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結局、口直しに蛸を齧ったり烏賊を齧ったりしている子供達。気持ちは良く分かるので、ダリアやフヨウにウェルに干し肉を渡し、俺はチーズを食べる。しかし、料理人だった人物に呪いを何とかしろと言っても無理か。
元々無い物だから認識していない可能性すらあるな。仮に浄化魔法が使える者が居たとしても、そいつと疎遠なら料理に活かす事は出来ないだろうし。子供達は久しぶりに魔力を流して基礎練習をするようだ。
その後は魔法を使っているものの、使っているのは浄化魔法か。よっぽど呪い混じりのカレーに腹が立ったんだな。練習するのは良い事なんだが、理由がな……まあ、上達するなら何でもいいか。
子供達は眠たくなるまで練習し、ウトウトし始めたら布団に寝かせる。2匹も寝かせ【昏睡】を使ったら、抱き付いてきたウェルを寝かせていく。今日も技を使わず貪ったが、ウェルは終始悦び続けていた。
部屋と体を綺麗にしたら、おやすみなさい。
<呪いの星74日目>
おはようございます。今日は1日聖都を見回る休日です。香辛料が欲しいので見て回るのと、聖都のダンジョンへ行くぐらいだろうか? ダンジョンへ行くのは昼食を食べる為だ。聖都の外でも良いんだが……変な奴が集まってくる可能性があるからなあ。
朝の日課を終わらせて紅茶を淹れていると、外を歩いている奴等がいた。朝早いとはいえ、そこまでおかしい事ではないが……。娼館帰りかよ。それにしても聖国とか言ってる割には娼館があるんだな。そういった店は無いのかと思ってた。
代わりに昨日の宿みたいなのが営業してるのかと思ってたが、そうでもない……と。何が”聖”国なのかサッパリ分からないが、名乗るだけなら自由だからなあ。綺麗な水があるから聖国と言ってるだけかもしれない。
適当な事を考えつつ暇を潰していると、蓮が起きてトイレに行った。そろそろ騒がしい朝かと思いつつ紅茶を飲んでいると、戻ってきた蓮は紅茶を入れて俺の膝に座る。そのまま静かにしているようなので、2人でゆっくり過ごす事にした。
紅茶を飲み終わり、蓮がもたれ掛かってきて2度寝を始めた頃、ダリアやフヨウが起きたので神水を出して飲ませる。そのままフヨウはいつも通り首へ、ダリアは左の膝に抱き付いて遊び始めた。
ダリアが遊んでいたからかは分からないが、その後すぐにウェルとイデアが起きたので見送る。戻ってきた2人は紅茶を入れてゆっくり飲みつつ、蓮にもたれ掛かられダリアからのちょっかいを受けている俺を見て苦笑していた。
2人が紅茶を飲み終わったので蓮を起こし、部屋を片付けてから今日は聖都を見て回る事を伝える。香辛料を買い込んでおきたいのと観光する為だ。朝も考えていたが、何処が聖国なのかサッパリ分からないしな。
「まあ、言いたい事はよく分かります。町並みも普通ですし、よく分からない建物があって、その中でそれっぽい説法をしているだけでしょう。たぶん適当な奇麗事を言っているのだと思いますよ」
「聖神殿とかいう穢れてたトコとかあったもんね。ああいうのって碌なものじゃないよ、きっと。結局、自分達の都合の良い事言ってお金儲けしてるだけじゃないかな」
「子供達がやけに辛辣ではあるが、私も変わらんな。適当にそれっぽい事を言って、民を都合よく誘導するくらいであろう。昔、そういった事をしていた国があった筈だ。そういう奴ほど腐っていて崩壊した筈だが……」
「まあ、この国に宗教があったとして、俺達には関係ないからなあ。信じる事も無ければ寄付する事も無い。俺達に関わってきたら潰すが、関わってこないならどうでもいい。そもそもどうするかは、この国の者が決める事だ」
話もそこそこに部屋を出て、適当な食堂に入り中銅貨6枚を支払って朝食を食べる。特に興味を持つ噂話もなかったので、さっさと食べて聖都を散策する。適当に歩いて回るが、町並みが変わらないので既につまらない。
