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昼食のうどんを食べ終わった後、片付けて焼き場などを壊したら帝都へ。明日にでもダンジョン攻略は終わるだろうから、その次は聖国か……。香辛料が売っているのは良いんだが、どうにも臭い国なんだよなぁ。
怪しいっていうか、綺麗に表面を整えているだけの国。そんなイメージがある。ドラゴンが暴れてるって聞くので最初はドラゴンに喧嘩を売った国なのかと思っていたが、そのドラゴンがアレだから微妙なんだよなー。どっちが悪いのか分からん。
「ふむ、聖国か。私も噂でしか聞かんが、確かにドラゴンが暴れているとは聞くな。ただ、その理由までは知らん。今までの感じだとドラゴンの中の阿呆がブレスでも吐いて暴れたか、それとも本当にドラゴンを狩ろうとでもしたか?」
「その辺りは分かりませんけど、ドラゴン自体がアレ過ぎますからね。何とも言えなくなってくるんですよ。仮に噂でドラゴンが被害者だと聞いても、本当かと疑問に思ってしまう時点で……」
「ドラゴンがまた暴れてるだけじゃない? って思うよねー。だって自分勝手な事で暴れるヒトが長老だったくらいだし、なら下のヒト達も似たような者だって思うよ? 話だけでも、おかしいのが分かるし」
「おかしいって言うより、獣みたいなヒト達なんだよね。人間種が汚いから綺麗にしろって神様から言われてるのに、ドラゴンもそうだから掃除しろって神様が追加してくるんだよ? それぐらい汚いんだけど、人間種と変わらないって事でもあるんだ……そこはちょっと、何とも言えないけど」
「まあ、元々人間種は腐りやすいし欲望に流されやすい。だから腐っている者も多いし、無駄に悪知恵が働く。碌でもないが、まともな奴も居るから神様は腐った奴だけ殺せと言っているんだ。その腐った奴の比率が、ドラゴンだと非常に高い」
帝都へと歩きながらする話でもないので止め、適当な雑談へと切り替える。皆も然程興味があった訳でもないので、すぐに雑談に乗ってきた。周りに狩人もそれなりに居るし、ドラゴンの事もあまり話すべきじゃない。
ダラダラ適当に歩きながら帰っていると、ダンジョンとは反対側の方から「ワー!ワー!」聞こえてきた。おそらくそちらの方で<帝国武術大会>をやっているのだろうが、俺達も含めて興味の無い奴等は意外に多そうだな。
そんな周りの連中を見ながら帝都へと戻る。武術大会の期間中は、早めに帝都へ戻った方が良いだろうか? 観客が一斉に帝都へ戻るタイミングに巻き込まれると、とんでもなく待たされる気がするぞ?。
俺がそう言うと皆も同じ事を思ったのか、足早に帝都の門番の所へ行き、今の内に登録証を見せて帝都の中へと戻った。門番に若干不審がられたが、理由を言うと物凄く納得していた。
「まあ、気持ちはよく分かるし、オレ達なんてすぐそこまで迫ってるから憂鬱でしょうがない。門を通る人のラッシュは地獄なんだぜ?」
それほどまでに大変らしい。御愁傷様だとは思うが、毎年の事だから諦めてるんだろうなあ。そもそも武術大会自体は悪い事じゃないし、帝都の外でやるのも防犯の観点では正しい。見に来た奴を帝都に入れないで済むし。
中に入れて犯罪をされるよりは、帝都の外で武術大会を開いてくれた方が治安は楽に守れる。そういう事もあって外で開かれてるんだろうと俺は思う。まあ、こんなのは適当に頭で考えて遊ぶくらいでちょうどいい。俺達には関わり無い事だし。
一旦宿に戻ってゆっくり休む事にする。部屋に入り一息吐いた俺達は、思い思いに過ごす。俺は紅茶を淹れて飲んでいるが、イデアも飲みながらボーッとしている。蓮はダリアと何かをして遊んでいるらしい。何かは知らないけど楽しそうだ。
ウェルは目を瞑っているが、瞑想というより寝ている気がする。アリシアは半分寝かけているな。そこまで遅く起きる理由も無いし早く寝ている筈だが、あのクソガキが面倒臭かったのかね?。
