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俺はクソの首根っこを持ったままスラムへと行く。そのまま人の気配の少ない方へと連れて行き、放り捨てた。すると、咳き込みながらも余裕が出てきたようだ。おそらくコイツはスラムの奴なんだろう。
「ゴホッ、ゴホッ………ペッ! ふー、オレをこんな所にまで連れてくるとは、てめぇは最後の最後に間違えたようだな。ここはオレ様の庭だぞ? いつでも仲間を呼べるんだよ!」
「なら、早く呼べ。まとめて皆殺しにしてやるから、さっさと呼べ。お前ら蛆虫如きが、どれだけ徒党を組もうとゴミでしかない事を教えてやる。ほら、さっさと呼べ」
「チッ! 調子に乗りやがって。おい! 誰かいねーか!! 出て来いよ! 誰か居るだろ!!」
そうやって叫ぶとゾロゾロとスラムの住民が出てきた。ナイフを持ったりしているチンピラが10人ほど現れ、数が増えたからかバカは調子に乗り始めたのか得意気な顔をしている。
面倒な俺は【幻死】を使い一気に気絶させた。今回はクソを巻き込まずに、新しく現れた連中にだけピンポイントで喰らわせている。そうしないとトラウマを植えつけられて、必死に強がっているバカは発狂死しかねないからだ。
上からも下からも漏らして気絶した連中を、更なる威圧で無理矢理に起こし、絶対の恐怖を与えてやる。クソもようやく仲間が何を喰らったか理解したんだろう。それだけで無様にも漏らしている。
「おい、どうした。仲間がやってきたから俺に反撃するんだろ? ほら、早くやれよ。俺を殺すんだろ? 早くやれ!」
「あ、う……ぐ、く、くそ。……くそう!」
腰を抜かしていたクソは立ち上がり、こちらに向かって来ようとしたが、少しの威圧をしてやるとクソを漏らしやがった。……汚いなー、反射で漏らすようになってやがる。こいつはもう終わりだな。少し威圧されただけで漏らすようになりやがった。
そんな奴がスラムの中で偉そうに出来る筈もない。ついでに他の連中にもトラウマを刷り込んでおくか。俺は【幻死】を強めてクソ以外の全員にも十分なトラウマを刷り込んでおく。これでクソと同じく、クソ漏らしになったろう。そろそろ戻るか。
そう思い、最後に全員に威圧を行うと、気絶しながら全てブチ撒けた。どうやらクソはもう出る物も無く気絶したみたいだが、他の連中は派手にブチ撒けたなー。スラムでこれじゃあ、もう終わりだろう。後はクソ野郎として生きていくしかないな。
そう思い踵を返すと、酒場で歌を歌っていた女性が居た。何でこんな所に居るのか疑問に思った直後、右手で殴りかかってくる。驚くほどに早い攻撃だが、捌けない程じゃない。人間種に比べれば速いのでビックリしただけだ。
俺は相手のフックに対し手を添えて、更に内側に持っていくように流して捌く。当然相手は崩されてたたらを踏むので、腹に膝蹴りをお見舞いして離れる。いったい何故この女性が俺を襲ってくるんだ? もしかして、スラムのボスか何かか?。
そんな事を考えていると更なる攻撃を仕掛けてきた。今度は走りこんできてのパンチに見せかけた、右の蹴りだ。回し蹴りのような蹴りではあるものの、素人の蹴りでしかない。体重も上手く乗ってないし、体も上手く使えていない。
総じて言えば、身体能力だけ高い戦いの素人。そういう相手だ。しかし酒場の歌手の能力ではない。若干嫌な予感がしないでもないが、何となくの予想はある。相手の蹴りをスカしてから踏み込み、顎を掌底でカチ上げる。それだけで相手はフラついた。
そこまで力は入れてないが、顎への攻撃に強い力は必要ない。それよりも、頭がフラつくのか止まったな。いったいコイツが何なのかは聞いておく必要がある。【白痴】を使って聞き出すか。
「お前はいったい何者だ? 普通の人間種ではないだろう。明らかに力の強さや速さに関して、普通の人間種を逸脱している。ある程度の予想はついているが、答えてもらおうか?」
