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「こやつらがオドオドしておるのは、アルドがドラゴンを殺せる実力者だと知らなかったからであろう。更に昼食の邪魔をしておるしな。腐った同族の雄などに騙されぬようにせよ」
「騙されるというか、単に強い奴だから従ってただけなんじゃないか? 別に対して魔法も使えないし、ドラゴンから学ぶ事なんて何も無いと思うがな。あいつら碌に戦い方も知らないし」
「起き上がってきたよ? まだ痛いのか、お尻を引いてるけど」
「何ていうか、アレがドラゴン? っていう情けない姿になってるね」
「キ、キサマら……絶対に許さんからな。絶対に許さんからなぁ!!!」
そう叫んだ瞬間、ドラゴンの姿になった。今ごろかよ。それなら最初からドラゴンの姿になっとけってんだ。なら最初から首を落としてやったっていうのに、何でわざわざ人型状態で戦ってたんだよ?。
「我が手加減してやっていたら、つけ上がりおって!! 今すぐにこの世から消してやるぞ!!!」
「一つ言っておくが、ブレスを吐くとか下らん事をするなよ? すれば即刻首を落とすからな? 俺は忠告したぞ、後どうするかはお前が決めろ。俺はどちらでもいい」
「何を訳の分からん事を。死ねぇ!!!」
バカがブレスを吐いてきたので、俺は【念動】でカーブさせ顔面に直撃させる。それと並行してアイテムバッグから白い大太刀を取り出した俺は、目の前の阿呆の首を全力の身体強化を使って斬り落とした。
バックステップで斜めに離れると同時に【浄炎】で首を焼き、血の噴出を止める。掛かったら鬱陶しいし、いちいちドラゴンの血なんて汚い物に触れたくもない。それにしても、バカばっかりだな。
「フヨウ、すまんが頼めるか? 無理そうなら全部焼くが……大丈夫そうだな、ありがたい。それにしても空飛ぶトカゲの雄はどうしてこう、ザコなのに暴れるんだろうな? 自分が絶対の強者ではないと祖先が証明したろうに」
「そうだな。他の種族に食われ、それが知恵を付けて今の人間種になっておる。つまり殺されて食われたという事だ。少なくとも我らドラゴンは絶対の強者ではない。そうであれば祖先は食われてなどおらん」
「さっきの阿呆も「強くあらねばならない」とか言っていたが、それと弱い者を甚振るのは同じじゃないだろうにな? 何故か非戦闘員である一般人に対して、ブレスを吐いたり殺したりしてるんだよ。情けないと思わない……んだろうなあ、こいつら」
「で、あろうな。私もあいつら雄どもが何を考えているかなど理解できん。それよりアルド、今の内に言っておかなくて良いのか? そこに居る者が「カレエ」を作っておる者であろう?」
「え? ええ、確かに私が「カレー」を作っていますが……何かありましたか?」
「何かも何も、味は美味しいが、水に呪いが染みこんでいて頗る不味くなっておったぞ。味は美味いが呪いで不味い。アレはいったいどうなっておるのだ?」
「あ、ああ……アレの事ですか。料理人として忸怩たる思いではありますが、どれだけ頑張っても仰る通り、水が不味いのでどうにもならないのです」
「そもそも町で聞いたが、あんたら9人は聖都の外で倒れていたらしいな? そして魔法が得意と聞いたが、どんな魔法が使えるんだ?」
「えーっと……簡単に言うと、火、水、風、土、光、浄化、錬金、錬成の8つっす。それが最初から使えたっつーか、頭の中に使い方があったというか、知ってたというか……」
「説明し辛いんだけど、魔法なんて使えなかったのに知識が頭の中にあって、何回か練習したら使えるようになったの。私達はあんまり役に立たないから、ディオンステルさんに色々学んでたのよ」
「私が浄化、カズが火、ヒトミが水なんです。他の人達は使い勝手の良い魔法とか物作りの魔法なので、王族の人達とかに専用の場所を与えられてます」
