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「アリシアもそうだが、素人が振り回しても問題なく使えるのは棍棒や棒、そして槍となる。棍棒や棒に関しては殴りつければ良いだけで、非常に扱いやすい。槍に関しては、とりあえず突き刺せれば及第点だろう」
「槍はねー。石突をカチ上げたり、回転させたり、叩きつけたりと色々戦い方があるよ。だから棍棒よりは難しいし、色々覚えなきゃいけない事が多いかな?」
「それでも剣とかよりは楽ですけどね。剣は滑らせないと切れませんし、刀はもっとです。前にも言っていましたが、相手に対し刃を垂直に当てないと切れません。練習の必要な武器なんですよ」
「ふーむ。正直に言えば、殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたりすれば済んできたのでな、イマイチどうすればいいのか分からん。棍棒はアリシアが使っている物だろう? 流石に同じ物というのもな……」
「だったら棒か? 突く、薙ぐ、叩く。色々な使い方が出来るが……いや、杖にするか。それが一番良いだろう。どのみちドラゴンなんだし、アリシアと違って攻撃を受ける事は無い。ならば杖でいいな」
「私と違ってって何ですか? いえ、確かにドラゴンの方と同じではありませんけど……同じなんて無理ですけど! そんなの普通だと思います!」
「何を怒っているのか知らんが、アリシアは【暗視】の練習をしろ。それが出来るようにならないと先に進めないんだからな。アリシアが【暗視】を使えるようになるまで夜エリアから動けん」
「え!? 私の責任ですか!? ……うう、何か使える気がしないんですけど……」
「誰だって最初はそうだよ。そのうち使えるようになるから。何度も繰り返し練習するしかないよ。蓮だってそうやって使える様になったし。皆そうだよ?」
「はい、頑張ります」
俺は超魔鉄をアイテムバッグから取り出し、地面から乳首までの長さの杖を作る。いわゆる乳切木として作りウェルに渡す。ちなみに太さは直径4センチちょっとだ。ウェルに握らせて、ちょうどいい太さにした。
ウェルは適当に杖を振り回しているが、突く、薙ぐ、叩くを教えると理解したのか、上手く使い始めた。そこから足運びや体重移動、重心移動などを教えると躓いた。やはりドラゴンでも簡単には覚えられないようだ。
俺は何度も何度も教えていくが、ウェルは四苦八苦している。そもそもこういった修練をした事がないのだろう。何度も怒ったが、その度に何故こういう動きをするのかを教えてやると、納得して怒りが萎む。
「それにしても足を動かす事や腰を動かす事だげで、これほど大変だとは思わなんだ。今までの戦いが獣と同じと言われても文句が言えんほどだとは……。流石に人間種もここまではやっておらんのだろうがな」
「これは神様達から学んだ事だからな。大変なのは分かるが、一度覚えて身につけておけば後が楽なんだよ。適切な足運び、体重移動、重心移動で力を正しく攻撃につなげる。そうする事で威力や速度を最大にして伝える訳だ」
「体を動かす時に力は減じておる。相手を全力で殴っていても、本当は全力という威力は出ていなかったと。いや、全力には程遠かったとはな……。私がドラゴンであっても、これだけの技術を持つ相手では負けるのも道理か」
「えいっ! てぇっ! やーっ!!」
「はっ! ふっ! たーっ!!」
「あの子供達の方が私より遥かに上だな。まあ、長く練習してきておるのだし当然か。それにしても、この超魔鉄というのは面白いな。魔力を流していると、ここまで硬くなるとは……」
「ウェルはかなり物覚えが早いんだよな。流石はドラゴンなのか、それともウェルが物覚えが良いだけなのか……。とはいえ、それだと杖では勿体ない。さて……ここは大刀かな?」
