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「は? と言われても困るんだが、本人に【白痴】を使ったらそう言ったんだから間違い無い。だからあの女性はドラゴンだ。そもそも人間種を逸脱したスピードや反応速度に動体視力をしていたしな」
「いえ、よく分かりませんけど。ですが、人間種よりも遥かに高い能力をしていたって事ですね。それに何でも喋る技を使われてドラゴンと名乗ったのならそうなんでしょう。………ドラゴンが酒場の歌手ですか」
「ドラゴンって、あの空飛ぶトカゲですよね? あれが女性で人間種の姿ですか………。訳が分からないんですが、滅茶苦茶な気がします。何と言うか、意味が分からなさ過ぎて何と言っていいか……」
「イデアの言いたい事もよく分かる。俺も訳が分からんからな。とはいえ、そういうものだと思うしかない。考えても分からんものは、どれだけ考えても分からんものだ。そもそも大猿だったアリシアが人間の姿に戻ったのも分からんしな」
「おっきなお猿さんだったのに、人間の姿に戻ったもんね。元々人間だったから、大きなお猿さんになってるし、アルドが【浄化】したら人間に戻ったし。どうやって大きくなったり、小さくなったりしてるんだろうね?」
「いや、どうやってって言われても………そんなの私にも分かりませんよ。確かに大猿の時には大きかったですけど、どうやってあんなに大きくなったと聞かれても……ね?」
「まあ、分からんわな。本人にも分からないだろうし、他人にも分からないだろう。それを解き明かして誰か得するのか? とも思うし、正直に言ってどうでもいいんだよな。そこは」
「そこは、ですか……。じゃあ、何処か他に知りたい所があるって事になりますけど?」
「ああ、そうじゃない。そういう所はどうでもいいんで、解き明かす気は無いからスルーするって事さ。俺が気にするのはドラゴンが敵かどうかとか、そういう部分だよ。生態はどうでもいいって事さ」
「そういう事ですか。敵……になるんですかね? そういえば人間種を逸脱したスピードって言ってましたけど、もしかして戦ったんですか? もしそうなら、よく勝てましたね? ドラゴンって最強と言われてますよ」
「ドラゴンが最強かはどうでもいい。そもそも最強かどうかなんて、戦場とか戦いの方法とかで幾らでも変わる。それよりも、カーナント王国とガルドラン獣国では、随分ドラゴンに差が有る。向こうではブレスを吐いて人間種を混乱させたりしているからな」
「確かに祖国の東ではドラゴンが飛んでくると聞いた事がありますが、それにしても改めて考えると変ですね? 何でブレスを吐かれるんでしょう?」
「さあ。あそこであったガキは面白半分でブレスを吐いたりしてくると言ってたが……何か理由があったと考えた方がいいかもしれん。ドラゴンの女性は普通に話せたし、理性があった。いや、理性というよりは、普通の人間種と変わらなかったか」
「普通の人間種と同じように考えられるドラゴンが、人間種を脅して遊んでるっていうのも変ですね? やっている事が魔物と変わりませんし………」
「まあな。それ、おっと。子供達が舟を漕いでる。寝かせないとな」
俺は布団の上のリバーシを片付けたら、子供達を寝かせていく。その左右に2匹を寝かせ、終わったらベッドに寝転がった。アリシアもベッドに寝たみたいなので、部屋と体を綺麗にしたら、おやすみなさい。
<呪いの星26日目>
おはようございます。今日はゆっくり王都観光をします。まあ、見るものがあるかどうかは知らないが、それよりも朝の日課を終わらせよう。一応確認をして昨日のドラゴンを調べるんだが、どうやらまだ眠っているようだ。
朝の日課を終わらせた俺は、紅茶を淹れて飲みつつ、買うべき物を頭の中で考えていく。紅茶の買い足しと砂糖と、後は……うん? アリシアが起きたか。それはいいが、相変わらず頭がボケてるな。寝癖は問題ないが。
またボケたままトイレに行ったが良いのかね? ………戻ってきたが、頭がボケたまま紅茶を入れ始めた。危なっかしい手つきで入れるなあ、溢したりしなきゃいいが。そうやって案じている時は大丈夫だったりするんだよな。
そのまま頭がボケたアリシアはコップの縁に口をつけ………突然大きなプレッシャーが宿の中から溢れてきた。アリシアはビックリして体が反応したが、コップに入れた紅茶を少し零したのか「アチチチ」と言っている。
俺はプレッシャーのあった部屋を探ったが、すぐにドラゴンの部屋だと分かり確認する。すると怒り顔で周囲をキョロキョロしているのが分かった。どうやら【気配察知】に似た技、もしくはそういう技が仮に使えても個人の特定は出来ないらしい。
キョロキョロしているだけで、俺が何処に居るのかまでは分かっていないようだ。ならば放っておこう。そう暢気に考えていると、アリシアがキョロキョロし始めたので、俺はドラゴンの女性がプレッシャーを放ったんだと教えてやる。
「えっ!? ドラゴンの女性って、この宿に泊まってるんですか? 聞いてませんよ、そんな事! 何で重要な事を教えてくれないんですか!?」
「いや、そんな重要な事か? 正直に言ってドラゴンが人間種と同じ姿になって、宿に泊まってるだけだろうに……。しかも昨日言ったように理性があるんだから、尚の事、問題は無いだろう」
「そうですけど、心構えが違いますよ。あんなプレッシャーが来るって分かってたら、対処も出来たかもしれないじゃないですか。紅茶が零れて熱かったんですよ」
「いや、知らないし、そもそもビックリして零したのはアリシアの所為だろう? 寝起きで頭がボケてたんだから、知ってても零していると思うぞ?」
「………」
紅茶が掛かるまで寝起きでボケていたという事を思い出したようだ。納得は出来たが、頭がボケていた事を指摘されたからか、何とも言えない顔をした後に紅茶を飲み始める。
ドラゴンの女性もキョロキョロするのを止めたようだが、宿の女性がノックしてプレッシャーの事を聞きにいったらしい。ドラゴンの女性が慌てて弁解しているようだが……ゲッ!? 何かこっちを睨み始めたぞ。
もしかして宿の女性が俺の事をバラしたんじゃないだろうな。面倒な事になっても困るし、そもそも昨日は向こうから喧嘩を売ってきたんだぞ。俺じゃないんだから怒るなよ。
そんな事を考えていたら子供達が起きたので見送る。アリシアと俺は無言で過ごしていたが、ドラゴンの女性がどう出てくるか分からないので、そっちに集中するしかない。
そうしていると子供達が戻ってきて紅茶を入れて飲み始めた。相変わらず蓮は数度かき回したらすぐに飲み始め、イデアは溶けきるまでスプーンでかき回してる。まあ、好きなタイミングで飲みなさい。
ゆっくりとしていると、2匹も起きてきた。いつも通り水皿に神水を入れてやり、俺は布団などを片付けていく。全て片付けて綺麗にしたら、皆が飲み終わるのを待って部屋を出た。
宿の女性に中銅貨4枚を支払って部屋を更新し、俺達は外に出て昨日の酒場へと行く。アリシアも子供達も「行くの?」って顔をしているが、問題を起こしたのは俺じゃないんだ。絡んできた馬鹿が悪い。
中に入り、中銅貨6枚を渡して朝食を注文する。昨日のマスターとは違うので気にせず注文できたし、向こうも気付いていなかった。ちなみにここへ来た理由は、綺麗に【浄化】する為でもある。
俺の所為と言えなくもないので、業腹だが綺麗にしておく事にしたのだ。漏らしたのは俺じゃないけどな。




