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俺は話を終え、部屋を片付けつつ【浄化】して綺麗にしたら、皆と共に宿の入り口へと行く。宿の従業員に今日で出る事と返金不要を言ったら食堂へ。中銅貨7枚を支払って朝食を注文したら、席に座ってゆっくりと待つ。
運ばれてきた朝食を食べている間も周囲を確認しているが、これといって大騒ぎにもなっていない。未だ屋敷の連中は【昏睡】が効いたままらしい。まあ、忙しかったのならグッスリ寝るのは良い事だと思う。貴族の家の仕事って大変そうだし。
朝食後、町の入口で門番に登録証を見せて通過。さっさと町から西へと走って行く。皆に声をかけていると町の方が騒がしくなってきた。どうやら伯爵家の者が起きたようだな。俺達が町を出るまで律儀に待ってくれた訳じゃないだろうが、本当にタイミングの良い奴等だ。
俺は皆にもう一度声をかけ、さっさと西へと走り始めた。今日はどこまで行けるか分からないが、地理はウェルに聞けば分かるので調べる必要は無い。
マット村、ウェレ村を越えて、今日はホッデイ町に泊まる。そこまで急ぐ旅路でもないし、ここまで一日で来ればエレジ町の騒ぎは届いていないだろう。俺たちを捕まえる云々は不可能だ。まあ、仮に魔鳥便か何かがあって情報が届いていても、俺達が素直に捕まる理由は何処にも無い。
宿に向かい中銅貨6枚で三人部屋をとる。無事に確保できたので、酒場へ行って中銅貨7枚を支払い食事を注文。席に座って一息吐くと、各々好きに話し始めた。
「移動って大変ですけど、確定で昼食が美味しいのが助かります。今日のお昼も美味しい料理でしたし。やっぱり浄化された食材と神水で料理は変わりますね。とても美味しかったです」
「昼は適当に焼肉にしたけど、肉を嫌う奴はまず居ないからな。その御蔭で出しやすくて助かる。料理を考えるのも色々大変だし、何を出すかはそれなりに悩むんでな」
「まあ、作る側は大変であろうな。私もちょこちょこ手伝ったが、子供達よりも何も出来んとは……。自分も食べる以上は、少しは手伝えんと話にもならんしな」
「蓮も最初は出来なかったよ? 色々教えて貰って、魔法の練習もいっぱいしたから出来るようになったの。だから二人も練習をいっぱいすれば出来るようになるよ」
「まあ、結局はそうだよね。出来ない事が出来るように。最初から出来る人なんて居ないし、練習しないと出来ないままですからね。無理にとは言いませんけど、行動しないと始まりません」
「子供達にお説教されるとは……せめて何か一つぐらい出来た方がいいのかな? でも下手なのが混ざってもなー……美味しい物が食べたいし」
運ばれてきた食事をしつつ、何故か料理の話になっているが、そこは気にせず雑談をしながら食事を終えた。宿に戻り、部屋を綺麗にした後に布団を敷くと、子供達が上に座ってトランプで遊び始める。
アリシアとウェルはリバーシで対戦しており、アリシアの敗色濃厚だ。そこはいいのだが、宿の周りにちょこちょこと妙なのが集まってきている。ただし俺達がターゲットかというと、ちょっと違うような感じだ。
【空間把握】で確認すると、この宿に泊まっている男が裏組織の幹部の娘に手を出したらしい。成る程、ケジメがどうとかいう話か。興味も無いのでどうでもいいな、そう思いつつ監視だけは続ける。本当にそれだけかは分からないし。
「宿の周りの連中か? 何故か集まっておるようだが、もしかしてアルドのやった事と居場所がバレたか? だとすると踏み込んで来ぬ理由が分からんが……」
「いや。この宿に裏組織の幹部の娘に手を出した男が居るらしい。そいつを逃がさないように包囲してる感じだな。宿の中にそれっぽい奴は……居るな一人。多分そいつだと思うんだが、窓の外をチラチラ確認して部屋の中をウロウロしている」
