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他にも色々見回りながらウロウロしていくが、そこまでの物がある訳ではなかった。紅茶の茶葉はあるけど、黒砂糖は無い。この辺りは茶葉が栽培できる気候なんだろうが、何処の茶葉が良いかなんて分からないし、そこら辺は適当でいい。
こういう時代だと品質なんてあって無いようなものだ。それに俺達の中で拘る奴もいないしな。他にも色々と見回る中で、忘れていた鉄の鍋などを購入する。どうせ後で精錬したりして整えないといけないが、それは何処の国で買っても変わらない。
大きな鍋を3つに小さい鍋を2つ。何故か土鍋もあったので2つ購入し、他にも細々とした物も買う。全部で中銀貨2枚にしてもらったが、まけてくれたという事は売れないのかね? 特に鉄製品は。
気にしても仕方ないので、他にもないかウロウロしていると2人が酒を買っていた。帝国では濁酒は無く、エールとワインが主流らしい。米が無いのかと思ったが、どうやら帝国でも米は栽培されていて売っていた。
どうやら作る手間の問題らしい。エールやワインに比べて濁酒は手間が掛かる。もちろんエールやワインが簡単な訳じゃないが、麹を含めて色々大変な濁酒に比べれば楽なんだろう。特に帝国はワインの一大生産地のようだ。……何だ、鉄以外もあるじゃないか。
俺はワインとエールを大樽で購入、大銀貨2枚支払ったが気にはしない。なかなかの金額ではあるが、大樽2つと考えれば安い。どちらの酒も、この国では沢山作られていてポピュラーだからだろう。酒屋はホクホク顔をしていたので、樽ごと買っていっても大丈夫そうだな。
酒樽をアイテムバッグに収納してウロウロしていると、昼になったので食堂へ行く。中銅貨7枚を支払って昼食を頼み、席に座って雑談。周りから聞こえてくるのは、戦争の話ばかりだ。しかも取り返されてるので雰囲気も悪い。
適当に食事を終えたら、宿に行って部屋をとる。中銅貨7枚で3人部屋をとり、昼からはゆっくりする事にした。子供達も反対しなかったので、今日はゆっくり休もう。
「それは構わぬが、酒の樽を取り出して何をしておるのだ? ……酒を浮かせたので何かしておるのであろうが、まったく理解できん。更には何かを分けておるのか?」
「出来上がるまでは聞いても仕方ないと思いますよ。邪魔になってもいけませんから、勝負といきましょう? 今度は勝ちますからね」
ウェルとアリシアはリバーシをするらしいが、俺はウイスキーモドキとブランデーモドキを現在作っている。アルコールを【浄化】せず呪いだけを【浄化】しつつ、危険物質を除去しながら作り上げていく。
前の星でも散々やってきたが、この星だと呪いが混じっているので大変だ。しかし呪いを【浄化】してから加工すると美味しくなるのってどうなんだろう? 毎回不思議に思うが、現実としてそうなのだから受け入れるけどさ。
加工品は【浄化】しただけでは美味しくならないんだよな。そのままの野菜や穀物は【浄化】すれば美味しくなるのに、加工品は更に手間を掛けなきゃ美味しくならない。様々な物の呪いが絡み合ってるからだろうか?。
【浄化】するだけで美味しくなってくれれば楽なんだが、そんな事も無いし厄介だよな呪いって。代わりに高濃度の魔力もあるからか、魔力の回復は早いんだけどさ。その割には魔法はあんまり普及してないし、何かチグハグな星だよなー。
……よし、2つとも完成した。とはいえ、飲ませるのは夜になってからだな。昼間から酒を飲んで酔っ払うのは駄目だ、これは酒精がキツイんだよ。
「む? そうなのか。前に作った70度のヤツと同じなのか……? しかし、あんな物をわざわざエールやワインから作ってどうするのだ。そもそもアルドは酒を飲まんのだから、買う意味も分からんが……」
「ここでエールとワインを買ったのは、ウイスキーモドキとブランデーモドキが前の星と同じように作れるかの実験だな。呪いが混じっている星だから、前の星とは違う結果になるかもしれないし。後は他の町などでワインを買って【浄化】実験だ」
