1849
俺は次々と貴族の家とそれに連なる奴等を破壊していく。ただ壊すだけなら特に難しい事ではなく、それほど手間が掛かる事でもない。【念術】が難しいのは、繊細に扱わないと人間種の精神など容易く壊れるからであり、元々壊すつもりなら大して難しくもない。
もちろん破壊しない事よりも簡単なだけで、【念術】そのものはそれなりに難しい。とはいえ散々使ってきたものであるので、俺にとっては今さらでしかない。それはともかくとして、数が数なので急ごう。時間が無い。
貴族家の末端まで抹殺し、メイドやら何やらまで破壊するのは骨だ。それでも破壊していき、貴族街に居る貴族の始末を終えたら、次は近衛の連中だ。この時点で相当数の連中を始末した。なので俺は、隠密の4つの技を使い貴族街に来ている。
当然やるべき事は、貴族の連中が貯め込んでいる金銭の確保だ。ワイン樽の中に銅貨、銀貨、金貨を雑に詰め込んでいき、近衛の精神を破壊しながらも収拾していく。このまま置いていても、どうせ略奪にあうだけである。なら俺が持っていっても悪くはあるまい。
それと一人残しておいた奴の回収だ。そいつだけは眠らせてあるので、直接俺が動く必要がある。近衛の騎士を破壊しつつ財貨の確保をするというのは、なかなか骨の折れる作業ではあるが、それでも俺は並列で熟していく。時間が無いからだ。
ひたすらに熟し、残しておいた奴を担いで王城へと移動する。その頃には既に近衛の連中の始末も終わり、王城の連中に取り掛かっていた。慈悲無く全ての者の精神を破壊していき、一人を除いて全員の精神を破壊したら、俺は王族の全員を一ヶ所に集める。
そして次々に首を刎ねていき、最後に王の首を刎ねる。それを腐った玉座の上に置き、他の王族全員の首をその周りに並べていく。最後に生かしておいた2人の両手足を切り落とし、無理矢理に叩き起こした。もちろん切った後は【浄炎】で燃やしている。
「ギィッ!? ガッ!! ぐっ、な、何だ、いったい!? ……なっ!? う、クサッ!! 腕が! それに足が!? どうなっている!?」
「アガァ!?! グェッ!? ぐ、臭い!! 腕と足が熱い!! これは、痛み!? なぜ!?!!」
「そりゃ、お前らの両手両足を切り落としたからに決まってるだろ。それ以外に何がある? 自分達の手足が無くなっているのは簡単に分かるだろうが」
「その声は!? キサマ!! いったい何処に居る! ここは何処だ!? 姿を見せろ!!!」
「しょうがない奴だな、ほれ」
俺は【光球】の魔法を使い明るく照らしてやる。俺は【暗視】も使えれば、そもそも【空間把握】が使えるので暗闇でも関係が無い。なので夜の暗闇では見えない2人の為、仕方なく明るくしてやったのだが……、どうやら認識できたようだな。
「ここは、ヴォェー!! グッ、玉座の間か!! ……ち、父上っ!?!!?! き、キッサマーーー!!!! よくも父上を!!!」
「な、なんたる事……こんな事が、まさか……」
「何を怒ったり呆然としたりしてるんだ? お前達が選んだ末路だろうが。俺は言ったよな? 殲滅されたければ敵に回れ、と。そして俺達の泊まっている宿に暗殺者が来た。国のお抱え暗殺者と聖教の暗殺者がな、それがコレだ」
俺はアイテムバッグに入れてあった暗殺者の死体を出し、適当にバラ撒く。それを見ても暗殺者かどうかなど、こいつらには分からないだろうが、そこはどうでもいい。重要なのは暗殺者と言い張る死体が追加で出てきた事だ。
俺は壊れられても困るので、この2人には正気と冷静さを保つように【静心】を使っている。故にこの2人が狂う事は出来ず、現実を直視し続けるしかない。
「俺は宣言通り、手を出してきた奴等を殲滅しただけだ。聖教の連中も既に始末し終わっている。良かったな、お前達の愚かさで聖国という国が終わったぞ? お前達は国を終わらせた者として歴史書に残るな。おめでとう?」
「こ、こんな……こんな事があって堪るか!!! キサマ! キサマの所為だろうが!!!」
「何を怒っている? 俺は戦争だと言った筈だぞ? そしてこの惨状を見てみろ。お前達は戦争に負けたんだよ。戦争に負けたなら、王族など皆殺しにされて当たり前だろ? 生かす価値も無いんだからな」
