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まだ昼にもなっていない早い時間なので、町を出てダンジョンへと向かう。北西に行くとすぐにそれっぽい場所が見つかったので中に入り、順番を待って迷宮紋から中へと進入。
1層目は平原だった。特に可も無く不可も無くと言った感じで、ミニボーアが走っているのが見える。ウェルは周りをキョロキョロしているが、もしかしてダンジョンは初めてか?。
「ああ、わざわざこんな所に入ってまで魔物を狩る理由が分からなかったし、外で狩ればいいだろうとしか思わなんだ。そなた達が入るからついていきただけで、今も理解できん」
「まあ、言いたい事は分かるんだが……ダンジョンの魔物はどれだけ殺しても喰らっても問題無いからなー。幾らでも復活するし。それに希少な魔物が出てくるダンジョンもあるんだよ。金牙とか銀牙とか」
「希少じゃなくてもデスボーアとかヘビーブルとか出てくるよ。あとグレイトシープとかクレイジーバッファローとかも!」
「蓮の言っている魔物はどれもこれも強いですけど、代わりに肉がとても美味しい魔物です。ダンジョンだと絶滅した魔物ですら出てくる事がありますし、どれだけ獲っても絶滅する事は無いんですよ」
「……ほう、美味い肉をどれだけ獲っても絶滅しない……か。バカな祖先に教えてやりたいな。かつて美味い肉の魔物が居たらしいが、祖先が食い散らかして絶滅させた事が何度かあるらしい」
「何でしょうか、最強の生物って碌な事しませんね? 自分達が絶対に強くて寿命も無い……好き勝手して当たり前なんでしょうか? ドラゴンこそダンジョンで暴れるべきでしょうに」
「そんな事を阿呆な祖先に言ったところで聞きはせん。どうせ自分の強さを見せ付ける為に人前で暴れるに決まっておる。ドラゴンは強いからな、それだけで周りの種族がひれ伏すのだ。尊大になって当然とも言えるな。まあ、私も群れを追い出されたからこそ分かるのだが……」
「ドラゴンの群れで固まると、余計に凝り固まるんだろうな。自分達は最強で当たり前、他種族はひれ伏して当たり前と。そんな事が当たり前の中、俺は<竜の神>にブッ殺せと命じられた訳だが……」
それを言うと何とも言えない顔をしたウェル。自分ではないからいいが、自分も驕っていればブッ殺すリストに入っていたと思っているのだろう。当然その通りなんだが、いちいち口に出したりはしない。
どんどんと進んでいき、10層に到達すると草原に変わっていた。ガルドラン獣国のダンジョンもカーナント王国のダンジョンと同じく、10層毎に地形が変わるダンジョンのようだ。何処かに美味い肉の魔物が居てくれれば良いんだが。
それとここの草原は風が強いな? 何か「ビュービュー」風が吹いているんだけど、今まで色々なダンジョンに潜ってきたが初めてだぞ、こんなダンジョン。俺達は風が吹きすさぶ中を進んで行く。
平原の地形ではミニボーアやネイルラビット、ビッグラットなどが出てきていたが、草原ではタックルシープや、ウィンドゴートが出てきている。それなりに肉は美味しいだろうけど、面倒だからスルーしていこう。
可哀想なのはウィンドゴートか。こちらに【風弾】を撃ってきているが、地形の風の方が強くて流されてる。その所為でこちらに当たる事が無いんだ。懸命に無駄弾を撃っているのを見ると悲しくなってきた。そっとしておいてやろう。皆も頷いている。
どんどんと呪いの無い方へと進み、転移紋から次の層へと進む。あの風の強い地形に人が多かったなあ。風が強い反面、肉はそれなりの魔物だからかな? 良い値段で売れるのかもしれない。俺達にとったらどうでもいいが。
一気に走って行って20層。真っ暗な中でアリシアだけが焦っている。俺は一旦落ち着かせ、遠くの方に【光球】の魔法を使う。その結果、魔物が近付いてくるものの、上から槍鳥が降ってくる事は無かった。調べてみると鳥系の魔物が居ないようだ。
