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俺達も脱出紋に乗って外へと出る。昨日に比べて少し早く、まだ夕方前という所だった。洞窟があったものの、一気に通過したのと最奥があっさり終わっているからだろう。そこまで長い時間が掛かった訳ではない。
子供達も近くで待っていたので、全員一緒にダンジョンの敷地を出て町へと戻る。皆と歩いていると、上空から突然火球が飛んで来た。俺は【念動】で横に逸らし、誰にも当たらない所に着弾させる。
ドラゴンのブレスにも色々あるが、この星のドラゴンは火球タイプらしい。対処しやすくて助かるが、急にブレスを吐いてくるとはなー。流石は野蛮なドラゴン。上空で旋回していたが、急に俺達の前に下りてきた。
俺は皆を下がらせ、素早くアイテムバッグから大太刀を取り出す。本当に作っておいて良かったと言うか、ギリギリのタイミングだったな。助かったのか、無くても殺せたのかはちょっと分からないが……。
目の前を塞いだドラゴンの大きさは胴体の横幅3メートル、長さが8メートル。尻尾だけで5メートルくらいか? 首の長さが3メートル程あり、太さは70センチ程だ。余裕でぶった斬れるな、矛でも何とかなったか。
「そこに居るのは同族殺しのハグレだな。人間種如きに紛れて暮らさねばならぬとは……ドラゴンの面汚しでしかあるまい。今すぐに我等ドラゴンの歴史から消してやろう」
「いきなり目の前に来て、いったい何を言ってるんだ? コイツは。挙句の果てにはブレスを吐いてくるとか……ドラゴンっていうのは、トカゲ並の知能しかないのか?」
「………」
突然目の前でブレスを吐いてきたが、再び【念動】を使い、今度は空に打ち上げる形で逸らす。火炎放射タイプだと厄介だったんだが、流石に生物が吐くブレスであのタイプは無いか。口の中が焼けるだろうしな。
「チッ! 何をしたのか分からんが、先程オレのブレスを逸らしたのも貴様か。まあいい、爪や牙で屠れば終わる話でしかない。所詮は脆い存在だ」
「まあ、お前らドラゴンよりは肉体は脆いがな。それよりもドラゴンの巣などで長老や年寄りから習わなかったか? むやみやたらに暴れるなとか、獣のような行為はするなと教えられたろう。それとも簡単に忘れるほど、お前の頭は悪いのか?」
「プッ……」
「貴様……!! 脆弱な人間種の分際で覚悟は出来ているのだろうな? 殺すのはハグレだけにしてやろうと思っていたが気が変わった。貴様も死ね!!」
「そもそもドラゴンの雄って強姦魔だろうが。お前もそうだろうし、唯の犯罪者が何を偉そうな事を言ってるんだ? 人間種を見下しているようだが、強姦犯罪者に見下されるいわれはないぞ?」
「死ねぇっ!!!!」
体を回転させて尻尾で攻撃しようとしてきたものの、俺は【瞬閃】を使ってこちらに来る前に根元から切り落とした。ドラゴンが尻尾を失った痛みで絶叫した瞬間、今度は身体強化で跳び、ドラゴンの右の翼を根元から切り落とす。
その後は素早くアイテムバッグに回収し、バックステップ3回で離れた。周りには遠巻きにしている野次馬も居たのだが、今は「シーン」としている。それにしても、超魔鉄で十分斬れる程度の鱗や皮でしかないな。
「ドラゴンと言っても高がこの程度か、下らん。あっさりと斬り飛ばせる程度のザコが何故調子に乗れるのか、俺には欠片も理解できないな。頭が悪い奴から死んでいくという言葉も知らんのか」
「ググググ………貴様!! こんな事をしてどうなるか分かっているのか!! オレが戻れば何十何百のドラゴンの群れに襲われるぞ! 貴様如きなどすぐに殺されて終わりだ!!」