「こ、この国はいったいどうな……わ、私の一族は!?」
「既に皆殺しにしたに決まってるだろ。聖都に居る貴族やその関係者はとっくに皆殺しにした。王侯貴族の中で生き残っているのはお前らだけだ。もちろんワザと生かしている、己らのやった事を認識させる為にな」
「「………」」
「これがお前達のやった事の結果だ。一個人が国に勝てる訳がない……そう高を括った結果、国が滅びる。結果としてはそれだけの事。俺はあの時に言ったぞ、俺は神の使徒だと。それを真面目に聞かなかったお前達が悪い」
「キサマが神の使徒などという事があるか!! こんな事をする神の使徒など居る訳がなかろうが!!!」
「いや? 間違いなく俺は神の、正しくは浄神の使徒だ。何故なら俺が命じられている事は、下界の腐った者どもを始末しろという事だからな。お前らのような腐った者を。ただし手当たり次第に皆殺しにすれば、俺が悪として他の神々に殺されてしまう。だから、お前らに手を出させる必要があったんだよ」
「………つまり、我々は神の使徒が手ぐすねを引いて待っていた所に、のこのこ喧嘩を売りに行った……と?」
「その通りだ。そもそもドラゴンにすら対抗できないお前達人間種が、腐ったドラゴンを殺せと神から命じられている俺にどうやって勝つんだ? 全ては現実を正しく認識しなかったマヌケが引き起こした結果だ」
「ふざけるな!! 私は認めんぞ! こんな事を認める訳がなかろうが!!!」
「まだ現実を認識しないとは、とんだ子供だな。20を超えて唯のクソガキか。こんなクソガキにしか教育できなかった所為だと思えば、この国全体の罪だ、な!!」
「グェッ!? ガッ! ゲッ! ガヒュ、カヒュー、ゴブ、ゲヘェッ!! ガ、ガヒュー、ゴヒュ!!」
短剣で喉を突き刺してやったので呼吸が出来ずに苦しんでいるが、あれは放っておく。既に完全敗北を喫しており、この国は終わったというのに理解しないとは。憐れな奴だ。
「王太子殿下……既に敗北した後だというのに、それが分からぬとは……」
「お前達が死に、民がここへ来た時に国の崩壊を知るだろう。中央が完全に崩壊したとなれば、次の国を興す為に群雄割拠の時代がやってくる。多くの戦争が起き、多くの民が死ぬだろう。だが、俺は言ったぞ、この国がどうなろうが興味も無いと。真面目に取り合わなかったお前達の責任だ」
「そこまで……そこまでの力がありながら、何故放っておかれるのだ」
「お前は勘違いしている。そもそも俺は神の使徒だ、今も神の監視を受けている。そして神命は下界の腐った者どもの抹殺。つまり、神はお前らゴミを既に見捨てている。ここまで言われないと分からないのか? お前達は既に見限られているんだよ」
「………」
「そして俺はその為の力を与えられている、腐った汚物どもを抹殺する力をな。汚物どもを導く力ではない、汚物どもを抹殺する力だ。神が望んでおられるのは汚物どもの皆殺しなのだからな。俺はな、かつて神から「手ぬるい」と言われた事があるんだよ。「根切りにしろ」と強く言われた事が」
「………」
「不老長寿。つまり寿命もなく生き続ける俺からすれば、お前ら腐った汚物を率いる気も導く気も無い。況してや救ってやる気も無いんだよ。精々さっさと死ねと言うぐらいか。さて、あの現実も認識せんゴミも死んだし、宰相のお前もあそこに飾ってやる。感謝しろ?」
「わたっ………」
何か言おうとしていたが、俺にそれを聞いてやる義理は無い。さっさと殺して終わらせるだけだ。喋ってる間も鼻の近くと口の近くは【浄化】し続けているが、あまり長居したい場所じゃない。さっさと首を並べたら立ち去ろう。
玉座の間というか謁見の間を出た俺は、入念に自分の全てを【浄化】する。流石に腐った死体も片付けられていないまま、死体を追加したからな。猛烈に臭いし病原菌の温床になっていた。
とにかく【浄化】しながら金銭をゲットしていこう。貨幣だけで十分だ。少なくとも今日奪ってきた貨幣の多くは、俺が懐に入れる訳じゃないからな。使い道はちゃんとある。その為にもしっかり集めておこう。