「という事は、その男も包囲されている事を理解してるんですかね? まあ、裏組織の女に手を出したってだけでも危険そうなのに、幹部の娘じゃいつ殺されるか分かりません。周囲を警戒するのも当たり前でしょう」
「後で知ったというパターンも無い訳じゃないと思うがな。付き合ってある程度経ってから伝えられたら、男の方はどうする事も出来ないだろ。裏組織に関わりあるなら付き合ってないだろうしな」
「「あ~……」」
「あれ? 何か動いてるよ。しかも、こっちに悪意が来てる? ……蓮達は関係ないよね?」
「そうだね。ボク達は関係ないよ。……こっちに悪意を向けてくるって何でだろうね? 理由がよく分からないし、何の関係も無いのに」
「宿に踏み込むついでに荒らす気か? それとも俺達の事を何処かで知ったのかもしれん。とはいえ少し調べたものの、ドラゴン素材は呪いの魔物の素材より1ランク、酷い場合2ランクは落ちるぞ」
「お肉もウェルが居るから食べなかったし、結局フヨウが処理してくれたもんね。いっぱい撒いてたから、あの辺りは木とか花とか沢山育ちそう。ドラゴン素材は、今後全部ああするの?」
「ああ。特に使える物でもないのが分かったからな。鱗も皮も超魔鉄にすら耐えられん。まあ、だからこそ神の金属も精霊石も精霊木も取り上げられたんだろう。この星の魔物の弱さを考えるに、それは当然とも言えるしな」
「呪いの魔物の素材で済むんですから、楽と言えば楽ですね。前の星のように、おかしなキメラとか出てくる可能性はありますけど……」
「その辺りは出てき、おっと踏み込んできたようだな。さて、俺達の部屋に入ってくるバカは居るのかね?」
待っているものの俺達の部屋に入ってくる様子は無し。元々狙っていた男を捕まえて連行していった。蓮も言っていたが、俺達に対し悪意を向けていた奴等はいったい何なんだ? 何もせずにそのまま出て行ったぞ。
俺が首を捻っていると、眠たくなってきたのか子供二人は布団に寝転んだ。その左右に2匹が寝転がったので【昏睡】を使うのだが、いちいち抱きついて邪魔をするのは止めてくれないか? あと匂いを嗅ぐな。お前はドラゴンじゃなくて犬か、まったく。
面倒になった俺はチョロゴンに【房中術】【極幸】【至天】を使い、さっさと撃沈しておく。そういえば【極幸】を使うと幸せな夢を見る筈だが……いや、何も言うまい。
今度はアリシアに【房中術】【鋭覚】【精気】を使い、さっさと寝かせておいた。今は全身で大満足をアピールしているが、アリシアの意識は無いので本人は知らないだろう。
部屋と体を綺麗に【浄化】し、俺もさっさと寝よう。今日も一日お疲れ様でした。
………本当に面倒な連中だな。7人ほど宿に入ってきたが、あからさまに狙いは俺達だ。こっちに悪意を向けているからな。俺は起きて【空間把握】を使いつつ、タイミングを計る。
侵入しようとしている連中は、鍵を開けようと針金っぽい物を鍵穴に入れた。その隙に【衝気】を使って気絶させ、6人を【念動】で音をさせずに寝かせる。扉を開けて枷を嵌めたら【昏睡】を使い、6人は一旦放置して外へ。
外で見張っている一人を【衝気】で気絶させたら、そいつにも枷を嵌めて【昏睡】を叩き込む。後は宿の庭へと連れて行き、部屋の窓から【念動】で6人を庭に下ろす。
それぞれから聞いていくのだが、酷く下らない話だった。単純に言うと、アリシアとウェルが狙いでこんな事をしたらしく、二人を売り飛ばそうとして侵入したようだ。ある意味でよくある事でしかない。
どうも町中で見た時から狙っていたようだ。そういう悪意ってそれなりにあるんで、全部を警戒していると疲れるし、感知しても意識から排除するんだよな。悪意というか欲に近いからさ。だが、こういう欲を持って行動する奴も居るんだよ。
厄介だが、こればっかりはしょうがない。唯の欲か、本当に犯罪を犯すかは別だからなぁ……。