「そうだの、アレは面倒だった。己の正義を信じて疑わんからか、己の所業を省みる事も無い。己が何をやっておるかも理解せんとは……憎しみに凝り固まったとしても限度があろう。ドラゴン全てを敵と考えるのは、人間種全てを敵と考えるのと変わらん。置き換えれば、おかしな事が分かるであろうに」
「ああいうのは分からないんですよ。あそこまで憎しみに凝り固まると理解しようとしなくなるんでしょう。最初から答えがあって、それ以外を認めないんでしょうね。あの少年の頭の中では、自分の正しい答え以外は全部間違っているんですよ」
「意味が分からんな。そもそも己の答えが絶対に正しいなどあり得んであろうが。己がどれだけ賢くとも、必ず正しいなどという事は無い。それこそ絶対にあり得ぬ。断言できるわ」
「それが分からないから狂うんでしょう。そもそも狂った者の言い分なんて、いちいち聞く必要は無いと思います。今回の事でそれをハッキリと思い知りましたね。会話にならないという事が本当にあるんだなと」
「確かに会話になっておらなかったな。アレは己の都合を相手に押し付けておるだけであった。そのうえ相手が認めねば恨む始末だ。同じ村の出身である女2人にさえ否定されたというのに、それでも己が正しいと思い込んでおったからな」
「一度ああなると止まらないんでしょうね。で、殺されるか洗脳されるまで狂い続ける……と。まあ、よくよく考えるとアルドのやった事って間違ってはいないんでしょうね。あの少年の心を残しながら変えてましたから」
「そうだな。元は誰かを救いたいという感情を持っておったのだろう。それが見栄からであろうが構わんのだが、そこを拗らせてしまった……といったところか。村人の仇をとれば、両親や村人は認めてくれると思い込んだのであろうな。既に死んでおるから余計に」
「答えてくれる人はもう居ませんから、余計に凝り固まった。……その割には他の女の子の言う事も聞いていませんでしたが、あの辺りは凝り固まった後だったんですかね? それともアルドが挑発したから余計に意固地になった?」
「………その可能性は否定できんな。自分は強いと思っていたところボコボコにされて、手も足も出ない相手が現れた。その相手は正論を言っており、周りの仲間は自分の言う事を聞かない。呪いの力を手に入れたが、それすら浄化されて役に立たなかった」
「何から何まで負けて、男のプライドは粉々ですか……。あそこまで意固地になるのも分からなくはありませんね。そのうえ元々の性格を利用される形で洗脳されましたし。完全敗北という言葉が頭に浮かびましたよ」
「言いたい事は分かる。狩人としてもリーダーとしても男としても完全に敗北したのだから、あそこまでの意固地になるのも分からんではない。誰が悪い訳でもないであろうが、おそらく誰に負けてもああなったであろう。洗脳できるアルドに負けて良かったのかもしれん」
「そろそろ夕食の時間だから食堂に行くぞ? マヌケの事なんぞ考えてもしょうがないからな。所詮は喚き散らすクソガキだったで終わる話だ」
俺の容赦ない一言に、でも納得した2人は立ち上がり部屋を出る。食堂に行って中銅貨7枚を支払い注文したら、席に座って適当に待つ。周囲の話に耳を傾けていると武術大会の話一色だった。
「いやー、今日の試合凄かったなあ! 剣の部門の姫様はビックリするほど強かったし、槍の部門の姫様も強かった! 皇族の方々が強けりゃお国も安泰ってもんよ!!」
「今年は皇太子様も第二皇子様も自由部門だからなー。そっちも強かったけど、お姫様の強さが際立ってたからなあ。剣の部門にお二人、槍の部門にお一人出てらっしゃるけど」
「何でもいいさ。強けりゃな!!」
戦争の事もあって頼もしいと感じているのか、元々こういう風に騒ぐのか。イマイチ分からないな。まあ、雰囲気は悪くないからいいか。




