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「づ……う、くっそ! 皆、なんでそいつを攻撃しないんだ!! 今は大丈夫だろう、そいつはドラゴンに味方する奴だぞ!! 戦えよ!!!」
「お前がバカだからだろうさ。更に言えば、呪いに塗れていたから理解できないんだよ。お前自身は何も感じていなかったみたいだが、呪いというのはおぞましいものだぞ? それをお前が振り撒いていたんだよ」
「つまり、お主自身をおぞましいものとしか感じなかったという事よ。そしてその所為でこの者達は怯えてしまっておる。それはそうであろう、呪いというものは根源的な恐怖を感じるもの故にな」
「流石にそこまでの量ではありませんでしたが、それでも常人なら耐えられないでしょうね。勘違いした怨みと憎しみから呪いを持ち、そしてそれを利用して他人を殺そうとする。色々な意味でおぞましい者です」
「お前達になど聞いていない! 皆、何でそいつらを攻撃しないんだ! オレ達の故郷はドラゴンに滅ぼされたんだぞ!!」
「………悪いんだけど、そんなのは3人だけでやってくれ。オレはチームから抜けさせてもらう。さっきの呪いも気持ち悪かったが、ドラゴンなら何やってもいいと思ってるお前も気持ち悪い」
「私もだ。流石に今後犯罪者になる可能性のある者とは一緒に居られない。お前が言っている事は、先ほどそこの人が言った通り盗賊と何も変わらないだろう。怨みや憎しみがあれば何でも許される訳じゃない。私まで犯罪者扱いは御免被る」
「「………」」
「おい、どうしたんだよ! 何でだよ! 皆が殺されたんだぞ!!」
「なら、お前の故郷を滅ぼしたヤツにやれ。関係の無い者にするな。そもそも気付いていないのか? お前がやっている事は無関係な者を責めて殺そうとする行為だ。それはつまり、お前が言っているドラゴンと同じ事じゃないか。お前の故郷を滅ぼしたドラゴンとお前は、やっている事が完全に同じだ」
「なっ!? ふ、ふざけるなーー!!!」
再び右手で殴りかかってきたが、俺は右手で拳を逸らしながら左手で背中を押す。簡単に前のめりに倒れるので、両足を持ってジャイアントスイングを行い、ある程度回転させたら放り投げた。結構な距離を飛んだが、落ちた後で呻いている。
「で、あのクソガキはともかくお前さん達はどうするんだ? お前さん達の故郷を攻めて滅ぼしたっていうドラゴンと同じ事をし続けるのか? 無関係な者を攻撃して殺すのが、お前達のやる事なのか? 亡くなった人達も、今のお前達を見ればどう思うんだろうな?」
「「!?」」
「っぐう、くそ!! 皆、そいつの言う事は聞くな!! それより早く戦えよ、戦おうとしているのはオレだけじゃないか!!」
「つまり盗賊と同じなのもお前だけだ。お前が盗賊なのはどうでもいいが、他の奴まで盗賊にしようとするなよ。盗賊がやりたきゃ、お前だけでやれ。何で周囲を巻き込むんだ? そもそも俺を殺すとか言ってるが、俺はドラゴンでも何でもないぞ? お前は気に入らない奴を殺したいだけだろうが」
「「………」」
「お前がドラゴンの味方をしているからだろうが!! 皆、早く立って戦えよ! さっきから戦ってるのはオレだけじゃないか!!!」
「……はぁ。まあ、もう勝手にやってくれ。すみません、オレは転移紋で先に行って出ますんで、行っていいですか? 襲った事は本当にすみませんでした。でも、アイツみたいに狂ってる訳じゃないんで」
「申し訳ございませんでした。私もアレと同じにされたくないので失礼します。そもそも怨みや憎しみに凝り固まって、やっている事が怨みの相手と変わらないというのは……。あそこまで狂っている奴だとは知りませんでした」
