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この屋敷の主の部屋を探して歩く。といっても、先ほど使用人に【忘我】と【白痴】を使って聞き出しているので既に分かっているのだが。聞きだした当主の部屋に行くと、でっぷり肥え太った腐った貴族の見本みたいな奴が寝ていた。
俺はそいつにも【忘我】と【白痴】を使い聞いたが、やはりコイツがゴルドーフ伯爵で間違い無いようだ。俺は聞きだした後で【昏睡】を強く使い、深く深く眠らせる。それが終わると暗殺者などの死体をバラしながら部屋の中に置いていく。
出来得る限り死体を広げて置き、四肢を切り落としたりして撒いていく。全て撒いて準備が完了したら、死体塗れの当主の部屋を脱出する。部屋の外に出ると、まずは屋敷の全員に強く【昏睡】を使い簡単に起きないようにしておく。
その後、自分を綺麗に【浄化】したら伯爵家の屋敷を出て、外から遠隔で【発酵】を使って腐敗させる。かつて腐った神殿に対してやった事だが、今回は貴族家の当主にやるだけだ。とはいえ腐敗した死体塗れなんだ、間違いなく起きるまでに何らかの病気になっているだろうなあ。
俺にとってはどうでもいい事なんで、さっさと帰って寝よう。いちいち面倒臭い奴が絡んできやがった所為で、こんな夜中まで起きて動く羽目になったんだ。これぐらいの報復は当たり前だな。
俺は素早く宿の前まで戻り、再度体も服も綺麗に【浄化】したら、部屋に戻ってベッドに横になった。それじゃあ、おやすみなさい。
<呪いの星30日目>
おはようございます。今日はダンジョンのあるエレジ町から更に西に行く日です。この国のダンジョンも攻略したし、次は鉄ぐらいしか取り柄が無いと言われる帝国だ。果たして本当に鉄しか取り柄が無いんだろうか?。
ここ獣国を離れる前にもう一度、紅茶の茶葉とか黒砂糖とかを買っておくべきかな? ここから西には茶葉が売ってないかもしれないし……。まあ、皆が起きてからか。さっさと朝の日課を終わらせよう。
朝の日課を終わらせた後、紅茶を淹れて飲んでいるとダリアが起きてきた。水皿に神水を入れてやると、ある程度飲んだ後で胡坐の中に入り込んでくる。二度寝を敢行するみたいだが好きにしてくれ。それにしても胡坐の中に入るの好きだなあ。
猫って妙に狭い所を好むが、外敵から身を守れる場所がリラックスできるって聞くし、その辺はダリアも変わらないんだろう。そんな事を考えながら、ダリアと静かな時間を過ごしていると、次にイデアが起きてきた。
セーフ! イデアも静かな時間を過ごすタイプなので、いたずらに騒いだりはしない。安心しつつも部屋を出るのを見送り、戻ってきたイデアは紅茶を入れて飲んでいる。ハチミツはイデアがトイレに行っている間に出しておいた。
その後はフヨウが起きた所までだった、静かだったのは。その次に起きたのがウェルであり、トイレから戻ってきたら早速喋り始めた。紅茶を入れてハチミツを混ぜつつも、どうしても喋りたいらしい。
「昨日の事が気になったのだから仕方あるまい? 流石にあのそそっかしいアリシアも初体験ぐらいは出来たであろう。果たしてそれが良い事なのかどうかは知らぬがな。私など初体験は最悪だったが、だからこそアルドの素晴らしさが分かるとも言える」
「そこは人それぞれだし、何とも言えんな。まあ悪く思わない技も使ったし、おそらくおかしな事にはなっていないだろう。他人がとやかく言っても仕方ないからな。それより、昨夜は2人を寝かせてから刺客が来たぞ」
「なに? そんなに夜遅くに来たのか? 寝静まった後という事は本物の暗殺者が来たという事だろう。まあ、暗殺に本物も偽物も無いのだがな。暗殺をしに来たら暗殺者だ。成功するか失敗するかは別にして」