「自分の力じゃ勝てないから必死に仲間頼みか? 無様で哀れなヤツだ。最初の尊大さはどこへ行った? 自分は強いと思い込んでいたら、大した事がないと分かって焦っているのか?」
「き、貴ッ様ーーっ!! 許さんぞ! 今すぐ殺してやる!!!」
と言いながら、やる事はブレスを吐くだけ。再び【念動】で逸らして終わりだ。わざわざ挑発してるんだが、どうも奥の手とか無さそうだし、これ以上引き伸ばしても仕方ないかね? ここに居られるのも邪魔だし、さっさと殺すか。
「何かドラゴン特有の奥の手とかあると思ったんだが、挑発しても無いとはな。在るならとっくに使っているだろうし、無いという事で決定していいだろう。さっさと殺すか、竜の神からも言われているし」
「は? 竜の神だと……?」
「<ドラゴンといえど、獣と同じ事しかせぬならば殺せ>。これが竜の神からの命だ。お前はいきなりブレスを吐くなどという野蛮な行為を行った。それがお前の死亡理由だ、じゃあな」
「まて! まっ」
俺は聞き届ける事も無くバカの首を斬り落とし、死体をアイテムバッグに収納した。ドラゴンに襲われた当初は緊張していたウェルだが、尻尾と翼を斬り落としてからは可哀想なものを見る目でドラゴンを見ていた。
気持ちは分からんでもないが、一歩間違えればウェルも同じ様に殺されていたんだがな。気をつけてほしいもんだ。俺はドラゴンの血が落ちている地面を【浄化】して綺麗にし、大太刀を仕舞ったら皆に声をかける。
「ドラゴンは殺したから、さっさと町に戻ろう。腹も減ってるし、夕日が出てきた。大きいとはいえ、空飛ぶトカゲが一匹死んだ程度でしかない。夕食より大事じゃないだろ?」
「う……ぬ。………はぁ、まあそうだな。色々と言いたい事が無い訳ではないが、愚かな者が自分よりも遥かに強い者を敵に回しただけか。アルドの言う通り、最初からブレスなど吐かねば殺されなかったものを」
「先ほどのドラゴンってお知り合いですか? 何だか知っているような感じがしたんですが……」
「私を遠目で見てすぐにハグレと理解していただろう? 先ほどのヤツは同じ群れのヤツだ。私が犯された事を知って、「一端の雌になれてよかったな」と昔言われた。それでも力は相手の方が強かったので、当時は言い返す事も出来なんだ」
「何ですか、ソレ!? 幾らなんでも酷すぎるでしょう!! ドラゴンの常識って非常識すぎます! 竜の神様が殺せって仰るのは最もですし、顔を顰められるのは当たり前でしょうに!!」
周りで成り行きを見守っていた狩人達も「うんうん」と頷いている。特に女狩人は強く頷いており、相当程度イメージは悪化しただろう。ここから噂として広がるかどうかは分からないが、それでもドラゴンに反省を促す第一歩になるかね?。
まあ今までの常識で凝り固まってる連中は変わらないだろうし、仇討ちだと言って攻めてくる奴は居るだろう。そういう奴はさっさと返り討ちにして殺してしまえばいい。そういえばドラゴンの素材……止めとこう。市場に流さない方が良い気がする。
俺達はそのままエレジ町へと戻り、食堂に行く。中銅貨7枚を支払い夕食を注文したら、席に座って適当な雑談をしつつ待つ。町に入って少しした辺りで、悪意を持ってこちらを見てくる奴がチラホラ出てきた。
子供達や2匹だけではなく、ウェルもアリシアも気付いている。ウェルはともかくアリシアが気付くとはな。一応成長しているらしい。
「一応って何ですか! 一応って! 私だってずっと同じじゃないんですよ、少しずつでも成長してるんです。昨日までの私とは違うんですから」
「で、本音は?」
「子供達の雰囲気が変わったので、もしかしたらと思い【気配察知】を使いました」
どうせそんな事だろうと思ったよ。今度からは自分の力で気付く努力をしような?。




