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ウェルに装備もさせたので、これからダンジョン攻略に戻ると思った時、忘れていたのを思い出して神血の樽を出す。ウェルにコップを出させて注ぎ、ここですぐに飲むように言う。ウェルは疑問を持ったものの、大人しく飲んだ。
「先ほどの真っ赤な飲み物はなんだ? 美味しい物では無かったが、わざわざ飲ませる以上は何かあるのだろう? 本当に美味しくなかったが」
「美味くないのは諦めてくれ。あれは神血。神の血と書いて神血と読む飲み物であり、飲むと全ての才能が開花する飲み物だ。才能が開花すると言っても、努力しなければ宝の持ち腐れだがな」
「………あ、ああ。努力な。……うん、努力は大事だと思うぞ、私も努力する事は大事だと思うのだが………。すまん、お前が嘘を言っているとは思わんが、本当だとすると全く理解できん」
「心配するな、そもそも神様が作った物で俺が作った物じゃない。俺は持たされてるだけだし、好きに使えという事だろうと思っている。だからウェルに飲ませた訳だしな。そもそも前の星で飲ませてきたにも関わらず、この星に来たら量が戻っていたぐらいだ」
「量が戻っている? ……それって神様が補充したって事ですか?」
「多分な。俺も何故かは分からんが、神薬や神血に神丹や神酒の量も元通りに戻っていた。一応言っておくが神酒を飲みたいとか言うなよ、俺は飲ませるぞ?」
「普通そこは飲ませんのではないのか? 何故飲ませるのだ、訳が分からん」
「神酒は飲むとすぐに寝てしまうんだが、代わりに寝ている間の回復力を数倍に引き上げてくれるんだ。ただし、寝ている間に神界、つまり神様の世界に意識だけが連れて行かれる事がある。そこで修行をさせられたりとか色々な。だから飲ませる」
「「………」」
「ゴホンッ! ……私は遠慮しておこう。神の酒ともなれば極上の味なのであろうが、神の世界に連れて行かれるなど恐すぎる。挙句、修行をさせられるとなれば、どんな事をさせられるか……」
「ちなみに神界だと死んでも蘇るから、殺されるのは日常茶飯事だぞ。「死なないように強くなれ」とか言われて、神様が半笑いで殺しにくるからな。凄まじい痛みで意識を失うと、気付いたら体を再生させられてて修行の続きをさせられるんだ」
「「………」」
「お前達さ、俺が生半可な修行で強くなったとでも思ってるのか? そんな修行をおそらく200年ぐらい続けての俺の強さだぞ? そこまでしなきゃ得られない強さなんだよ。まあ、だからこそ逆に安心なんだがな」
「ああ、お前のように神に殺されながらの修行をせねば、そこまで強くなれんという事か。確かに安心だな。そんな者はお前以外、絶対に居ない。それは断言出来る。そんな滅茶苦茶な存在が他に居てたまるか!」
「ウチの女性陣は現在神界で修行中だから、それが終われば9人増えるな。俺を合わせて10人か……滅茶苦茶な集団になりそうだなぁ……」
「お前、女が居たのか!! 聞いてないぞ!!」
「いや、ウェルには言ってないから。それより魔物が近付いて来てるんだから対処しろ。さっきも言ったが、ウチの女性陣は神界で修行中だ。そのうえ全員が不老長寿なんだよ。不老長寿という事は、神の加護があるという事だ」
「ぬんっ!! ……神の加護があって、私と同じように寿命がないのか……。しかし、何故神界とやらに行っておるのだ? 神々が連れて行ったのか?」
「そうだ。頭が潰れてるだけだから大丈夫だな、さっさと血抜きするか。それぞれの神様の加護を持つから、それぞれの神様の下で修行してるだろ。もしくはそれ以外の神様も稽古をつけているかもしれん」
俺は血抜きと【冷却】を行って、ウェルに獲物を返す。ウェルはアイテムバッグに獲物を入れつつ話を続ける。
