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4人の部屋で話し合いを始めるのだが、まずは現在地を教えなきゃいけない。4人にとってみればダンジョンを攻略しただけなのに、見た事もない場所に居る訳だしな。混乱させたままは良くない。
「1つずつ説明していくんだが、まずは現在地からな。ここはカーナント王国のダンジョンを領地に持つ、ゾルダ町だ。ゾルダーク侯爵家という貴族の治める町だな」
「あの、カーナント王国というのは何処にある国なんでしょう?」
「簡単に言うとラミシール聖国の東にウィルナイト帝国があり、その東にガルドラン獣国があって、その東にカーナント王国がある。つまり、ラミシール聖国からは随分離れた国だな」
「えっと……何でそんなに離れた国にオレ達は居るんっすか? そもそもダンジョンに入っただけっすよね? 猛烈に怖いムカデが居ましたけど……」
「ダンジョンはな、2度攻略すれば転移陣を使えるようになるのだ。これは神が決められた事でもある。まあ、そもそもアルド以外の者には使えんがな。そなたらも呪いの魔物を見たであろう? 普通はアレに勝つ事など無理だ。ドラゴンでさえ喰い殺される」
「あの黒いヤツ? あんなのまともじゃないわよ。呪いって言われれば納得はするけど、あんなのを前にして動ける方がおかしいでしょ。今思い出しても怖いのに」
「本当にね。すっごく怖かったし訳が分からなかったよ。唯でさえ大きいムカデってだけで怖いのに、あの黒いのが凄く怖ろしかった。……何故かその後で真っ白になったけど」
「話を戻すが、ここはカーナント王国だ。なので聖国の崩壊に関する云々という事は無い。それは問題無いんだが、お前さん達が仮にここで生きていく場合、聖国よりは大変になる。理由は香辛料だ」
「ああ。カーナント王国は香辛料が採れん。というより、聖国以外の国では香辛料を栽培してはおらんのだ。だから香辛料を使った料理というのは作れん。代わりに浄化して料理すれば、他の者よりは美味しい物が作れるがな」
「それは店が持てたら、でしょう。ここでは何の伝手もありませんし、そもそも店をする事も出来ませんよ」
「それに関しては問題無い。ここの領主、つまりゾルダーク侯爵家の当主に明日会いに行く。そこで店の話や料理の話をすればいい。アリシアなら必ず食いつく筈だ」
「そうだな。アリシアなら美味い物が食べられるとなれば確実に食いつくだろう。オルがどうしているかは知らんが、まあ元気にやっていると思おう」
「ここの貴族様と知り合いなんですか? その……貴族の方を嫌っているのでは?」
「まあ大多数の貴族は好きではないな。とはいえ、ここの当主、つまりゾルダーク侯爵家のアリシアは元王女だ。ここカーナント王国の王女であり、ある程度の間は俺達と一緒に居た。そして王族に対して怨みと憎しみを持っている」
「………あの、王女様なんすよね? 何で怨んだり憎んだりするんです?」
「お前達が知っているかは知らんが、呪いを受けて姿が変貌する者が居るのだ。アリシアもその一人でな、巨大な猿の姿だったのだよ。それはアルドが浄化して治したのだが、巨大な猿の時にな、結構な仕打ちを受けたのだ。分かるであろう?」
「「「「あ~……」」」」
「散々バカにされ罵倒され、王族の恥晒しという風に扱われれば、流石に王族を助けよう等とは思わんだろう。そしてアリシアの母はゾルダーク侯爵家の者だ。ここゾルダーク侯爵家は嫡男が呪われてしまい消えたらしく、その心労で当主も亡くなってしまった」
「ゾルダーク侯爵家を継げる血を持つのは、元王女のアリシアしかおらんのだ。そのうえ王は王女であったアリシアを死んだ事にしておる。なのでアリシアがゾルダーク侯爵家を継いだとて文句は言えん」
「何で死んだ事にしたんですか? 自分の娘でしょう!?」