「確かにそうだが、俺を相手に暗殺は成功しないと思うがな。それより暗殺者を気絶させて吐かせた後、他の暗殺仲間も始末してゴルドーフとかいう伯爵の、おはよう。これで蓮もアリシアも起きたか。戻ってきてからだな、話の続きは」
そう言って紅茶を飲みながらゆっくりする。適当な雑談に切り替えて話していると、蓮もアリシアも戻ってきたので、最初からもう一度話し始める。しかし殆ど聞いていないアリシアは、顔を真っ赤にしながらチラチラ俺を見ては俯く。
流石に話はまともに聞いてもらわないと困るんだが……。そう思っていると、アリシアの頭をウェルが思いっきり叩く。それで正気に戻ったのか、いつものように文句を言い始めた。
「何をするんです!? 痛いじゃないですか!! 幾らウェルさんでも、いきなり叩いてくるなんて酷いでしょう! 私が何をしたっていうんですか!!」
「アルドの顔を見て昨夜を思い出したのだろうか、人の話を全く聞いておらんからだろうが。話ぐらいはきちんと聞け。素晴らしい体験だったのは分かるし、雌としての本懐を遂げたのはよく分かる。だが、今は話をしているのだ、聞くぐらいはせよ」
「あー……んー………ごめんなさい」
流石に分が悪いと悟ったらしい。周りから「何やってんだ、コイツ?」という目で見られていたら、流石に自分が浮ついていたと理解できたのだろう。俺はもう一度最初から話を始めていく。先ほどの場面まで話し終えると少し紅茶を飲み、続きを話す。
「ゴルドーフ伯爵の屋敷に侵入した後、夕方頃に来ていた執事を殺害して回収。その後は当主の部屋に行き【忘我】と【白痴】を使って聞き出し、当主と確認したら【昏睡】で深く眠らせた」
「それだけか? アルドの反撃と考えれば、非常に手ぬるいとしか言えんのだが……まだ、あるな。流石にそれでは報復になっていないし当然だ」
「その後は伯爵の部屋に死体をバラしながら撒き散らし、終わったら屋敷を出た。そして外から【発酵】を使い、当主の部屋の死体を腐らせてやった。今は死体が腐りきっていて、様々な病気の温床になっている筈だ」
「「「「うわぁ……」」」」
「ニャー……」 「………」
「という事で、寝室に死体をバラ撒いて腐らせるという、リズロッテの刑以上の刑に処してやった。おそらく様々な病気の温床の中で寝ているから、既に何がしかの病気に罹っていると思われる。凄まじい腐敗臭だろうし、その部屋は取り壊しじゃないかね?」
「そういえば聞こうと思ってたんですけど、そのリズロッテって誰ですか? 多分ですけど女性ですよね……?」
「リズロッテは前の星の傭兵国家の王女だよ。俺やジャンという弟子に暗殺者を嗾けてきたんでな、寝室に忍び込んで死体を放り込んでやったんだ。その後、一年くらいは城に引き篭もってたぞ。酷い目に遭ってたんで和解したというか、許したんだけどな」
「酷い目……ですか? 寝室に死体が放り込まれるって、十分酷い目ですけど?」
「そうじゃなくて、戦争の際に捨て駒にされたりとか色々な目に遭ったうえ、暗殺者を送るなどの短絡的な行動をとるのは、父親である王から呪われた装飾品を与えられていたからだったんだよ。呪いが解けた後の本人は、言っては悪いが普通の王女だった」
「王女に普通も何も無いと思うが、よく考えれば魔物を棍棒で殴り殺す王女も居るしな。普通の王女という言い方は、確かに大事かもしれん」
「別に私の事を出さなくても良かったですよね!? 何でわざわざ出すんですか!!」
「ああ、すまん。そういう意味では普通じゃないな。集中力を散らすような呪具を持たされていたんだが、それでも王女としての教養はあったんだ。そして呪具という枷が外れたら、非常に事務能力の高い王女になっていた。今も傭兵組合の総長と副長の下で働いてる筈だ」
「……王女が事務仕事な」
まあ、言いたい事は分かるが、誇れる能力があって良かったと思うぞ?。