俺はウェルから杖を渡してもらい、超魔鉄を取り出して大刀を作っていく。ドラゴンの膂力であれば十分に振り回せるので、残っている超魔鉄を使って大刀を作り上げた。かなりの得物になったが気にしなくていいだろう。
「ふむ。随分と重い物に替わったが……とはいえ振り回すのは可能だ。刃が付いているという事は、これは切る武器なのだろう? 扱いが難しいと言っていなかったか?」
「あー!! ズルいですよ! 私にはメイスを渡しておいて、ウェルさんには刃が付いた武器を渡してるじゃないですか!!」
「おっ、【暗視】が使える様になったか。怒りのあまり使える様になるのもどうかと思うが、大刀は重さで叩き切る武器だから違うぞ? 切る動作が必要な武器と、重さで振り下ろせばいい武器とは全然違う」
「でも、切る武器じゃないですか……」
「ならば、この武器を持ってみるがいい。ほれ」
「えっ? うぐっ!? お、重……これ何ですか、身体強化をしなきゃ持てないんですけど……」
「まあ、大刀だから重いのは当然だ。さっきも言ったが大刀は重さで叩き切る、正しくは重さと遠心力で叩きつけて押し切る武器だ。かつては騎馬兵の馬を切り殺す為に使われたと言われている。そういう武器なんだ」
「馬って……馬の太い首を切ったりする為って事ですか? うわぁ、こんな重さが必要な筈です。馬の首って凄く太いですけど、それを切り落とすって……」
「それもあるが、そもそもアリシアには盾を持たせるから大刀は無理だぞ? 片手で使える武器って言ったろ。ウェルはドラゴンだから動体視力や反射神経が良い。だからこそ盾を持たせなくても問題無い訳だ」
「うう……まあ、納得はしました。片手武器で重いのを持っていると振り回されますしね。それだと危険なんで、小回りの効く武器で簡単なのとなると……」
「メイスなんだよなー。振り回して叩きつけるだけでいいし、威力もそれに見合って高い。更に言えば、他の武器を使えるほどアリシアは器用じゃない。残念ながら事実だからどうにもならん」
「まあ、薄々は気付いていましたよ。私って不器用なんじゃないかなー、と。剣を使っている時も碌に刃が立てられず、剣で殴っている形にしかなっていませんでしたし……」
「まあ、私が貰ったコレも重さで切る武器だ。叩きつける物だからな、切る動作とやらは要らんのだろう」
「大刀でそれは難しいな。それよりも練習だ練習。ここに居る魔物は浅い層よりも強めだが、ウェルには丁度良いだろう。大刀を振り回して叩きつけるだけだからな。頑張れよ」
そう言って歩き出す。まさか怒りのあまり【暗視】が使えるようになるとは思わなかったが、御蔭で楽に攻略できそうだ。どのみち、このダンジョンの攻略は明日だから、今日はゆっくり遊んでいて構わない。
移動時間も多少とはいえ掛かったし、元々5日は居るつもりで宿の部屋を借りてるからな。実戦練習としても、ここのダンジョンに通う事になるだろう。アリシアが前衛の盾で、ウェルがアタッカーといったところか。
なかなか上手く配置できた感じだな。大刀を楽に振り回すアタッカーというのも凄いが、魔力を流して強化しての一撃だからか凄い事になっているなー。とはいえ、ドラゴンの膂力が強すぎるんで仕方がない。
正直に言えば、アレぐらいの武器じゃないと耐えられないとすら言える。必然と言ったところかね? 後は盗賊どもで余っている革を使い、ウェルの防具を作ろう。それを言ってウェルを止める。
ウェルを立たせて素早く作り、手渡して子供達とアリシアに着け方を教えさせる。俺はその間にどんどんと防具を作成していこう。
「防具というのも面倒な物なのだな。このブーツだけは着け心地が良くて助かるのと、この手袋? のような物ぐらいだな。後は窮屈に感じる」
「それは我慢してくれ。周りからバカが突っ掛かってくるのを防ぐ為の物だ」
見せる為の物だと諦めてくれ。代わりに中型のアイテムバッグを渡したろう。その所為でアリシアにアイテムポーチを渡す羽目になったんだからな。