「成る程、囲われたのか。それを待遇が良いと思ったら大間違いだぞ? 奴等、王侯貴族は自分達に利益を齎す者は囲って飼い殺しにするからな。お前さん達は飼い殺しにされなかっただけマシだと思え」
「「「「………」」」」
「話を逸らせてしまったので戻すが、この星の水には残念ながら呪いが薄く染みこんでいる。これを取り除くには浄化するしかない訳なんだが……ちょっと待て、ここは聖国だろう。何故、浄化魔法の使い手をこの国の奴等は手放した?」
「ああ。手放したんじゃなくて、キョウコがおじさんにくっ付いてきただけよ。昔近所に住んでて、子供の頃に好きだったんだってさ。それで今はおじさんにべったり? って感じ」
「ほう、それは良い事だ。雌は良い雄が居たら突撃するくらいで丁度良い。後は体を使って篭絡してしまえ、自分の体の虜にしてしまえば良いのだ。それも含めて雄と雌なのだからな」
「え/// ……あ、はい」
「ちょっと、ちょっと! いったい何を教えてるのよ、キョウコはそういうタイプじゃないわよ!?」
「話が逸れそうなんで横から邪魔するぞ。水の中や食材に含まれる呪いは浄化魔法で浄化できるが、その知識はお前達に無いのか?」
「ああ、それは近衛魔法士団と聖教の方に聞きました。でもキョウコちゃんが何度やっても浄化は出来なかったんです。本当に浄化魔法で呪いが無くなるんですか?」
「??? ……ちょっと待ってくれよ」
俺は神水の入った樽から予備のコップに入れ、料理人のおっさんに手渡す。おっさんは訝しみながらも飲んで、呪いの嫌な味が無くてビックリしている。まあ、それどころか浄化し続けるのが神水なんだけどな。
「おお!! これは凄い! ここまで綺麗で美味しい水は初めてだ!! あの呪いの嫌な感じが一切しないなんて……この水が浄化した水なんですか?」
「まあな。俺達は何でもそうだが、浄化して食べたり飲んだりしている。その方が美味いからでもあるが……何故、浄化魔法で浄化できないんだろうな? ちょっとやってみてくれないか?」
「えっと……分かりました」
そう言ったので、俺は近くから適当な雑草を千切り手渡す。キョウコという若い子は雑草を握り魔法陣を展開、魔法の効果が現れた。その後、魔法陣が消えるものの、呪いは浄化されていない。
「終わりましたけど、どうでしょうか?」
「うん、呪いは浄化されてないな。結果を確認しなくても分かる。ウチの子供達も理解しているくらいだ」
「【聖潔】の魔法じゃ、呪いは綺麗にならないよ? それは病気の元とかを浄化する魔法であって、呪いを浄化する魔法じゃないもん」
「「「「えっ!?」」」」
「どうやら知らずに使ってたらしいな。いったいどういう事だ? 知識があるんだろ?」
「いえ、頭の中に魔法陣があって……それを魔力を使って生み出せば魔法が使えるとしか……」
「という事は何か? お前さん達は魔法陣を知っていても、その効果までは知らないって事か? ……何でそんな中途半端な事になってるんだろうな。まあ、お前さん達に聞いてもしょうがないんだが」
「どうするのだ、アルド。こやつらに浄化魔法を教えるのか? 1人に教えるも3人に教えるも同じであろう?」
「えっ? オレ達は火と水っすから浄化魔法は使えないっすよ?」
「あのなー、誰でもどんな魔法でも使えるに決まってるだろ。何で一人一種類と決まっていると思い込んだんだ?」
「あー……何となく? 全員バラバラだったんで、そういうイメージがあったというか……」
「私も何となくそんな感じに思ってた。そういえば誰でも使えたんだっけ? ……っていうか、魔法使えんの?」
「ほぼ全ての魔法を網羅しているのがアルドだぞ? そなたらに教える事など容易いであろうよ。そなたらが使い熟せるようになるかは知らんが」
「「「「………」」」」
そうなんだが、俺としては料理人のおっさんの魔力が妙に多いのが、どうしても引っ掛かるんだよなぁ。




