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「あの股間を押さえて蹲っていた男が、君に手を出して無理矢理に連れて行こうとしたと。そして、この子がそれを察知し、あの男の股間を殴ったという事で良いね?」
ここは帝都にある兵士の詰め所だ。今は聞き取り調査をしていて、あの男と仲間の3人は別室で取調べを受けている。俺はその場に居なかったが、仲間としてこの場に居る。ついでに遠隔で4人組に【白痴】を使用中だ。
つまり奴等は本当の事しか言えない訳だ。酔っ払っていても関係ない、嘘は一切吐けない状態となる。まあ、目の前の兵士もウェルや子供達を疑っている訳じゃない。あそこに居た野次馬の連中も見ていたし、他の兵士が聞き込んでいた。
なので割とすぐに解放されるだろう。おかしな事になったら暴れて脱出だ。そんな事を考えていると、なにやら偉そうな兵士が入ってきた。いったい何の用だ? それにしても……見た目が太ったヒキガエルみたいな奴だな。
「お前達、もういいぞ。この私が聞きだそう。なに、私に任せておけばすぐに本当の事を喋る。私は”デリオル子爵家”の者なのだからな」
なんとか子爵のところを妙に強調する奴だ。もしかして脅しか何かのつもりか? だとしたら随分マヌケな奴だとしか言い様が無いんだが、とりあえずは様子見をするか。何故か他の兵士も部屋の中、というか取調室みたいな部屋に残ってるしな。
「さて、お前らは何の罪も無い人物に暴行を加えたという事だが、このままだと死罪になるぞ? もちろん反省して許しを乞うのならば別だがな?」
「何を言っておるのだ、お前は? そもそも暴行を行ったと言う事実など無い。蓮が股間を殴ったが、それだけに過ぎん。そもそも酔っ払って絡んできたのは向こうだ。こちらではない」
「いちいち口答えをするな! 貧民風情が!! 私はデリオル子爵家の者だぞ! 貴様らのようなゴミの命など好き勝手に出来るに決まっておろうが!!!」
「こいつは頭がおかしいのか? 堂々と不正を行うと言っているのと同じなんだが……これが帝国か?」
「ほう、キサマは我が帝国を貶した罪で死刑だ。ガキどもも殺して、女は犯し尽くしてから……」
「今、何て言った? お前は今……何と言った?」
俺は周囲に魔力と闘気と念力の威圧を撒き散らしながら、目の前のゴミに聞く。どうやらこいつは、可能な限り惨たらしく殺されたいらしい。ならば要望通りにしてやらないとな。誰に対して下らん事を言ったか教えてやる。
「俺や子供達を殺すとかホザいたよな? ウェルを犯すだとかホザいたよなぁ?」
「な、なに……なにをいって、い、るのだ! わ、わたし、はっ! で、でりおる……」
「お前が何処の誰かなど、どうでもいい。子供達を殺し、俺の女に手を出すと言った以上、覚悟は出来ていると見做す」
「か、かくご……? な、なんのごぉっ!?!?!」
俺は腹を膝で蹴り上げた後、ゴミの髪を引っ張って歩いていく。周りに対して更に威圧というプレッシャーを与えつつ、兵士の詰め所を出た俺達は、その足で貴族街の方へと歩いて行く。門番が居たが無視して通り、邪魔をする連中は【念動】で排除した。
更に進んで行き、帝城付近の門に差し掛かった時、威圧を感知したのか近衛の連中が大量に出てきた。そんな中、俺達を知っている2人の近衛が慌てて俺達の前に走ってくる。
「い、いったい何なんだ!? 何故それ程までに周囲に威圧を放ってる!? まずはそれを抑えてくれ!!」
「抑えてもいいが、舐めた真似をすると皆殺しにするぞ? それでもいいか?」
「そこまで怒るという事は、そこの兵士が何かをしたのか?」
「私も聞かせてもらいたいな」
2人の後ろからイケオジっぽいのが現れたが、豪華な近衛の服を着ているので、おそらくは近衛騎士団長なんだろう。俺は仕方なく威圧を解除し、話を始める。
