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運ばれてきた料理を食べていると、隣の席にドラゴンの女性が座った。その女性はこちらを睨みつつ朝食を注文している。蓮にイデア、ダリアとフヨウは無視して食事を続け、アリシアだけが「どうするんです?」という顔で見てくる。
ちなみに俺はガン無視していたのだが、アリシアが鬱陶しいので仕方なくドラゴンの方を向く。こちらを睨んできているが、興味も無いので食事に集中する。それが癪に触ったのか、更に怒りを増大させたが知った事では無い。
食事後、酒場を出ると後ろから声を掛けてきた。別にこちらは興味が無いのに、何故いちいち声を掛けてくるんだよ?。
「おい、待て! 何故お前は私を無視する!! それよりも昨日お前は私に何をした! 私に勝ったのはお前だ、それは認めよう! だがな、お前にカラダを許した覚えはない!!」
「お前は天下の往来でいったい何を言っているんだ? 昨夜はお前が泊まっている部屋に放り込んだ後、俺は皆が居る部屋に戻った。それは宿の従業員の女の子が知っている。実際にその時居たんだからな」
「なに? そんな事、一言も聞いてないぞ! 本当だろうな?」
「そう思うなら聞いて来いよ。俺達は今日、王都をウロウロ見回るだけの休日だ。どこかに行ったりはしないから、宿の女の子に聞いてこい」
そう言って俺は皆と共に歩いて行く。ドラゴンもそれ以上は何も言わず、宿の方へと行ったようだ。本当に面倒臭い生き物だなー、ドラゴンっていうのは。最強の存在だとアリシアは言うが、俺からすれば最高に面倒臭いだ。
「……一応聞いておくんですが、あの女性に何かした訳ではありませんよね?」
「する訳ないだろう。さっきも言ったが俺は宿に連れ帰ったんだよ。理由は、あのままスラムに置いておくと犯されかねなかったからだ。で宿に連れて帰ると、女の子がウチのお客だって言うんで、部屋まで運んで放り込んでおいた。そして宿の女の子はそれを見届けてる」
「で、その後に部屋に戻ってきたと。まあ、あの女性も起きたら宿の部屋に居る訳ですし、昨夜はアルドさんに負けてるんですよね? そんな話をしてましたから」
「そうだな。酒場で喧嘩を売ってきたバカにトラウマを刻み込み、更にバカが呼んだ仲間にもトラウマを刻み込んだ後で襲ってきたんだよ。そもそも何故俺を襲ってきたかは知らん。俺としては最初、バカの仲間かと思ったぐらいだ」
「酒場で歌ってた人なのに?」
「むしろ、だから連中の仲間かと思ったな。酒場も宿もスラムに近い。スラムの仲間かと疑うのはむしろ普通だろ。これが大通りの店だと疑わないがな。あそこはスラムの真横だからな」
「まあ、そうですね。それよりドラゴンだと聞いてましたけど、完全に普通の女性でしたね? ドラゴンらしさは欠片もありませんでした。あれならドラゴンと知らない限り分かりませんね」
「本当にね。アルドが聞いたから分かるけど、見ただけだと普通の人間種にしか見えなかった!」
その後はドラゴンの話は忘れ、皆と一緒に王都を見回る。紅茶の茶葉を大銀貨1枚分買い、黒砂糖があったので小金貨1枚分購入した。どうも白砂糖は存在しないらしく、白砂糖の事を聞くと変な顔をされてしまった。
まだ白砂糖を作るだけの技術や器具が無いらしい。諦めて綿布を大銀貨1枚分新たに確保し、俺の買い物が終了した。子供達やアリシアもちょこちょこした物を購入しつつ見て回り、食料店があったので食材を確保する。
米を中銀貨1枚分、小麦と大麦も中銀貨1枚分ずつ購入。最後に野菜を中銀貨1枚分購入したら終わり。食料店の主人もビックリしていたが、それでも大量購入に喜んでいた。俺達は食材を冷やしたり冷凍するので問題無い。
