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「とりあえず、子供達も居るんだし、阿呆みたいな事を言ってないでさっさと寝ろ。後、俺の体は特殊なんで気を使わなくていいぞ」
「うん? そなたの体が特殊? ……すまぬ、言っている事がよく分からん」
「簡単だ。俺が下界に降りる際に与えられたのは、神様が下界に降りる際に使う肉体なんだよ。それがこの肉体でな。単純に言うと、性欲を持とうとしなければ持てない仕組みになっている。つまり、何もしていないと何も感じないんだ。性欲が無い」
「「………」」
唖然とした顔をしているが、これは間違いなく神様が下界に降りる際の肉体だ。だからこそ自然というか、母親の胎内から生まれる肉体とは違う。根本的な違いが幾つかあるからなぁ。何をとは言わないが……。
「……まさか、神様が使う肉体だなんて初めて知りました。いえ、そもそも神様が下界に降臨される事があるんですね。そちらの方が驚きです。「実はドラゴンでした」と言われても驚くのに、「実は神様でした」何て事があるなんて……」
「私もそうだ。永の時を生きてきたが、神が実際に降臨あそばされるなど聞いた事が無い。少なくとも私が生まれてからは多分無い筈だ。長老などが若かりし頃の神代の話かもしれん。それならば分からなくもない」
「神様が何時この星に来たとかはどうでもいい。子供達も舟を漕いでいるし、そろそろ寝るぞ。静かにな」
俺は自分で布団に寝転がったものの、ズレている子供達をちゃんと寝かせていく。位置を修正し終わると2匹が左右に寝たので、俺もベッドへと行って【光球】を消す。既にアリシアはベッドに居たし、ドラゴンの女性は暗闇でも見えるようだ。
「そろそろドラゴンとか、ドラゴンの女性と呼ぶのは止めてくれ。私の名前はウェルディランカだ。ちゃんと名前で呼んでくれないか?」
「分かった、ウェル。それよりも、もう寝るんだから静かになー。それじゃ、おやすみ」
「あ、ああ。……おやすみなさい」
どうやら寝る前の挨拶ですら新鮮だったらしい。どれだけボッチを拗らせてきたのか知らないが、面倒を起こさなきゃいいんだが……、まあ、心配なんてせずにさっさと寝よう。
<呪いの星27日目>
おはようございます。今日は王都から更に西へと行くか、それとも情報を集めてから行くかです。とはいえドラゴン、じゃなかったウェルに聞けば分かるだろう。次は帝国に向かっての移動だが、途中に何かあるかな?。
朝の日課を終えて、紅茶を淹れて飲みつつゆっくりとしていると、イデアが起きてトイレに行った。それを見送った直後ダリアが起きて歩いてくる。水皿に神水を入れてやると、少し飲んだ後に胡坐の中にモゾモゾ入り込んできた。寝足りないのかな?。
そのままダリアは放っておき、イデアが戻ってきたらウェルが起きた。すぐに大きな声で話そうとしたので、まだ寝ている人が居るから静かにするように言う。朝の挨拶をした後で部屋を出たのでトイレに行ったらしい。
どうやら生態として人間種と大して変わらないようだ。呪いで猿に変われるアリシアのように、ドラゴンに変われると思えばそこまでおかしい事ではないのかね? ま、この星の事は少しずつ学んでいくしかないな。
そんな事を考えていると戻ってきたが、部屋に戻って自分の鞄を取ってきたようだ。鞄を放ったらかしって大丈夫なのかよ?。
「問題ない。私はそこまで金を持っていないし、ここに入っているのは多少の金と着替えくらいだ。それ以外は雑貨だな。紅茶を飲んでいるようなので飲ませてもらおうと思い、部屋に置きっぱなしなのを思い出した」
「自分の荷物ぐらいちゃんと管理してくれ。ま、紅茶は好きにすればいい。そこにハチミツもあるし、こっちに黒砂糖もある。好きなものを入れて飲むといい。折角だからスプーンも作っておくか」