ウロウロしても特に面白いと思える所もなく、香辛料の店を見つけた。大銀貨50枚、つまり小金貨5枚分の香辛料を買ったが店主はホクホク顔だ。転売だとか警戒されるかと思ったが、売れれば何でもいいらしい。俺は凍らせてからアイテムバッグに仕舞っていく。
香辛料なんて簡単には手に入らないので、買える時に買い溜めしておくのが一番だ。この聖都が香辛料の一番安い場所らしく、理由はダンジョンでも手に入るかららしい。成る程、そういう意味でも前の星のマールと変わらない訳か。
それ以外にも色々歩いたが、結局見るような場所も無かった。観光の事なんて考えられていない時代だから仕方ないんだろうけど、本当に楽しめるものが何も無いんだな。そんな事を考えつつ、俺達は聖都を出てダンジョンへ行く。
順番待ちも無かったのでさっさと入り、1層目は川の流れる草原だった。俺達はその中を人の居ない方向へと進んで行く。草原に生えている草の中に香辛料が混ざっていたり、生えている木の皮を剥がしていたりと、香辛料を得ている若い奴等が居る。
魔物はウサギ系とかカエル系のようで、特に強くもない。人の居ない所まで来た俺達は、焼き場やテーブルに椅子を作ったら昼食を作り始める。蓮に麦飯を任せ、イデアにスープ作りを任せたら、俺は鯵を捌いて脂の用意をする。
捌いた鯵に全粒粉を付けて揚げていくと、香ばしい匂いが辺りに広がる。肉も良いけど魚も良い。1匹はダリアが生のまま食べているが、これは猛烈に五月蝿かったからだ。フヨウは頭や内臓を溶かしてくれている。
美味しい匂いを撒き散らしながらも揚げていき、秋刀魚は焼いていく。十分な量が揚がったし、十分な量が焼けた。箸休めとも言える野菜も用意したタイミングで麦飯が炊けた。
頭や尻尾や骨を外して魚醤と和えていた秋刀魚の身を、炊き立ての麦飯に入れて混ぜる。5尾の秋刀魚の身を混ぜているので、美味しい混ぜご飯になるだろう。イデアが作ってくれたのが野菜の味噌汁で良かった、ある意味で完璧な和食だ。
準備も盛り付けも終わった。それじゃあ、いただきます。
「ああ! こちらの方から非常に良い匂いがするのだ。何かは分からんが、非常に食欲をそそる香りだぞ!!」
「マジっすか!! 何かちょっと匂ってきた気がしますけど、誰か居ますよ、あそこ!!」
「おお、本当だな。そこの者、ちょっといいかぁっ!?」
「どうしたんですか? 何か驚くようなことでもあぁ!? ねぇ、アレ見て! アレ、アジフライじゃないの!? おじさん、そうだよね!?」
「はぁ、はぁ、はぁ。えっ? あ、ああ、そうじゃないかい。ああ……疲れた」
「大丈夫ですか? しっかりして下さい」
何なんだよ、こいつら。大凡の想像はつくけどさ、このタイミングで会うっておかしいし、向こうから押しかけてくるとか、勘弁してくれよ。挙句の果てに、一番前にいる奴が驚いて固まってるぞ。何だ、アレ?。
「………」
「ちょっとどうしたんっすか、ディーさん! 聞いてますか!? ……マジで聞こえてないっぽい」
「どうなってるの? あっちの女性を見て固まってるみたいだけど」
「それより、他の人が食事中の所に突撃するのはどうなのかな?」
「おじさん、いつも冷静だね」
「あのアジフライが見えてないんじゃないの?」
「見えてるけどマナーとしてどうなんだって事だよ。それよりもディオンステルさんはどうしたんだい? さっきからずっと固まってるけど」
「さあ? オレが揺すっても声かけても聞こえてないっぽいんすよね」
その時ヨロヨロとしながら近付いてきたイケメンは、開口一番バカな事を言い出した。
「キミは私の雌になりたまえ。それが一番の幸せだ」
「寝言は寝てから言え、同族の雄よ。私はここに居るアルドに雌としての口上を述べ、既に全てを差し出したのだ。私の全てはアルドのものであり、お前が関わってくる余地などない」
「………」
急に睨んできたが、昼食時に鬱陶しい奴等だな。