「王侯貴族というのはそんなものだし、そもそも大猿になっていたアリシアに盗賊退治をさせるような王だぞ? 娘とすら思ってないだろ。挙句、用済みとして騎士に殺させようとしていたしな。既に親子の情も何も無い」
「「「「………」」」」
「つまりアリシアとしては意趣返しとなる。己がゾルダーク侯爵家を継ぐのだから、当然今の王族に忠義など尽くす筈が無い。今の王族もアリシアに対する仕打ちを知っておれば、迂闊な事は言えまいよ」
「まあ、それはそうよねえ。実の父親から殺されそうになったなんて、そもそもまともな親だとは思えないし。それに呪い? で姿が変わったからって、娘に盗賊退治なんてさせる? メチャクチャでしょうに!」
「とにかく明日アリシアに会ってお前さん達の事を話し、料理屋が出来ないかどうかを聞く。おそらくは大丈夫だと思うが、駄目なら訓練してダンジョンだな。浄化魔法さえ使えれば、高値で売れる肉は確保できるだろう」
「まあ、1人は狩人登録しておいた方が良いとは思うがな。それはともかく、子供達が舟を漕いでおるのでそろそろ戻らせてもらう。今日はゆっくり眠るといい、他の連中に比べれば遥かに恵まれておるのだからな」
「まあ、そうですね。彼らには会いたくもないですし、これで良かったのでしょう。片山君もそうでしたが、他のメンバーもあまり良い性格では無かったですから」
俺は両腕で子供達を抱き上げ、俺達の部屋へと戻る。布団を敷いて子供達を寝かせ、左右に2匹を寝かせたら【昏睡】で深く眠らせた。
ウェルを満足させたら寝かせ、【空間把握】を使ってアリシアを確認すると、まだ起きているようだった。まあ1人でシているようだが、それはいい。
『アリシア、聞こえるか? 俺だアルドだ。久しぶりの【念話】で驚いたかもしれんが、少し話がある』
『ふぇあ!? な、何? …………ああ、【念話】。いきなりでビックリしたー。……えっと、それで何でしょう?』
『男2人と女2人を受け入れてほしい。今ゾルダ町の宿に居るんだが、別の星から転移してきた連中が一緒に居てな、その4名を受け入れてほしいんだ。うち1名は料理人で、この星の者は知らない料理が作れる』
『えっ!? 本当に? それって凄い!! 美味しい物が作れるんでしょ、お店の一つぐらい任せてもいいかも』
『ラミシール聖国で見つけたんだが、全部で9人居た。1人は俺が殺したので残り8人、その内の4人を連れて来ている。残りの4人は性格がアレだったので聖国に放置してきた』
『聖国って遠いけど、そんな所から? ……ああ、ダンジョン転移。それにしても、聖国から連れてきて大丈夫ですか? 難癖をつけられません?』
『ラミシール聖国は現在崩壊中だろう、聖都に居た王侯貴族は全員殺害したからな。玉座に王の首が乗っていて、王族の首全てと宰相の首が周りに置いてある』
『うわぁ……そんな事したんですか? もしかして喧嘩でも売ってきました? アルドに』
『まあ、そんなトコだ。聖国の貴族の屋敷と王城の貨幣を全て掻っ攫ってきた。4分の3はそっちに渡すんで、彼らの受け入れを頼む。聖国でも料理の店をやらされてたらしいが、彼らに浄化魔法は教えてある。なので他の店に比べて繁盛する筈だ』
『成る程、それなら問題無く受け入れられると思います。屋敷の料理人も浄化したら美味しい料理が食べられるって知ったからか、オルを重用しているし。今は私の護衛兼料理人見習いって感じですよ』
『オルもちゃんと受け入れられてるみたいで何よりだ。明日そっちに行くんで頼む』
『分かりました。でも、代わりに今すぐこっちに来て下さい///。近くに居るなら私がナニをしていたか知ってるでしょう?///』
昨日から殆ど寝てないので早く寝たかったんだが、仕方ない。俺は隠密の4つの技を使いゾルダーク侯爵家の屋敷に窓から侵入。久しぶりにアリシアを抱く。
アリシアも久しぶりだったからか物凄く乱れ、今は大満足して寝ている。まあ、気絶しているとも言うが。
俺は綺麗に【浄化】した後で屋敷を脱出。宿に戻るとさっさとベッドに入った。それじゃあ、おやすみなさい。