「成る程、神々の下で修行をな。神の加護を持つと大変なのだろう、私は普通のドラゴンで良かった。神の加護なんて無い方が良いに決まっている。有れば絶対に碌な事にならん」
「神々は俺を通して見てたりするんで、もしかしたら竜神から加護が与えられているかもな。アリシアも猿神から加護が与えられているかもしれないぞ? どのみち神様からしたら不老長寿なんて増えても何の問題も無いらしいし」
「うぇっ!? 私が神様の加護をですか!? ……えーっと、私も寿命の無い不老長寿とやらになっているかもしれないと……。そんな簡単に増やしていいのでしょうか。駄目だと思うんですけど?」
「神様達にとったら問題ないらしいけどな? どうせ死ぬなら問題ないって聞いたし。神様的にアウトなのは不死なんだそうだ。逆に言うと、死が訪れるなら寿命が無くてもいいって事なんだろう」
「まあ、言われれば納得するな。殺しても死なぬとなれば大問題だ。それに比べれば寿命が無いなど特に問題もない。所詮、殺せば済むのだからな。不死となった者が暴れたり、それを止める事が出来ないのが困るのだろう」
「ま、そういう事。それは良いとしてだ、それなりには戦いに慣れてきたみたいだな。大刀は一撃が大きいだけに外すと隙が大きい。ただし、それを補って余りある威力が出せる。ウェルの性格的にも合っているようだな」
「うむ! これはなかなか面白い。敵の隙を上手く狙い、一撃必殺の如く振り下ろす! なかなか私に合った武器だと思うし、私の膂力に耐えられているからな。それだけで十分でもある」
「よく考えれば、ドラゴンの膂力に耐えられるって凄いですよね。振り下ろした際に「ドォン!」って音が鳴りますけど、それでも一撃で倒せるんですから羨ましい限りです」
「アリシアの場合は小回りの効く盾士といったところだからなあ。盾を扱って前線で敵を引きつける役だ。威力は二の次だから仕方ない。アレもコレもと手に入れようとしない方がいい。むしろ命を危険に晒す」
「メルも強かったし、アリシアも何れは強くなれるんじゃないの? 身体強化が下手だから強くなれないんだと思うよ?」
「まあ、事実だな。身体強化を上手く使える様になれば、飛躍的に強くなれる。とはいえ、それにも限度はあるが……それでも並みいる狩人がザコに思えるほど強くはなれるだろう。後はそれぞれの違いというところだ」
「それぞれの違い?」
「アリシアはタンク、つまり味方を守る守備担当だ。それとは別にウェルはアタッカー、つまり攻撃担当な訳だ。派手な威力に目を向けているが、根本的に役割が違うんだよ。そしてタンクが悪い所為で戦線が崩壊したりもする」
「盾の所為で戦線崩壊……? それってもしかして、物凄く責任が重いんじゃ……」
「そこまで重い訳じゃ無いさ、それぞれに役割があるってだけだ。誰が目立つとかはどうでもいいんだ、大事なのは役割を全うする事。それが一番大事な事であり、派手かどうかはどうでもいい。そこに目を奪われてる奴は大成しない」
「そういうものなんですね」
「そういうものなんだよ。さて、そろそろ戻ろうか。こうりゃ……」
俺の【探知】に反応があったので素早く走って取りに行く。まさかと思ったが、この反応はおそらく間違い無い筈……ほら、やっぱりだ。魔神が下ろしてくれたのか、それとも偶然なのかは分からないが、ありがたく頂いておこう。
俺は中型のアイテムバッグを3つ収納し、意気揚々と皆の下に戻る。皆からジト目を受けたが、アリシアに中型のアイテムバッグを渡し、代わりにアイテムポーチを受け取った。現在アリシアは詰め替えを行っている。
鼻歌を歌っているが、魔物が寄って来ているのに気付いてないのだろうか? 相変わらず脇が甘いなー。