俺は余っていた銀を使い、銀製のスプーンを作って渡す。俺の【錬成術】を見たからだろう、目が点になっているウェル。俺達は気にせずゆっくりとするのだった。
正気に戻ったウェルは作ったスプーンを使ってハチミツを入れていた。何故か溶けきるまでしっかり混ぜてから飲んでおり、それを見ていたイデアは「うんうん」と納得していた。豪快に見えて割としっかりしているようだ。
その後は蓮が起きた後にアリシアが起き、最後にフヨウが起きて転がってきた。フヨウはダリアが残していた神水を「ズゾッ」と吸い上げてすぐに首に巻きつく。それを見ていたウェルはギョッとしたようだ。
「一応聞いておくんだが、何故フヨウが首に巻きついたらギョッとしたんだ? 特になんて事はない事だと思うが……」
「色からすればホワイトスライムであろう? そもそもスライムが共に居る事そのものが不思議でしょうがないが、スライムが懐くという信じられない事を目撃したのでな。普通は溶かして喰われるぞ?」
「……んー、この星のスライムは襲ってくる系なのかぁ。まあ、元々そうだと言われれば分からなくもないが、凶暴なんだなー。前の星のスライムは基本的に臆病だ。溶かして喰うのに取り込まなきゃいけないが、その瞬間がもっとも無防備だからな」
「そうなのか……。この星? のスライムは粘液を出して溶かしてくるから、遠距離攻撃でないと倒せん。石を投げるか、矢を射るか、それとも魔法で倒すのが基本だ。まあ、そもそも会う事自体が滅多にないのだがな」
「スライムですか、確かに聞いた事がないですね。町とか村には入ってこないって聞きますし、何かしらの基準があるんでしょうか? 何でも溶かせるなら何処にでも入ってくるって思って、昔聞いた事があるんですよ」
「ふむ。疑問になど思った事がなかったが、そういえばそうだな? スライムが村や町に入ってきて人を襲えば食事が出来るというのに、何故スライムはそれをせんのであろう? ……違う星のスライムでは分からんか」
「それ以前にスライムに聞いてもしょうがないでしょう。自我があるかも、考える事が出来るかも分からないんですから」
「フヨウはリバーシとか普通に出来るよ? トランプでも遊べるし、普通に賢いけど……2人だと遊んだら負けちゃうかもね」
蓮の一言でフヨウをジッと見る2人。その視線をスルーするフヨウ。ダリアほどじゃないが、フヨウとも長いからなぁ。こんなもんじゃ動じる事もないし、何より竜も喰ってきているから強いんだよ。細胞が頑強だし。
おそらくだけど、この星のスライムは粘液を滲み出して溶かし、ある程度ドロドロにしてから取り込んで更に溶かすんだろう。それなら好戦的なのは分かる。前の星のスライムは完全に死肉食だからな。動かないやつしか食べない。
そんな事を話しつつ、全員起きたので片付けていく。【浄化】の権能で綺麗にしているので埃が立つ事もない。さっさと片付けて、皆が飲み終わったら部屋を出て酒場へと行く。中銅貨7枚を支払い朝食を注文すると席に座る。
雑談しつつ運ばれてきた料理を食べ、食事を終えるとそのまま王都を出る。ウェルは狩人の登録証を持っていたので、いちいち登録しに行かずとも済んだ。それとこの辺りの地理は分かるらしい。なので情報収集はせずに出発する。
俺達は走りながら進んで行くが、ウェルは身体強化を知らなかった。ドラゴンの素の能力が高いからこそ、その素の能力から鍛える事もしないようだ。身体強化を教えると驚いている。
その身体強化を練習させつつ、隣のエレジ町へと到着した。俺達は町に入ると町の人に聞き、宿へと向かう。大通りの宿だったが気にせず行き、3人部屋を5日で中銅貨20枚、つまり小銀貨1枚を渡してとった。
何故かと言うと、この町の北西にダンジョンがあるんだと。隣の町に移動しただけで、移動は終了です。




