めが悪いので助かる。性格の良くない残りの4人は知らんがな」
「それは自業自得でしょう。それよりも4人には店が出来るまで住み込みで働いてもらいます。やる事は食材やらの浄化に、屋敷などの清掃かな? 報酬は払うけども、そんなには出せません。まあ、代わりに食事と住む所はタダだから」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「まあ、アルドにいきなり連れてこられて大変だとは思いますけど、喧嘩を売った者達は全員と言っていいほど始末されてきているから、諦めるしかないでしょう。喧嘩を売った者が悪いんですよ」
「そうそう、アルドは神の使徒なのだ。神の使徒に喧嘩を売った以上、一国の王太子だろうが宰相だろうが相手にならん。王を含めた王族が皆殺しにされたからな。とはいえ、聖教の所為なのは多分にあるのだが……」
「聖教って、聖国の宗教の事っすか?」
「すか……? ウェル、聖教って聖国の教えを広めてるっていう組織の事? 昔何かで聞いたような気がするけど……」
「そうだ。古い王族が「善く生きよ」と言って様々な教えを説いたのだが、それを纏めたのが聖教というモノらしい。そしてアルドが危険視したモノだ。宗教というのは、神が云々といって責任をとらぬ組織に成り果てるとな」
「「「「???」」」」
この場には執事か家令か分からない人の他にメイドとか色々居たんだが、よく分かっていないようなので教えておく。転移者の4人は理解しているので、頷いたりしていたのが印象的だったな。彼らの元の星でも変わらなかったらしい。
これだから宗教は……としか思えないところが、実に宗教らしいと思う。<信者と書いて儲かると読む>。
何度か聞いた事があるが、コレが宗教というものの答えだ。これ以上に宗教というものを正しく表している言葉も無いだろうし。