「わたしはドラゴンのウェルディランカ。適当に人間種の国で生きているだけだが、お前こそ何者だ? 最初は私と同じドラゴンかと思ったがそうではない。だが、お前の実力は明らかに人間種を逸脱し過ぎている」
「俺は人間だよ。ただし不老長寿といって寿命の無い人間となる。……驚き過ぎて目が点になっているぞ、ドラゴン。俺は人間だ、ただし不老長寿という”神の加護”を持つ人間だよ」
俺は驚くドラゴンに近付き、左手でフックを打つように見せかける。ドラゴンは動体視力が良いのかあっさりと引っ掛かったので引き、本命の右の掌底打を顎に喰らわせる。水平に受けたドラゴンをたたらを踏んだが、俺は気にせず左の掌底で顎を打つ。
2度3度と繰り返すと、ドラゴンは膝から崩れ落ちて失神。俺の勝利となったんだが、ここに放置しても困るな。周りから妙な連中が集まり始めた。俺はドラゴンの女性以外に【幻死】を喰らわせ、上下から漏らして気絶させると、ドラゴンの女性を担いで離脱する。
流石にこんな所に置いておくと強姦されるだけだ。唯でさえ治安の悪いスラムだからな。仕方なく肩に担いで連れた俺は、そのまま宿に戻る事にする。何故なら子供達もアリシアも既に宿の部屋に戻っていて、とっくに食事を終えているからだ。
俺は半分も食べてなかったんだがしょうがない。宿に戻ると紹介してくれた宿の女性にジト目で見られたが、気を失っている女性を見てビックリした。どうやらドラゴンだと知っているらしい。
色々質問されたが、いきなり喧嘩を売って来たので返り討ちにしたというと、変な顔をされた。俺が嘘を吐いたとでも思ったのだろうか? あのままスラムに置いておくと危険だから連れて来たと言うと、ドラゴンの女性はこの宿に泊まっていると教えてくれた。
なので泊まっている部屋に連れて行き、ベッドに寝かせたら部屋に戻る。まったく、余計な事になったぞ。全ては絡んできたクソの所為なんだが、本当にクソは碌な事をしないな。そう思いつつ、俺は部屋に戻る。
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「あっ、おかえりなさい」
「ニャー」 「………」
「ただいま」
フヨウが近付いてきてスルスルと俺の体を登り定位置で止まると力を抜いた。相変わらずだなと思いつつ、部屋を【浄化】してから布団を敷くと、子供達は布団の上にリバーシを運んで続ける。
その後、床に座って胡坐を掻くと、ダリアが入り込んできてペシペシ叩く。叩いてスッキリしたのか、すぐに丸まった。どうやら目を瞑って寝始めたようだ。本当に自由だなぁ。
「あの男をスラムに連れて行ったんでしょうが、大丈夫でしたか? スラムには仲間とかが居ると思うんですけど、そいつらに襲われませんでした?」
「襲うも何も、【幻死】を喰らわせれば同じ結果にしかならないさ。上からも下からも漏らして気絶。念入りに刷り込んでやったからか、少し威圧しただけで漏らすようになったぞ? あれじゃあ、2度とスラムでデカい顔は出来ないな」
「そんな事をしてたんですね。こっちは最悪でしたよ。誰かさんの所為で酒場の中が物凄く臭いんです。その所為で食欲も無くなって……さっさと戻ってきました。だいたい店の中が糞尿まみれなんですよ? 食事なんて出来ません」
「あっちゃー。そりゃスマン。子供達をどうこうと言われてカチンときたんでな。周りの連中もヘラヘラしてやがったし、こりゃちょっと潰しておくかと思ってやったんだよ。酒場の歌手とウチのメンバーだけには喰らわせてないけどな」
「そういえば、酒場の歌手はすぐに居なくなりましたよ? あれもアルドさんの所為じゃないんですか?」
「違う、違う。そもそもあの女性、ドラゴンだったぞ?」
「「「は?」」」