「まだやるんですか? そんなに実験する意味も分かりませんけど……加工品に浄化しても美味しくならない? ああ、料理を浄化しても美味しくならないって言ってましたね」
「そうなんだよ。多分酒も同じだろうと思う。まあ、俺は酒を飲まないので美味い不味いは分からないんだけどな。それでも酒は料理にも使うんで、出来れば美味しい酒を料理に使いたいんだ」
「それも贅沢な話ではあるがな。普通は料理に使うなら適当な酒でいいだろうと思うが、酒を飲まない者からすれば料理に美味しい酒か……。まあ、その美味しい酒もアルドが作っているのだから、仕方がない事ではあるのだが」
「とりあえず残った雑味の元と危険物質は捨ててくる。ついでに近くの川で神水を補充してくるよ。そろそろ一度満タンにしておきたい」
俺は隠密の4つの技を使って窓から出ると、一気に町を出て北へ。町の北にある森の中には東西に流れる川があり、獣国の方へも繋がっている。その川に近付き、神水の樽から水を捨て新たに入れていく。
相変わらず川に捨てた神水で浄化されているからか、川の生き物が活発に動いている。そんな光景を見ながら水を浮かせては【浄化】し、神水にして樽の中へ。現在大樽2つがあるので、それなりに補充するのに時間がかかる。
なので近くに狩人が来た場合は止めて、通り過ぎるのを待ってから再開する事に。いちいち面倒な奴等だよ、まったく。まだ若い感じのチームだが、近くをウロウロしていて鬱陶しい。流石に俺の存在がバレている訳じゃないようだが……。
「ここの水って、こんな綺麗だっけ? 昔からもっと汚かった筈だし、昨日も別に綺麗じゃなかったよなー? 何で今日に限って妙に綺麗なんだ?」
「さあ? というか、今日もいつも通りじゃなかったか? 綺麗になってるなら少し前からだと思う。何故かなんて分かんねーけど、汚いよりは良いんじゃねーの?」
「綺麗って言ったって川の水だよ? 井戸の水より綺麗な訳じゃないんだからさー、さっさと魔物を探そうよ。今日はもう一頭獲らないと食事が出来ないよ」
「げっ!? なら頑張らないと……とりあえず急いで探そう!」
「静かにして、魔物が逃げるから」
男2と女2の、若い少年少女のチームだったな。男2人は棍棒と斧、女2人は弓矢と槍だった。魔物を探している斥候の少女が弓矢だったが、若い連中にはお勧め出来ないんだが……。
まあ、そういう苦労も自分達でするものかな。もしくは弓矢は必要な時にしか使わないとか、そんなのかもしれない。とりあえず離れてくれたんで、今の内に神水を入れきってしまおう。
急いで神水を入れた俺はさっさとその場を離れようと思ったのだが、悲鳴が聞こえてきたので急いで声の下へ。すると、先ほどの少年少女がゴブリン7体に囲まれていた。男1人が負傷しているらしい。
面倒だが、一応声をかけておかないと揉め事になるからな。
「そこの子供4人、助けは必要かー? 必要無いなら俺は帰るが……」
「た、助けて下さい! この数じゃ勝てません!!」
「あいよー。ただ後で文句を言わないようになー」
ゴブリンもいきなり現れた俺を警戒したのだろうが、遅い。俺は短剣を左手に持ち一気に左端のゴブリンに接近すると、喉下に短剣を突き刺し離れる。喉を穿たれたゴブリンがもがき苦しむと、ようやく周りのゴブリンも動き始めるが遅すぎだ。
俺は隣のゴブリンに近付き、同じように喉下を突き刺して離れると右から襲われる。狩人の武器を奪ったのか錆だらけの剣を真っ直ぐ振り下ろしてくるが、斜め前に踏み込むようにかわし右手で左のゴブリンの前に押し出す。
左のゴブリンは錆びた短剣を持っていたが、それで突き刺される押したゴブリン。仲間意識でもあるのか、仲間を刺した事で硬直するゴブリン。戦場では動けなきゃ死ぬって事を知らないようだな。
その後も最速最短で喉を穿ち、襲ってきたゴブリンを肉の盾にしつつ倒した。俺にとっては大した魔物でも数でもないが、少年少女には難しかったみたいだな。