その後も見回っていたが、早々に見るところが無くなったのと昼になったので朝食を食べた酒場に戻る。中に入ると客が一斉にビクッとしたが、気にせず中に入った。マスターに中銅貨を6枚払うのだが、カタカタ震えてるな。
俺は無視して金を払うと、席に座って雑談をしながら待つ。すると、再びドラゴンの女性が入ってきて隣のテーブルに座った。こっちを睨んでくるのかと思ったらそうではなかった。それはいいのだが、酒場の雰囲気が変わったぞ?。
周りの連中が安堵しているのが分かる。となると……ここの連中は彼女がドラゴンだと知っている? それで俺が居ても安心した? ……まあ、何でもいいか。いちいち怯えられても面倒臭いし。
「朝はすまなかった! 昨夜そなたに負けて気絶させられたからな、負けた女が凌辱される事は良くある事なのだ。まさか、そんな事もせず私を部屋に運んでくれるとは思わなかった。申し訳ない!」
「謝罪は受け取るが、負けた女性が凌辱されるのが普通というのはおかしくないか? どこの崩壊した世界だよ、意味が分からん。普通に国家があり人間種が生きているなら、強姦は犯罪だろうに」
「そうではない、我々ドラゴンの間の事だ。我々は幾らでも生きられる。もちろん殺されれば死ぬが、寿命などというものは存在せん。だからなのか、ドラゴンの雄どもは好き勝手に犯して種付けしようとするのだ。力で無理矢理な」
「なんだそりゃ、原始人かよ。ウホウホ言ってた人間種の祖先じゃないんだからさ、女性を犯すのが普通って頭がおかしいぞ。だが……なんで俺がそういう事をすると思ったんだ? 俺は昨夜、人間だと言ったろう」
「普通は人間だと言われて納得なぞせん。そもそもドラゴンに勝てる人間が居る時点でおかしいのだ。そなたが真に人間だというなら、歴史上初めてドラゴンに勝った人間だぞ。それも素手でだ!」
「知らんよ、そんな事。悪いんだが、お前さんが弱いだけだろう。そもそも俺より強い方というか、俺が絶対に勝てない方々も居るんだぞ? その方々が俺に修行をつけた方々だ。最初から勝てる気はしないし、勝てるとも思って無いけどな」
「神様だもん、勝てる訳ないよ。ドラゴンの強さがどれくらいか知らないけど、神様相手だと纏めて殺されちゃうね」
「あの方々は絶対に敵にしちゃ駄目な方々だからね。この星の人達はどうでもいいんだろうけど、ボク達は不老長寿や始祖だから神罰受けちゃうし。気をつけないと恐いよね」
「ニャー」 「………」
「かみ?」
ドラゴンの女性が「何言ってんだ、コイツ?」という顔で見てくるが、正直に言ってどうでもいい。理解されようとも思わないし、理解してほしいとも思っていない。それよりも昼食は終わったし、宿に戻るか。
そう言って部屋に戻るのだが、何故かドラゴンの女性がついてくる。同じ宿だから分からなくもないが……そう思ってたら部屋までついてきたぞ? どういう事だよ?。
「すまん。実は折り入って頼みがある。竜の神に御会いする事は出来るか? 出来るならお願いしたい」
「は? ……いや、俺に加護をくれたのは浄神でな。りゅ……」
『アルド、聞こえますね? 竜の神からの伝言を伝えます。<ドラゴンとて獣と同じ事しかせぬならば殺せ>。以上です。貴方が殺しても、ドラゴンが殺しても構わないそうですよ。ドラゴンの恥を雪いでくれとの事です』
また一方的に伝言が来たなー。まあ、神様的にも遊びでブレスを吐くようなクズは殺せって事なのかね? それとも女性を犯すようなゴミは殺せって事かな? いや、どっちもか。
「念神から竜の神の伝言が来た。<ドラゴンとて獣と同じ事しかせぬならば殺せ>だそうだ。俺が殺しても、ドラゴンが殺しても良いらしい。何故かドラゴンの恥を雪いでくれって頼まれたが……」
そう話すと、子供達とアリシアから同情的な視線が飛んできた。
まあ、うん。神様からの命だ、聞くしかないんだよ。悲しい事にね。