そう言って2人は頭を下げた後、転移紋の方へ歩いて転移していった。まあ、当たり前すぎるほど当たり前だよなぁ。憎しみに凝り固まり、そのうえ呪いまで吸収した奴だ。正直に言って一緒に居たくはないだろう。また同じ事をやらかす可能性があるんだ。
「おい、2人とも! いつまで呆けてるんだ、コイツを殺すぞ! 早く立てよ!!」
「………申し訳ないけど、私も無理。無関係の人を殺すっていう、あのドラゴンと同じ事はしたくない。あのドラゴンが憎い、だからこそ同じ事は絶対にしたくない。あのドラゴンと同じ事がしたいなら1人ですればいい、私はイヤ」
そう言って1人の女の子が立ち上がると、もう1人の女の子も立ち上がった。決意を篭めた目でクソガキを睨みつけている。
「な、何だよ……」
「私も同じ。今でも憎くて憎くて許せない。でも、憎いからこそ、あのドラゴンと同じ事は絶対にしたくないの。もし無関係な人を殺したいなら……1人でして。私は無理だし、断る。犯罪者になんてなりたくないし、ならない。だってそんな事したら両親の墓の前に立てない」
「な、何言ってんだよ。皆、よくやったって褒めてくれるに決まってるだろ? ドラゴンを倒すんだぞ……仇をとるんだぞ!?」
「ああ、うん。無理だって分かった。私、そこまで狂ってないから一緒にしないで。……今回の事は良かったと思う。そこに居る人達には申し訳ないけど、こんなに狂ったヤツだったなんて。……申し訳ございませんでした!」
「ごめんなさい!!」
「ま、反省できたのなら別にいいさ。五月蝿い奴が喚きそうだから、さっさと行きな。一応言っておくが、君達が離れても諦めない場合はアレを殺すからな? 誰かを殺そうとするという事は、その相手から殺されるという事でもある。それが殺し合いというものだ。自分だけが一方的に殺せるという事は無い」
「「…………はい、お願いします」」
そう言って2人の女の子も去っていった。残りは未だに拗らせているクソガキだけだ。このままだと間違いなく意固地になるだろうし、どうするかな? 洗脳してもいいし、暗示で止めてもいいし。どうするべきだろうなー?。
「あいつら……クソッ!! 薄情な奴等だ! もういい! オレ1人でも皆の仇は必ずとってやる!!」
「未だに正義のヒーローごっこかよ。どれだけマヌケなんだコイツは? それとも引っ込みがつかないだけか? どっちにした所で頭が悪すぎるが……」
「五月蝿い!! お前は死ねぇ!!!」
「無理無理、お前如きじゃ1000年経っても無理だよ。まあいい、とにかく沈め」
また右手で殴りかかってきたが、俺はその拳より速く顎を殴ると同時に【衝気】を使って気絶させる。怨みや憎しみがあり、更に俺に集中してるので普通なら成功しないんだが、顎を打って一瞬でも意識を飛ばした瞬間なら確定で気絶させられる。相変わらず、使い所さえ間違えなければ優秀な【念術】だよ。
それはそうと、気絶させたコイツに【洗脳】を使う訳だが……神様の道具じゃなく、自前で洗脳して書き換えてしまうのは初めてだな。近衛騎士の奴は誘導に近かったし。
多分、成功すると思うんだが……こいつはそれなりに時間のかかる技で………よし、出来た。ならば【覚醒】っと。
「よう、起きたか? お前さんが何をしなきゃいけないか思い出せるか? 駄目なら俺が教えてやるが……」
「お前から聞く事なんて何も無い!! 急いで追いかけて皆に謝ってこないと! オレが必ず助けてやるからな。オレはこの世に生きる全ての人を、必ず救ってみせる!!!」
「おお、頑張れよー」
「五月蝿い! お前になんて応援されたくない!!」
そう言ってクソガキは走って転移紋に入り、そして消えていった。どうやら上手くいったようだな。これからはドラゴンに殺された村人じゃなく、困っている人、弱い人のヒーローになれよ。期待してるぜ!。
皆からは白い目を向けられているが、気にしない、気にしない。