「簡単に言えばこのゴミ、名前何つったか……「デリオル子爵だ」。そうそう、その何とか子爵だとか言って取調べに割り込んできた挙句、いきなり俺を死罪、子供達を殺して、ウェルを犯すとかホザいてな。帝国という国がそういう国なら、頭を潰さなくちゃならんだろう?」
「いやいや、ちょっと待ってくれ! そちらだって、分かってるだろう!? この頭の悪いバカがおかしな事をしただけで、我が国がそんな「そういう事か」国な筈が……」
「確かに由々しき事だな。デリオル子爵家の言い分はあるだろうから、全てを近衛で預かりたいのだが良いだろうか? なに、何故君が大事にしたのかは分かっている。デリオル子爵家にも”色々聞かなければ”いけないからな」
「”色々聞いて”、”色々調べてくれる”なら、俺達はこいつを引き渡して帰るが?」
「もちろんだ。私が近衛騎士団長として、”正式に”陛下に今回の事をお伝えするとも」
なので俺は太ったヒキガエルを渡す。近衛騎士団長はすぐにヒキガエルを捕縛させ、近衛の建物に連行していった。俺達はそのまま踵を返して平民街へと戻り、スラム近くの宿へと戻る。
あのデなんとか子爵家の奴は、叩けば幾らでも埃が出るタイプだろう。上手く使えば子爵家を相当弱体化させられる筈だ。貴族にとって一番困るのは醜聞だからな。俺達にとったらゴミに相応しい末路となったらそれでいい。
「渡しちゃったけど、大丈夫かなぁ? あの人なら大丈夫っぽいけど……」
「たぶん大丈夫じゃないかな? あの人アルドさんの含ませた言葉も分かってたし、そういう意味で返してたから問題無いと思うよ。周りにも気付いていた人達が居たし」
「ま、大丈夫だろう。イデアが言う通り、あのイケオジは普通に理解してる。間違いなくアホみたいな貴族家を潰すか弱体化させるチャンスだからな、これを上手く利用しない奴は貴族じゃない。仮に表面上は何も無くても、家の名を地に落とすとかな? それぐらいは普通にやる」
「そうなんだ。貴族って難しいね」
「蓮の実家も元はそうなんだがな? それに皇太子達が口添えするだろ。手を出そうとしたのはウェル、つまりドラゴンだ。流石にドラゴン相手におかしな事を言ったのだから、擁護する事はありえないだろう。あのヒキガエルは分かってなかったが」
「「ヒキガエル……?」」
ああ、こっちの星にはヒキガエルが居ないから分からないか。俺は子供達にヒキガエルを説明すると、何となく理解できたようだ。それなりに時間を使ってしまったからか、既に昼になっていたので全員で食堂に移動。
中銅貨6枚を支払って注文したら、席に座ってゆっくりと待つ。適当に周囲の会話を聞くも、気になる話は無し。食事を終えて宿に戻り、午後からは適当に過ごす。「そういえば」と思い出し、俺はピンク色の蛸をアイテムバッグから取り出した。
適当に【乾燥】させてみるが、蓮の顔が物凄い満面の笑みに。試さないと美味しいかどうか分からないぞ? 何よりこの色だし。
「確かにそうですね。何ていうか……前の星のどぐう? はにわ? アレほどじゃありませんけど、それでも目に悪い色ですし、食べ物の色には見えません。アルドさんが持っている以上、毒は無いんでしょうが……」
「毒は最初から無かったんだよ、【浄化】したんだが引っ掛かりが全く無くてな。だから問題無いと思うんだが、味の方はさっぱり分からない。とりあえず誰かさんが食べたそうにしてるから、どうぞ」
イデアは呆れた顔をしているが、蓮は満面の笑みで乾物となった蛸を齧る。モグモグしているが、満面の笑みなのは変わらないので不味くはないんだろう。
「いつもより歯応えがある? でも味も濃いから美味しいよ!」
まあ、問題ないなら何でもいいけどね。俺達は食べないし。