「やれやれ、ここには槍鳥は居ないらしい。夜の地形となれば、アレを警戒するのは当たり前だからなあ。不用意に明かりを点けると殺される」
「「!?」」
アリシアとウェルは知らなかったのだろう、蓮とイデアが槍鳥の恐ろしさを解説している。子供達の説明で理解できたのだろう、青い顔をしながら上空を見ている。なので、この層には鳥系の魔物が居ない事を説明すると安堵していた。
「ここで食事をしたいが、アリシアは【暗視】が使えないんだよなー。ウェルは竜眼で見えているらしいからどうでもいいとして、アリシアは料理中に練習しておいてくれ。昼食は簡単な物で済ませよう」
そう言って蓮に麦飯を炊かせ、イデアにスープを作らせていく。俺はスマッシュボーアの肉で角煮を作り、かす肉と野菜を炒める。味付けは魚醤に酢と脂を少々混ぜた物だ。これで十分に美味い野菜炒めになる。
蓮には土鍋で麦飯を炊いて貰っているが、今回はウェルも加わっているのでパンパンだ。3つある土鍋の内、2つを1つにした方がいいだろうか? 大きさが足りないし、蓮は2つの土鍋で同時に麦飯を炊くのはまだ無理だろう。
料理前にテーブルと椅子を作っているが、その椅子に座ってアリシアが「うんうん」唸っている。上手く【暗視】が使えないらしい。魔力や闘気を使った身体強化は出来る様になったが、【暗視】などはまだ教えてなかったからな。
1つずつ練習して出来るようになるのであって、何かが出来るようになったから他も全部出来る……とはならない。そんな事は現実的に殆ど無いので、今アリシアも必死に練習している。ま、頑張れよ。
料理が出来たので配膳し、見えないアリシアの為に【光球】を使う。魔物が近付いてきたら殺せばいい。それじゃあ、いただきます。
「お米が美味しい! やっぱりご飯なの、ご飯を食べなきゃだめ! 美味しくないパンとか誰も得をしないのに、毎日食べなきゃいけないんだから嫌になるよ」
「まあ、蓮の気持ちもよく分かるけどね。なかなかタイミングが合わなかったから仕方ないよ。特に王都の外に出て料理をする訳にもいかないし、してたら変人みたいに見られるし」
「それに美味しい匂いを振り撒いていたら、バカが寄ってきて「よこせ」とか言ってくるだろうしな。バカなんて何処にでも湧いてくるんだから、気をつけるに越した事は無い」
「むー……」
「まあまあ。私も納得出来ませんでしたけど、今は美味しい料理を食べられてるんですから良いじゃないですか。それに、この食事の邪魔をされたら業腹でしょう? ゆっくり食べられる所の方が良いですよ」
「本当に美味しいな。何がどうなのか分からんが、唯々美味しい。素晴らしいが、コレを知ると店の食べ物が不味く感じてしまうぞ? それはそれで嫌がらせのように感じぬ訳でもない」
「そう言われてもな。俺達は不味い物を食べたくないし、美味しい物があるなら美味しい物を食いたいだろう? この星ではどんな生物も微量の呪いで汚染されている。それどころか水もだ。だからこそ料理が美味しくならない」
「水……か。そういえば、そなたが出していた水は神水というのだったな。常に浄化し続けるという信じられん水だが、それを使うから美味しいのか……。成る程な、そなたらにしか作れぬ料理だった訳だ」
「美味しい料理の時に言うのもアレなんですけど、ウェルの武器はどうするんですか? 狩人でドラゴンだと言ったところで、武器も防具も持ってないから変な目で見られてましたよ」
「悪い事を考えてる奴等も居たよ。ウェルの方をジッとそういう目で見てた。悪い気配も漏れてたから、何かする気だったんだと思う。大勢で居るから手出ししなかったのかな?」
「……この子達はとんでもないな。分かっていたつもりだったが、つもりだけか。流石に悪意が来ていたのは私も理解しておる。とはいえ、武器など使った事もないのでな。何とも言えん」
こいつもアリシアと同じか。……さて、どうするかな?。




